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二度目の話
閑話 私が死んだ後 5
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義兄side
私はコールマン侯爵家の分家である伯爵家の次男であった。上の兄とはひと回りも年が離れているので、可愛がってもらった記憶しかない。
私が物心つく頃には、兄は結婚していており、跡取りも生まれていた。
そんな私はコールマン侯爵家に養子に出されることになる。コールマン侯爵家には、爵位を継げる男児がいないらしく、後継者として私を迎えたいという話らしい。
養子に出される前、実の兄から言われた言葉がある。
自分が優秀だからと、他の者を見下すようなことがあってはならない。特に年の近い兄妹は、いい比較対象になるから、コールマン侯爵家で義妹ができるなら、良き義兄になれるように努力すべきだと教えてくれたのだ。
その時の私は、可愛がってくれた兄からの言葉をよく理解していたつもりでいた。
その後、義妹に会えることを楽しみに、私はコールマン侯爵家の養子になる。
義理の両親になるコールマン侯爵と夫人は、私をとても歓迎してくれたし、実の子供のように大切にしてくれた。
しかし義理の妹になるアナからは、壁のような物を感じていた。
私自身は、可愛い義妹が出来たことが嬉しかったので、仲良くしたいと思っていたのだが、年下の令嬢に関わったことのなかった私は、アナにどのように関わっていいのか分からなかった。
ある日私は、アナが家庭教師から掛けられている言葉を偶然聞いてしまった。
「お嬢様。貴女の義兄のルーク様はとても優秀なのに、お嬢様はまだまだダメですわね。
このままでは、不出来な貴女のせいで優秀なルーク様にまで迷惑がかかりますわよ!」
この女はなんて酷いことを!
この女豹はレベルの低い指導しか出来てないし、義父上に媚びてばかりだ。言葉遣いなんて聞いていて酷くて不愉快でしかない。
あれで淑女教育なんて出来ているのか疑問だったのだが…。
この女、クビにしてやろう。
未亡人で可哀想な家庭教師だからと、義父上が知り合いから紹介されたらしいが、アナやうちの侯爵家にとっては害虫でしかない。
しかし、アナにそんなことを言うのは家庭教師だけではなかった。
私や義両親に見えないところで、私と比べてアナをバカにするような言葉を投げかけている者がいるのだ。
その時に私は、実の兄の言葉を思い出した。
きっと兄はこのようなことになると予想して、私にあの話をしたに違いない。
アナはあんな風に言われ続けて、どんなに傷ついたのだろう?
私はただコールマン侯爵家のために努力をしただけで、偶然それが評価されただけなのに。そのことで、アナを攻撃する者がいるなんて考えていなかった。
アナに酷い言葉を浴びせていた、はしたない女豹の家庭教師は、アナに内緒でクビにしてもらい、アナを虐めていた者は義両親に報告して、コールマン侯爵家から抗議してもらった。
しかしその後も、私とアナとの距離を縮めることは出来なかった。
可愛らしいアナは、気付いた時には王太子殿下の婚約者に望まれ、厳しい王妃教育のために邸にいる時間が減り、顔を合わせる機会が減っていたのだ。
アナは難しいと言われる王妃教育を頑張っていると聞いた。
幼い頃は自由に育ち、お転婆で領地で伸び伸びと生活していたアナ。
そんなアナは、王妃教育を始めて二年が経つ頃になると、誰もが認める完璧な淑女になっていた。
しかし、王家の事情で婚約は解消され、愛し合っていた殿下とは泣いて別れてきた。
アナには今は辛くても、いつかは幸せになってもらいたいと強く望んでいた。
そのために私は、アナを一番近くで守っていきたいと考えていたのだが…。
アナの気持ちを無視した王命での婚姻なんて、私は始めから反対だった。
それでもアナは王命だからと、自分の感情を捨てて嫁いで行ったし、公爵夫人としての務めも完璧にこなしていたと聞く。
それなのに、この仕打ちは何なのだろう…
アナは、領地にある教会の墓地に埋葬されることなる。
この教会の隣にはアナがよく遊びに来ていた孤児院があり、子供達の元気な声が教会にまで聞こえてくるのだ。
ここならば、きっと寂しくはないだろう。
「…ルーク?泣いているの?」
埋葬を終え墓地に花を手向ける私に、義母が声を掛けてきた。
「まさか、アナの墓地に花を手向ける日が来るとは思ってもみませんでした。
私はアナの良き義兄になりたかった。もっと仲良くなりたかったのです。
これは後悔の涙ですね…。」
「ルークの涙は初めて見るわ。」
「そうですね…。
私は泣くどころか、無表情で取っ付きにくいと言われるくらいですから。」
「…アナは穏やかな表情で眠っていたわ。きっと、ルークが側にいてくれたからだと思うのよ。
私達も後悔ばかりだけど、アナの最期にルークが側にいてくれたということだけは、良かったと思っているわよ。
ルーク、今回は何から何までありがとう。
旦那様も私も、ルークにかなり助けられたわ。」
義父上も義母上も、最愛の娘を失くして苦しんでいるのだ。
だから…、私がアナのことで涙を流すのはこれで最後にしたいと思う。
「亡くなったアナのためにも、しっかりやっていきたいと思っています。
ですから…、義父上も義母上も喪が明ける前には元気になってくれないと困りますよ。
アナが悲しむでしょうからね。」
「そうね。アナが悲しむわね。」
「ああ…。そうだな。」
コールマン侯爵家のためにと、ずっと頑張ってきた私だが、大切な義妹のことは守れなかった。
