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二度目の話

ご機嫌とり

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 天気の良いある日。

 私は今、侯爵家の無駄に広い庭の隅っこで、ゴミを燃やしている。

 侯爵令嬢の私がゴミを燃やすなんて普通ならあり得ないが、まだ10歳の私は、侯爵家の領地で生活している時は、割と自由にさせてもらっているのだ。


「あの…、お嬢様。こちらの本も燃やしてしまうのでしょうか?
 お嬢様が大好きな王子様が出てくる物語の本でしたよね?」

 ハンナが気まずそうに、私の好きだった本を見せてくる。

「そうよ。そんな本があるから、世の中の女の子達は、騙されてしまうのよ。
 王子様なんかと関わったら、碌なことはないわね。王子様に釣り合う女性になるために、求められることが多くて大変よ。王子様がカッコいいとか、お金持ちだとか、好きだとか…、そんな中途半端な気持ちで近づいたら、地獄を見るわね。
 爵位が高すぎる人との結婚もダメね。色々な女が寄ってくるし、隠れて愛人を持ったりするから苦労するわ。」

「お、お嬢様…。まるで経験されたかのような、冷めたような口調で話されますわね。」

「……わ、私ももう10歳よ。少しは現実を見るようになるわよ。
 その本も燃やすから、火の中に入れてちょうだい。」

「畏まりました。」

 本は高価な物だから、孤児院とかに寄付した方がいいのかもしれないけど、世の中の女の子達を騙すような物語の本なんて教育上良くないから、燃やすことにしたのだ。
 私の一度目の人生での経験を基にした物語でも書いてみようかしら。現実的でよっぽど面白いと思うの。
 男には気を付けろ・王子様なんていないってメッセージ性の高い物語とかね。

「お嬢様、これで本は全部ですわね。
 もうすぐルーク様のお茶の時間になりますし、火の始末は庭師達がやってくれるそうなので、そろそろ邸の中に戻りませんか?」

「あら、もうそんな時間なのね。
 煙の匂いが気になるし、軽く湯浴みして着替えたいから、急いで戻ろうかしら。」

「畏まりました。」



 お義兄様のお茶の時間は、私の一日で一番大切な時間だからね。



「アナ、今日も美味しいよ。アナの淹れてくれるお茶のおかげで、この後の勉強も頑張れそうだ。」

 義兄は今日も嬉しいことを言ってくれる。

 ハァー。何でこんないい人と一度目の人生では仲良く出来なかったのかしらね…。
 あの時の私を呪いたいくらいだわ。

「お義兄様がそう言って下さることが、私の一番の幸せですわ。
 この後も頑張って下さいませ。」

「勿論だ。アナの義兄として、学園に入学前に勉学だけは完璧にしておきたいからな。」

 フッと笑いかけてくれる義兄が眩しいわね。
 隙のない表情しか見たことがなかった義兄の笑った顔は、恐ろしいくらいの輝きを放っているわ。

「ふふっ!私も、優秀なお義兄様の義妹として、恥ずかしくない令嬢になれるように頑張りますわね。」

「そうか。それは楽しみだな。
 でも、侯爵令嬢が庭でゴミ燃やしはしてはダメだそ。」

 ……さすが義兄ね。広い庭の隅でこっそりゴミ燃やしをしていたことがバレていたようだわ。

「ふふ…。今後は気を付けますわ。」


 義兄とのお茶の時間を終えた私は、お父様の執務室に向かっていた。
 今日は、お父様とお母様とゆっくりとお話しがしたいと頼んでおいたからだ。


「アナ、そこに座りなさい。」


 執務室に来た私を両親は笑顔で迎えてくれた。両親は普通に私を可愛がってくれている、普通にいい両親なのだ。貴族にありがちな、乳母に全てお任せで、育児には全く関わらないというような両親ではない。


「失礼致します。
 お父様・お母様、今日は私のためにお時間をくださり、ありがとうございます。」

 ソファーに座る前に、両親にお礼の言葉を伝えるが…

「…アナ?最近、礼儀正しくなって、所作も洗練されたように見えるが?急にお姉さんになってしまったな。」

「ルークの家庭教師の先生方からもお褒めの言葉を頂いているわ。
 まだ10歳なのに、淑女のような美しい所作に、カーテシーも完璧、お茶を淹れる姿には見惚れてしまう程だと先生方が話されていたわよ。」

 一度目の時に、王妃教育で血の滲むような教育をされましたから。
 …なんて言えるはずはないわね。

「お母様の見よう見真似ですわ。
 さすが社交界の花と言われたお母様だわ!私、お母様みたいになりたいので、今後も頑張ります!」

「まあ!アナったら上手…。
 これからも頑張りなさいね。」

 ふふ…。一度目の人生と合わせると、今の私の年齢は今の両親とそんなに変わらない年齢だからね。
 両親のご機嫌とりもお手のものよ。



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