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一度目の話
もし来世があるならば
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お義兄様は、私の離縁を願い出るために、すぐに陛下に謁見の申込みをしてくれた。
元々、義兄が優秀過ぎるのは知っていた。
どうやって陛下を説得したのかは分からないが、謁見から戻って来た義兄から言われたのは、陛下が離縁を許可してくれたということであった。
しかも、離縁は夫婦二人の同意がなければ成立しないものなのだが、今回は特例で、陛下と義両親の同意で私達の離縁を成立させてくれたのである。
「アナ。離縁が成立したが、公爵家にあるアナの私物はどうする?」
大切な物はアデルが持って来てくれたから、公爵家にある物は要らない物だけだった。旦那様に貰った物が沢山置いてあったと思うが、もう見たくもない。
「私の物が残されていたら、後妻に入る方に失礼になりますので、宝石以外は引き上げて処分して構いません。
結婚指輪はお返しした方がいいと思いますので、これは公爵家の家令に預けてきてもらえますか?」
結婚指輪を外して義兄に渡す。
「分かった。家令に渡しておく。
今から私がメイドと騎士達を連れて、荷物を引き上げてくる。」
「よろしくお願いします。」
仕事の早い義兄は、その日のうちに荷物を引き上げて、全て処分してしまった。
これで綺麗さっぱりしたわね。
元夫になったブレア公爵様は、来月に帰国する予定になっていたから、公爵様が帰国する前に全て終わらせることが出来て良かった。
もう公爵様に会うことはないだろう。
「アナ。体調が落ち着いたら、一緒に領地に帰ろう。
元々アナは侯爵領が好きだったのだし、幼い頃は、木登りをしたり、川で遊んだりと伸び伸びと過ごしていただろう?
侯爵領でしばらくは自由に過ごせばいい。それに飽きたら、私の領地経営の手伝いをしてもいいし、誰か思う者が出来たら、結婚してもいいと思う。
アナは今までよく頑張ってきたのだから、多少の我儘は私が許す。
だから早く元気になれ。」
義兄のその言葉は、弱った私の心に染み入るものであった。
「……っ。…ありがとうございます。」
スミス先生は毒に効果が期待出来るという薬を色々と取り寄せてくれたのだが、体調が良くなることはなく、私は日に日に具合が悪くなっていき、体を起こすことも、何かを食べることも難しいくらいになっていた。
「…お兄様。…わ…たしは、大丈…夫です。
だ…から、早…く、執務に…お戻りく…ださ…い。
ゲホっ…。」
「今はそんなに忙しくないから大丈夫だ。
アナ…、何か欲しいものはないか?
食べたい物でも、欲しい物でも何でも言うんだ。」
「特に…あり…ま…せんわ。」
義兄は侯爵位を引き継いで、仕事が忙しいはずなのに、私の側についていることが多くなった。
私はそれくらい具合が悪く見えているということなのね。
恐らく私はもう長くない。陛下もそのことを聞いていたから、離縁を認めてくれたのかもしれない。
私の人生って何だったのだろう…?
大好きな殿下のために、血の滲むような王妃教育を頑張ってきたのに、あっさり婚約解消になって、殿下の側近に押し付けられるように結婚させられて…。
殿下とは婚約者に選ばれてから、一緒の時間を過ごすようになって、そこから殿下の優しい人柄に惹かれて大好きになったけれど、元々は私が望んで婚約者になったわけではない。
殿下の婚約者に選ばれてから、他の令嬢に僻まれたり、友人達や家族と過ごす時間が減ったりと、孤独を感じることは沢山あった。
殿下と婚約していなければ、ブレア公爵様と王命で結婚させられることはなかっただろうし、ブレア公爵様と結婚しなければ、毒を盛られることもなかっただろう。公爵様とバーカー子爵令嬢の邪魔をすることもなかった。
あの二人に関わらないで生きていたら、また違った人生があったのかな…?
今世ではあの人達と関わったことが全ての元凶だった。もし来世があるならば、あの人達とは絶対に関わらない。絶対にね!!
