巻き戻り令嬢は長生きしたい。二度目の人生はあなた達を愛しません

せいめ

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一度目の話

助け

 血を吐くなんて、ただの貧血とは思えない。
 疑いたくはないけれど、何かがおかしい。

「奥様、この邸にいてはダメですわ。
 逃げましょう。」

「シェリー、アデル。…ごめんなさい。
 王命で結婚したから、何とか上手くやらなくてはと思って、自分の感情を押し殺して我慢していたけれど…。もう限界のようだわ。
 体が悲鳴を上げて目が覚めたわ。ここに私はいるべきではない。」

 ここまで具合が悪くなってから気付くなんて、なんて情けない。

「奥様、ルーク様に助けを求めましょう!」

 シェリーは真顔で義兄のことを言うが…

「お義兄様に?お義兄様は忙しいし、私はお義兄様に頼ることが許されるほどの仲ではなかったわ。
 急ぎでお父様とお母様に手紙を書いて…、あ…、今は領地ね。
 しかも、あのメイド長達が貴女たちを見張っているならば、手紙は握り潰される可能性があるわ。
 どうすれば……」

「奥様。私達は奥様がこの邸に引っ越す直前に、義妹を頼むとルーク様から言われてきました。何かあったら遠慮せずに、ルーク様にお知らせるようにとも話されていましたわ。
 ルーク様は奥様を大切な義妹として見て下さっていますわよ。」

 義兄が…?

「奥様は最近お痩せになったので、パジャマのサイズがどれも合わなくなっております。私が今から、ロクシー商会に直接行って買って来ますわ。」

 ロクシー商会は実家の侯爵家で贔屓にしていた商会だ。
 あそこでしか取り扱っていない商品があるから、この公爵家に嫁いだ後も、時々、シェリーとアデルに買い物に行ってもらっていた。
 実家の侯爵家に行くと言うと、怪しまれて足止めされてしまうかもしれないが、ロクシー商会に行くと言えば怪しまれないだろう。
 ロクシー商会の従業員も、みんな信頼できる者ばかりだから、助けを求めることも出来そうだ。

「シェリー、一人で大丈夫?」

「はい。私が買い物に行って来ます!
 アデル、奥様を頼んだわよ。」

「任せてください!!」


 シェリーは、いつものように買い物すると言って、公爵家の使用人用の馬車で出掛けて行った。
 しかし私は不安だった。馬車の御者が誰なのか知らないが、もし、メイド長の息のかかった者であったら、侯爵家に行くことは出来ないと思うし、もしかしたら、シェリーが危険な目に遭うかも知れないのだ。

 ロクシー商会に行って帰って来るだけなら、一時間半あれば帰ってこれるのに、シェリーは三時間経っても戻って来なかった。もしかして、御者に上手く言って、直接侯爵家に行くことが出来た?でも侯爵家に行ったとしても、こんなに時間はかからないはず…。
 いつもの倍以上の時間が掛かっても戻らないとなると、何か事件に巻き込まれたのかと不安になる。

「奥様、きっとシェリーは戻って来ます!
 信じて待ちましょう。」

「ゲホっ…。そ、そうね…。」


 そしてシェリーが出掛けて、四時間近く経つころ…


 部屋の外が騒がしいことに気付く。複数の足音にメイド達らしき者の声。

 そして、この部屋の扉をノックする音がする。
 ドアが開いて入って来たのは…

「シェリー…。」

「奥様、お待たせしてしまい申し訳ありません。
 ルーク様が迎えに来てくださいました。」

 義兄が来てくれた?

 シェリーが声を掛けると、義兄が部屋に入って来た。
 本当に来てくれた…

「アナ…。待たせて悪かったな。
 筆頭公爵家に私の身分では勝手に立ち入ることは難しいから、殿下に力を貸してもらうことにしたんだが、少し時間が掛かってしまってな…。
 ここは殿下が寄越してくれた王宮騎士団が調査してくれるようだから、私達は家に帰ろう。」

「殿下が?」

「そうだ。ずっと社交に出て来ない君を、殿下なりにずっと心配していたんだ。
 だから事情を話したら、すぐに協力してくれることになった。」

「そうでしたか…。ご迷惑をお掛けしてしまいましたね。」

「なぜ迷惑なんだ?元々、王家の事情に振り回されたのはアナなんだから、これくらいのことは気にする必要はない。」

 義兄はこんな風に優しく微笑む人だったのね…

「お…、お義兄様…、迎えに来て下さってありがとうございます。」

「家族なんだから、当然だろう。
 ほら、急いで帰って、侯爵家の侍医に診てもらおう。
 ………アナ?もしかして、歩けないのか?」

 優しい表情が一瞬にして険しくなる。

「お恥ずかしいのですが、最近、体力が落ちてしまったようでして…」

「分かった。私が抱き抱えていく。」

 義兄は軽々と私を抱き抱えて、馬車まで運んでくれた。

 公爵家の玄関ホールには、使用人達が集められていて、王宮騎士団の騎士達から聞き取り調査をされているようだった。
 その中には、メイド長達もいたようだった。

 公爵家の使用人達を見たのはそれが最後だった。
 私はその後、二度とこの邸に戻って来ることはなかったからだ。




 

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