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一度目の話
毒
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実家の侯爵家に戻ると、私の姿を見たメイド達が涙を流していた。私は相当心配されていたようだ。
「アナスタシア様、お帰りなさいませ。
スミス先生がお待ちになっていますので、すぐに診察して頂けます。」
家令のセバスチャンが私を迎えてくれた。
セバスチャンの顔を見ると、実家に帰って来たと実感できるのよね。
「突然帰って来てしまってごめんなさい。
すぐに診察をお願いしたいわ。」
「畏まりました。」
すぐにスミス先生が診察をしてくれたのだが、
「まずは侯爵閣下に病状を説明させて頂きますね。」
昔からスミス先生には何度も診察してもらってきた。だから私は、先生がそんなことを言うのはおかしいことに気付いてしまったのだ。
「先生。私は覚悟は出来ています。私にもお話を聞かせて下さいませんか?」
先生は一瞬だけ沈黙する。そして…
「分かりました。」
義兄は病状を説明すると言うと、すぐに来てくれた。
スミス先生の見立てでは、私は毒を盛られていたのだろうと言うことであった。具合が悪くなり始める少し前くらいから、遅延性の毒を少しずつ盛られていたのだろうと。
ショックで言葉を失う私。
しかし義兄は、
「先生、何とか治療方法はないのでしょうか?
アナが助かるならいくらでも支払います。どうかアナを助けてください。大切な義妹なのです。
よろしくお願いします!」
「毒に詳しい医師に相談をしてみます。
しかし遅延性の毒は、ジワジワと体を蝕んでいくのが恐ろしいのです。今後さらに症状が重くなる可能性があるということを覚悟して頂きたいのです。
勿論、最善は尽くします。」
覚悟はしているつもりでいた。でも治るのが難しいという現実を知ると、体から力が抜けて何も考えられない。
「アナ…、スミス先生を信じよう。きっと何とかしてくれるはずだ。
今日はアナが好きなものを用意してもらおう。美味しい物を食べれば、少しは元気が出るはずだ。」
「お兄様、ありがとうございます。
でも……、今日は一人にして頂けますか?」
「……分かった。
何か必要な物があれば、何でも言ってくれ。」
「はい。ご配慮ありがとうございます。」
私は毒を盛られるくらい恨まれていたの?
旦那様?バーカー子爵令嬢?いや…、メイド長かしら?
でも、犯人が誰であろうとも、もう公爵家には戻りたくはない。
翌日、落ち込む私に、義兄は驚くべきことを教えてくれた。
昨夜、私が休んだ後に、公爵家を調査していた王宮騎士団長が急遽やって来て、調査結果を報告してくれたらしい。
私がひどい体調不良であるにもかかわらず、まともな治療をしてもらえていないと聞いたお義兄様と殿下は、すぐに毒を疑い、証拠隠滅されないように、私の保護と、邸にいる使用人達の取り調べを同時にやるようにと王宮騎士団に命令したらしい。
使用人達の部屋の中まで細かく調べ、怪しい者には自白剤まで飲ませて、厳しく取り調べをしたとか。
そして分かったのは、メイド長が私に毒を盛っていたということであった。メイド長の部屋から、怪しい薬が発見され、公爵家の侍医もメイド長に協力していたようで、二人は騎士団が拘束して、更に厳しく取り調べをすることになったらしい。
「あのメイド長は、バーカー子爵令嬢から、公爵夫人になれるように協力してくれたら、今の倍の給金にすると言われていたらしい。他の一部の使用人達も、同じようにバーカー子爵令嬢から言われていたようだ。
メイド長は夫が作った多額の借金があり、金に困っていたようだ。
バーカー子爵令嬢は、協力しろとは言ったが、具体的に指示をした訳ではないようだから、罪には問えないらしい。」
「バーカー子爵令嬢は、毒を盛ったことには無関係でしたのね。
良かった…。」
愛する人が捕らえられたら、旦那様が可哀想だわ。
あんな性格の悪そうな女でも、旦那様は大切にされているのだろうから。
私とはタイプの違う、可愛らしい令嬢だった…。
「アナ?バーカー子爵令嬢がメイド長や使用人達を誑かしたのだから、直接、アナに危害を加えていなくても、私はバーカー子爵令嬢も罪人と変わらないと思うぞ。
全然良くない!」
義兄は私のために怒ってくれているのだろうか?