それよりも、こんな私を見捨てることなく面倒を見てくれた義兄には感謝したい。
公爵家から保護されて二週間くらい経つ頃、私の体は回復することなく、ただ死を待つような状態になっていた。
「アナ…。国王陛下がこの国一番の名医を派遣してくれることになった。だから、もう少し頑張るんだ。
義父上も義母上もアナを心配して、急いで領地から戻ってくるらしいぞ。早く元気になって、驚かせてやろう。」
あの義兄が優し過ぎる。
いつもは人を寄せ付けないような雰囲気で、隙の無い完璧な義兄なのに、死にゆく私の手を握り、涙目になっているわ。
いや…。私が知らなかっただけで、義兄は元からこんな風に優しい人だったのかもしれない。
まさか、毒で死ぬ直前になって義兄の優しさに気付くなんてね…。
「…お…義兄様…、ありが…とう。
つ…ぎに、ま…た人生が…あるなら、お義兄様…に…あい…たい…わ…ゲボっ、ゲボっ、ゲボっ…」
私はそのまま意識を失った…
元々、義兄が優秀過ぎるのは知っていた。
どうやって陛下を説得したのかは分からないが、謁見から戻って来た義兄から言われたのは、陛下が離縁を許可してくれたということであった。
しかも、離縁は夫婦二人の同意がなければ成立しないものなのだが、今回は特例で、陛下と義両親の同意で私達の離縁を成立させてくれたのである。
「アナ。離縁が成立したが、公爵家にあるアナの私物はどうする?」
大切な物はアデルが持って来てくれたから、公爵家にある物は要らない物だけだった。旦那様に貰った物が沢山置いてあったと思うが、もう見たくもない。
「私の物が残されていたら、後妻に入る方に失礼になりますので、宝石以外は引き上げて処分して構いません。
結婚指輪はお返しした方がいいと思いますので、これは公爵家の家令に預けてきてもらえますか?」
結婚指輪を外して義兄に渡す。
「分かった。家令に渡しておく。
今から私がメイドと騎士達を連れて、荷物を引き上げてくる。」
「よろしくお願いします。」
仕事の早い義兄は、その日のうちに荷物を引き上げて、全て処分してしまった。
これで綺麗さっぱりしたわね。
元夫になったブレア公爵様は、来月に帰国する予定になっていたから、公爵様が帰国する前に全て終わらせることが出来て良かった。
もう公爵様に会うことはないだろう。
「アナ。体調が落ち着いたら、一緒に領地に帰ろう。
元々アナは侯爵領が好きだったのだし、幼い頃は、木登りをしたり、川で遊んだりと伸び伸びと過ごしていただろう?
侯爵領でしばらくは自由に過ごせばいい。それに飽きたら、私の領地経営の手伝いをしてもいいし、誰か思う者が出来たら、結婚してもいいと思う。
アナは今までよく頑張ってきたのだから、多少の我儘は私が許す。
だから早く元気になれ。」
義兄のその言葉は、弱った私の心に染み入るものであった。
「……っ。…ありがとうございます。」
スミス先生は毒に効果が期待出来るという薬を色々と取り寄せてくれたのだが、体調が良くなることはなく、私は日に日に具合が悪くなっていき、体を起こすことも、何かを食べることも難しいくらいになっていた。
「…お兄様。…わ…たしは、大丈…夫です。
だ…から、早…く、執務に…お戻りく…ださ…い。
ゲホっ…。」
「今はそんなに忙しくないから大丈夫だ。
アナ…、何か欲しいものはないか?
食べたい物でも、欲しい物でも何でも言うんだ。」
「特に…あり…ま…せんわ。」
義兄は侯爵位を引き継いで、仕事が忙しいはずなのに、私の側についていることが多くなった。
私はそれくらい具合が悪く見えているということなのね。
恐らく私はもう長くない。陛下もそのことを聞いていたから、離縁を認めてくれたのかもしれない。
私の人生って何だったのだろう…?
大好きな殿下のために、血の滲むような王妃教育を頑張ってきたのに、あっさり婚約解消になって、殿下の側近に押し付けられるように結婚させられて…。
殿下とは婚約者に選ばれてから、一緒の時間を過ごすようになって、そこから殿下の優しい人柄に惹かれて大好きになったけれど、元々は私が望んで婚約者になったわけではない。
殿下の婚約者に選ばれてから、他の令嬢に僻まれたり、友人達や家族と過ごす時間が減ったりと、孤独を感じることは沢山あった。
殿下と婚約していなければ、ブレア公爵様と王命で結婚させられることはなかっただろうし、ブレア公爵様と結婚しなければ、毒を盛られることもなかっただろう。公爵様とバーカー子爵令嬢の邪魔をすることもなかった。
あの二人に関わらないで生きていたら、また違った人生があったのかな…?
今世ではあの人達と関わったことが全ての元凶だった。もし来世があるならば、あの人達とは絶対に関わらない。絶対にね!!
それよりも、こんな私を見捨てることなく面倒を見てくれた義兄には感謝したい。
公爵家から保護されて二週間くらい経つ頃、私の体は回復することなく、ただ死を待つような状態になっていた。
「アナ…。国王陛下がこの国一番の名医を派遣してくれることになった。だから、もう少し頑張るんだ。
義父上も義母上もアナを心配して、急いで領地から戻ってくるらしいぞ。早く元気になって、驚かせてやろう。」
あの義兄が優し過ぎる。
いつもは人を寄せ付けないような雰囲気で、隙の無い完璧な義兄なのに、死にゆく私の手を握り、涙目になっているわ。
いや…。私が知らなかっただけで、義兄は元からこんな風に優しい人だったのかもしれない。
まさか、毒で死ぬ直前になって義兄の優しさに気付くなんてね…。
「…お…義兄様…、ありが…とう。
つ…ぎに、ま…た人生が…あるなら、お義兄様…に…あい…たい…わ…ゲボっ、ゲボっ、ゲボっ…」
私はそのまま意識を失った…
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