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復学
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朝、少し早めに起きた私は調理場へ向かう。アダルベルト殿下のお礼にクッキーを作るつもりなのだ。貴族令嬢ではあるけれど、お母様もたまにおやつを手作りしてくれるのを見ていたので、調理場に立つことに抵抗は全くない。コックたちが困るくらいだろう。
「綺麗に焼けたわ」
今日は市松模様のクッキーにした。プレーンとココアのマッチングがたまらない。
すると、アダルベルト殿下が来たと知らせが入った。慌てて出迎える。
「おはよう、そして誕生日おめでとう、サーラ」
ピンクと赤の大きなバラの花束を抱えてやって来た殿下は、開口一番にそう言った。
「ありがとうございます、アダルベルト殿下」
摘みたてなのか、瑞々しいバラは存在をアピールするようにいい香りを放っていた。
「いい香り」
「でしょ。私が摘んだんだ」
「え?殿下がですか?」
一国の王子にそんな事をさせてしまうなんて。そう思ったのも束の間、殿下が笑いながら私の頭を撫でた。
「私がしたくてしたんだからね。気にしてはいけないよ」
「……はい。あ、あの、昨日は助けて下さって本当にありがとうございました」
ペコリと頭を下げると、何故か殿下の顔が赤くなった。
「えっと……サーラは私がどうやって助けたかは……わかってない、よね」
どうやって?そういえば、何か柔らかくて暖かいもので口を何度が塞がれたっけ。
「はい。口を何かで塞がれたのはわかっているのですが」
「ああ、そう。そうだね。いいんだ、わかってないならいいんだよ」
焦った様子の殿下に首を傾げてしまう。
「あ、私は今日から学園に復帰するんだ。だから帰って来たらもう一度お祝いさせてくれないか?」
制服を着ているからそうだと思っていた。
「……私も、学園に行きます」
焦ったのは後ろに控えていた侍女たちだった。
「お嬢様、体調はよろしいのですか?」
「もう一日くらいはお休みになっても……」
「体調は良くなったし、家にいても特にやる事はないし……やっぱり学園に行くわ」
「ふふ、なら行ってらっしゃい」
後押ししてくれたのはお母様だった。
「ただし、少しでも体調が悪くなったら帰って来るのよ」
「はい、ありがとう。お母様」
「ならば、私の馬車で一緒に行こう。どうせ帰りもサーラの屋敷に寄るつもりだったのだからちょうどいいだろう」
「そうですわね。殿下が娘を見ていて下さるなら心強いですわ」
「任せてください。授業以外はずっと一緒にいますよ」
「まあ、ありがとうございます」
私を抜きに会話が進んでいるが、着替えねばならない私は侍女と共に部屋に向かった。
「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい。殿下も。帰りをお待ちしておりますよ」
「はい、いってまいります」
殿下のエスコートで馬車に乗り込む。王家の紋章の入った馬車は、中も落ち着いた雰囲気で乗り心地が良かった。
「あの、アダルベルト殿下」
「ん?どうしたの?」
「私、昨日のお礼にクッキーを作ったんです。良かったら貰ってくださいませんか?」
「サーラが作ったの?」
金色の瞳が大きく見開いた。
「はい、そうです」
「私の為に?」
「はい」
「……ヤバい」
「はい?」
よく聞こえなかった。
「いや、なんでもない。凄く嬉しいよ。ならば、お昼にでも一緒に食べないか?迎えに行くから食事を一緒にしよう。と、いうか、今日はずっと一緒にいるのだからいつ食べてもいいか。どうせなら少しずつ味わって食べたいし」
「殿下、せっかく久しぶりに学園に行くのですから私などに構わなくても……」
1年以上ぶりの学園だ。会って話したい友人などもいるだろう。
「だぁめ。今日は病み上がりの君をしっかり見ていると、夫人とも約束したのだからね。それとも、私と一緒は嫌かな?」
「そんな訳はありません。殿下がいらっしゃるから学校へ行こうと思えたのですから。ただ、私の面倒ばかりで申し訳なくて……」
俯いてしまった私を優しく呼ぶ殿下。
「サーラ。私はね、隣国に行っている間、君からの手紙を楽しみにしていたんだ。一方的に送った私の手紙なんて読んでいないと思っていたから、返事をもらった時は本当に嬉しかった。サーラは私の一番大事な人だよ。私が好きで構ってるんだ。わかったかい?」
「はい、ありがとうございます。殿下の手紙はとても楽しかったです。いつか私も隣国に行ってみたい、そう思いました」