「お義兄様。バーカー子爵令嬢と旦那様は幼馴染で、愛し合う仲らしいですわ。私は二人の仲を引き裂く邪魔者でしかなかったのです。」
「…アナ?何を言っているんだ?」
「王命で結婚した私を、旦那様は妻として大切にはしてくれましたが、そこに愛はありませんでした。
私はこんな体になってしまい、今後公爵夫人としての責務を果たすことは難しいでしょう。
王命での結婚でしたので、離縁するのは難しいのは理解していますが、私は今すぐにでも離縁したいと思っています。
お義兄様。侯爵家に迷惑をかけてしまうことを、どうかお許し下さい。」
「迷惑だなんてことを口にするべきではない!アナは良くやっていたし、何も悪くない。何も心配しなくていいから、自分の体を治すことを第一に考えるんだ。
離縁の件は、私から陛下に頼んでみる。」
「お義兄様、ありがとうございます。」
「アナスタシア様、お帰りなさいませ。
スミス先生がお待ちになっていますので、すぐに診察して頂けます。」
家令のセバスチャンが私を迎えてくれた。
セバスチャンの顔を見ると、実家に帰って来たと実感できるのよね。
「突然帰って来てしまってごめんなさい。
すぐに診察をお願いしたいわ。」
「畏まりました。」
すぐにスミス先生が診察をしてくれたのだが、
「まずは侯爵閣下に病状を説明させて頂きますね。」
昔からスミス先生には何度も診察してもらってきた。だから私は、先生がそんなことを言うのはおかしいことに気付いてしまったのだ。
「先生。私は覚悟は出来ています。私にもお話を聞かせて下さいませんか?」
先生は一瞬だけ沈黙する。そして…
「分かりました。」
義兄は病状を説明すると言うと、すぐに来てくれた。
スミス先生の見立てでは、私は毒を盛られていたのだろうと言うことであった。具合が悪くなり始める少し前くらいから、遅延性の毒を少しずつ盛られていたのだろうと。
ショックで言葉を失う私。
しかし義兄は、
「先生、何とか治療方法はないのでしょうか?
アナが助かるならいくらでも支払います。どうかアナを助けてください。大切な義妹なのです。
よろしくお願いします!」
「毒に詳しい医師に相談をしてみます。
しかし遅延性の毒は、ジワジワと体を蝕んでいくのが恐ろしいのです。今後さらに症状が重くなる可能性があるということを覚悟して頂きたいのです。
勿論、最善は尽くします。」
覚悟はしているつもりでいた。でも治るのが難しいという現実を知ると、体から力が抜けて何も考えられない。
「アナ…、スミス先生を信じよう。きっと何とかしてくれるはずだ。
今日はアナが好きなものを用意してもらおう。美味しい物を食べれば、少しは元気が出るはずだ。」
「お兄様、ありがとうございます。
でも……、今日は一人にして頂けますか?」
「……分かった。
何か必要な物があれば、何でも言ってくれ。」
「はい。ご配慮ありがとうございます。」
私は毒を盛られるくらい恨まれていたの?
旦那様?バーカー子爵令嬢?いや…、メイド長かしら?
でも、犯人が誰であろうとも、もう公爵家には戻りたくはない。
翌日、落ち込む私に、義兄は驚くべきことを教えてくれた。
昨夜、私が休んだ後に、公爵家を調査していた王宮騎士団長が急遽やって来て、調査結果を報告してくれたらしい。
私がひどい体調不良であるにもかかわらず、まともな治療をしてもらえていないと聞いたお義兄様と殿下は、すぐに毒を疑い、証拠隠滅されないように、私の保護と、邸にいる使用人達の取り調べを同時にやるようにと王宮騎士団に命令したらしい。
使用人達の部屋の中まで細かく調べ、怪しい者には自白剤まで飲ませて、厳しく取り調べをしたとか。
そして分かったのは、メイド長が私に毒を盛っていたということであった。メイド長の部屋から、怪しい薬が発見され、公爵家の侍医もメイド長に協力していたようで、二人は騎士団が拘束して、更に厳しく取り調べをすることになったらしい。
「あのメイド長は、バーカー子爵令嬢から、公爵夫人になれるように協力してくれたら、今の倍の給金にすると言われていたらしい。他の一部の使用人達も、同じようにバーカー子爵令嬢から言われていたようだ。
メイド長は夫が作った多額の借金があり、金に困っていたようだ。
バーカー子爵令嬢は、協力しろとは言ったが、具体的に指示をした訳ではないようだから、罪には問えないらしい。」
「バーカー子爵令嬢は、毒を盛ったことには無関係でしたのね。
良かった…。」
愛する人が捕らえられたら、旦那様が可哀想だわ。
あんな性格の悪そうな女でも、旦那様は大切にされているのだろうから。
私とはタイプの違う、可愛らしい令嬢だった…。
「アナ?バーカー子爵令嬢がメイド長や使用人達を誑かしたのだから、直接、アナに危害を加えていなくても、私はバーカー子爵令嬢も罪人と変わらないと思うぞ。
全然良くない!」
義兄は私のために怒ってくれているのだろうか?
「お義兄様。バーカー子爵令嬢と旦那様は幼馴染で、愛し合う仲らしいですわ。私は二人の仲を引き裂く邪魔者でしかなかったのです。」
「…アナ?何を言っているんだ?」
「王命で結婚した私を、旦那様は妻として大切にはしてくれましたが、そこに愛はありませんでした。
私はこんな体になってしまい、今後公爵夫人としての責務を果たすことは難しいでしょう。
王命での結婚でしたので、離縁するのは難しいのは理解していますが、私は今すぐにでも離縁したいと思っています。
お義兄様。侯爵家に迷惑をかけてしまうことを、どうかお許し下さい。」
「迷惑だなんてことを口にするべきではない!アナは良くやっていたし、何も悪くない。何も心配しなくていいから、自分の体を治すことを第一に考えるんだ。
離縁の件は、私から陛下に頼んでみる。」
「お義兄様、ありがとうございます。」
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