もしやり直せるならば、今度こそ私がアナを守りたい。
私はずっとこのことを後悔して生きていくのだろう……
私はコールマン侯爵家の分家である伯爵家の次男であった。上の兄とはひと回りも年が離れているので、可愛がってもらった記憶しかない。
私が物心つく頃には、兄は結婚していており、跡取りも生まれていた。
そんな私はコールマン侯爵家に養子に出されることになる。コールマン侯爵家には、爵位を継げる男児がいないらしく、後継者として私を迎えたいという話らしい。
養子に出される前、実の兄から言われた言葉がある。
自分が優秀だからと、他の者を見下すようなことがあってはならない。特に年の近い兄妹は、いい比較対象になるから、コールマン侯爵家で義妹ができるなら、良き義兄になれるように努力すべきだと教えてくれたのだ。
その時の私は、可愛がってくれた兄からの言葉をよく理解していたつもりでいた。
その後、義妹に会えることを楽しみに、私はコールマン侯爵家の養子になる。
義理の両親になるコールマン侯爵と夫人は、私をとても歓迎してくれたし、実の子供のように大切にしてくれた。
しかし義理の妹になるアナからは、壁のような物を感じていた。
私自身は、可愛い義妹が出来たことが嬉しかったので、仲良くしたいと思っていたのだが、年下の令嬢に関わったことのなかった私は、アナにどのように関わっていいのか分からなかった。
ある日私は、アナが家庭教師から掛けられている言葉を偶然聞いてしまった。
「お嬢様。貴女の義兄のルーク様はとても優秀なのに、お嬢様はまだまだダメですわね。
このままでは、不出来な貴女のせいで優秀なルーク様にまで迷惑がかかりますわよ!」
この女はなんて酷いことを!
この女豹はレベルの低い指導しか出来てないし、義父上に媚びてばかりだ。言葉遣いなんて聞いていて酷くて不愉快でしかない。
あれで淑女教育なんて出来ているのか疑問だったのだが…。
この女、クビにしてやろう。
未亡人で可哀想な家庭教師だからと、義父上が知り合いから紹介されたらしいが、アナやうちの侯爵家にとっては害虫でしかない。
しかし、アナにそんなことを言うのは家庭教師だけではなかった。
私や義両親に見えないところで、私と比べてアナをバカにするような言葉を投げかけている者がいるのだ。
その時に私は、実の兄の言葉を思い出した。
きっと兄はこのようなことになると予想して、私にあの話をしたに違いない。
アナはあんな風に言われ続けて、どんなに傷ついたのだろう?
私はただコールマン侯爵家のために努力をしただけで、偶然それが評価されただけなのに。そのことで、アナを攻撃する者がいるなんて考えていなかった。
アナに酷い言葉を浴びせていた、はしたない女豹の家庭教師は、アナに内緒でクビにしてもらい、アナを虐めていた者は義両親に報告して、コールマン侯爵家から抗議してもらった。
しかしその後も、私とアナとの距離を縮めることは出来なかった。
可愛らしいアナは、気付いた時には王太子殿下の婚約者に望まれ、厳しい王妃教育のために邸にいる時間が減り、顔を合わせる機会が減っていたのだ。
アナは難しいと言われる王妃教育を頑張っていると聞いた。
幼い頃は自由に育ち、お転婆で領地で伸び伸びと生活していたアナ。
そんなアナは、王妃教育を始めて二年が経つ頃になると、誰もが認める完璧な淑女になっていた。
しかし、王家の事情で婚約は解消され、愛し合っていた殿下とは泣いて別れてきた。
アナには今は辛くても、いつかは幸せになってもらいたいと強く望んでいた。
そのために私は、アナを一番近くで守っていきたいと考えていたのだが…。
アナの気持ちを無視した王命での婚姻なんて、私は始めから反対だった。
それでもアナは王命だからと、自分の感情を捨てて嫁いで行ったし、公爵夫人としての務めも完璧にこなしていたと聞く。
それなのに、この仕打ちは何なのだろう…
アナは、領地にある教会の墓地に埋葬されることなる。
この教会の隣にはアナがよく遊びに来ていた孤児院があり、子供達の元気な声が教会にまで聞こえてくるのだ。
ここならば、きっと寂しくはないだろう。
「…ルーク?泣いているの?」
埋葬を終え墓地に花を手向ける私に、義母が声を掛けてきた。
「まさか、アナの墓地に花を手向ける日が来るとは思ってもみませんでした。
私はアナの良き義兄になりたかった。もっと仲良くなりたかったのです。
これは後悔の涙ですね…。」
「ルークの涙は初めて見るわ。」
「そうですね…。
私は泣くどころか、無表情で取っ付きにくいと言われるくらいですから。」
「…アナは穏やかな表情で眠っていたわ。きっと、ルークが側にいてくれたからだと思うのよ。
私達も後悔ばかりだけど、アナの最期にルークが側にいてくれたということだけは、良かったと思っているわよ。
ルーク、今回は何から何までありがとう。
旦那様も私も、ルークにかなり助けられたわ。」
義父上も義母上も、最愛の娘を失くして苦しんでいるのだ。
だから…、私がアナのことで涙を流すのはこれで最後にしたいと思う。
「亡くなったアナのためにも、しっかりやっていきたいと思っています。
ですから…、義父上も義母上も喪が明ける前には元気になってくれないと困りますよ。
アナが悲しむでしょうからね。」
「そうね。アナが悲しむわね。」
「ああ…。そうだな。」
コールマン侯爵家のためにと、ずっと頑張ってきた私だが、大切な義妹のことは守れなかった。
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