「じゃあ、機会があったら行こう、一緒に」
「はい」
そんな機会はきっとないけれど、そう誘ってくれた殿下の心が嬉しかった。
「綺麗に焼けたわ」
今日は市松模様のクッキーにした。プレーンとココアのマッチングがたまらない。
すると、アダルベルト殿下が来たと知らせが入った。慌てて出迎える。
「おはよう、そして誕生日おめでとう、サーラ」
ピンクと赤の大きなバラの花束を抱えてやって来た殿下は、開口一番にそう言った。
「ありがとうございます、アダルベルト殿下」
摘みたてなのか、瑞々しいバラは存在をアピールするようにいい香りを放っていた。
「いい香り」
「でしょ。私が摘んだんだ」
「え?殿下がですか?」
一国の王子にそんな事をさせてしまうなんて。そう思ったのも束の間、殿下が笑いながら私の頭を撫でた。
「私がしたくてしたんだからね。気にしてはいけないよ」
「……はい。あ、あの、昨日は助けて下さって本当にありがとうございました」
ペコリと頭を下げると、何故か殿下の顔が赤くなった。
「えっと……サーラは私がどうやって助けたかは……わかってない、よね」
どうやって?そういえば、何か柔らかくて暖かいもので口を何度が塞がれたっけ。
「はい。口を何かで塞がれたのはわかっているのですが」
「ああ、そう。そうだね。いいんだ、わかってないならいいんだよ」
焦った様子の殿下に首を傾げてしまう。
「あ、私は今日から学園に復帰するんだ。だから帰って来たらもう一度お祝いさせてくれないか?」
制服を着ているからそうだと思っていた。
「……私も、学園に行きます」
焦ったのは後ろに控えていた侍女たちだった。
「お嬢様、体調はよろしいのですか?」
「もう一日くらいはお休みになっても……」
「体調は良くなったし、家にいても特にやる事はないし……やっぱり学園に行くわ」
「ふふ、なら行ってらっしゃい」
後押ししてくれたのはお母様だった。
「ただし、少しでも体調が悪くなったら帰って来るのよ」
「はい、ありがとう。お母様」
「ならば、私の馬車で一緒に行こう。どうせ帰りもサーラの屋敷に寄るつもりだったのだからちょうどいいだろう」
「そうですわね。殿下が娘を見ていて下さるなら心強いですわ」
「任せてください。授業以外はずっと一緒にいますよ」
「まあ、ありがとうございます」
私を抜きに会話が進んでいるが、着替えねばならない私は侍女と共に部屋に向かった。
「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい。殿下も。帰りをお待ちしておりますよ」
「はい、いってまいります」
殿下のエスコートで馬車に乗り込む。王家の紋章の入った馬車は、中も落ち着いた雰囲気で乗り心地が良かった。
「あの、アダルベルト殿下」
「ん?どうしたの?」
「私、昨日のお礼にクッキーを作ったんです。良かったら貰ってくださいませんか?」
「サーラが作ったの?」
金色の瞳が大きく見開いた。
「はい、そうです」
「私の為に?」
「はい」
「……ヤバい」
「はい?」
よく聞こえなかった。
「いや、なんでもない。凄く嬉しいよ。ならば、お昼にでも一緒に食べないか?迎えに行くから食事を一緒にしよう。と、いうか、今日はずっと一緒にいるのだからいつ食べてもいいか。どうせなら少しずつ味わって食べたいし」
「殿下、せっかく久しぶりに学園に行くのですから私などに構わなくても……」
1年以上ぶりの学園だ。会って話したい友人などもいるだろう。
「だぁめ。今日は病み上がりの君をしっかり見ていると、夫人とも約束したのだからね。それとも、私と一緒は嫌かな?」
「そんな訳はありません。殿下がいらっしゃるから学校へ行こうと思えたのですから。ただ、私の面倒ばかりで申し訳なくて……」
俯いてしまった私を優しく呼ぶ殿下。
「サーラ。私はね、隣国に行っている間、君からの手紙を楽しみにしていたんだ。一方的に送った私の手紙なんて読んでいないと思っていたから、返事をもらった時は本当に嬉しかった。サーラは私の一番大事な人だよ。私が好きで構ってるんだ。わかったかい?」
「はい、ありがとうございます。殿下の手紙はとても楽しかったです。いつか私も隣国に行ってみたい、そう思いました」
「じゃあ、機会があったら行こう、一緒に」
「はい」
そんな機会はきっとないけれど、そう誘ってくれた殿下の心が嬉しかった。
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