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二度目の話

閑話 私が死んだ後 7

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 王太子殿下side


「王太子殿下、ご無沙汰しておりました。」

「コールマン侯爵。このような場に急に呼び出してすまないな。
 どうしても、侯爵の力を貸して欲しいのだ。」

 側近であったフロスト卿の裏切りを知った今、私は自分の周りの側近を信用出来なくなっていた。
 そんな私が唯一信用できる男が、私の愛した元婚約者の義兄であるコールマン侯爵だった。

「殿下が護衛騎士一人のみを連れてこのような場所に私を呼び出すということは、側近にでも裏切られましたか?」

 相変わらず鋭いところを突いてくる男だ。

「悔しいがその通りだ。」


 私はデイジー王女の話を聞いてしまったことと、フロスト卿の裏切りなど全てを話した。


「アナが何度も暗殺者に狙われていたので、背後にいるのはうちの家門を恨む者か、殿下の婚約者を狙う者かと思い色々探ってはいましたが、隣国王女でしたか…。
 暗殺者に狙われたアナは、怪我をしてまで自分を守ってくれた護衛騎士達に、涙を流して謝っていたそうです。
 優しいアナを泣かせた者達を私は絶対に許さない。
 大切な義妹を悲しませた者達に報復する機会を下さった殿下に感謝いたします。」

 コールマン侯爵の顔は笑っていたが、目は笑っていなかった。

「殿下、私は隣国との取引もしておりますので、商人を使って色々調べてみましょう。
 フロスト卿と王女は監視をしつつ、泳がせておいて下さい。
 何か理由をつけて、婚姻を先延ばしにするのも面白いかもしれませんね。」

「コールマン侯爵、助かる。
 とりあえず、フロスト卿と王女の持っている避妊薬の中身はすでに変えておいた。しばらくは泳がせるつもりだ。」

「なるほど…。さすがです。
 では、私はしばらく国外を中心に動いでみましょう。」




 その日から約二ヶ月後、私とコールマン侯爵は王女とフロスト卿に断罪することになる。




「オーデン伯爵、急に呼び出して悪かった。
 どうしても伯爵に相談したいことがあったのだ。」

「いえ。王太子殿下の呼び出しにすぐに応じるのが、家臣の務めと心得ております。」

 白白しい男だ。

 オーデン伯爵は、私を裏切っていたフロスト卿の婚約者の父であり、フロスト侯爵家の派閥を支えている重要人物でもある。
 今日は、伯爵の娘の婚約者の本当の姿を見てもらうために呼び出したのだ。
 その他に、私の協力者であるコールマン侯爵、ブレア公爵、そして王宮騎士団長も呼んでいる。

 ブレア公爵には、公爵の元妻の暗殺を計画していた者が分かったので断罪することにしたと文で報告すると、その場に同席したいと強く望んだので、呼んでやることにしたのだ。
 予想はしていたが、コールマン侯爵とブレア公爵は目を合わせることすらしない。


 フロスト卿を監視させていた影の報告だと、今日は王女と密会する約束をしているらしい。どうやら、私に会議がある日に二人は逢瀬を重ねているようだった。
 密会場所になっているのは、王女が使用している客間の寝室。
 
 二人が逢瀬をしている時、王女の専属メイドが廊下で見張っているらしいが、すでに影が拘束済みだ。

「殿下…、どちらに行かれるのでしょう?」

 この中で唯一事情を知らないオーデン伯爵が、いつもと違う場所に向かっていることに気付いたようだ。

「伯爵、それは気にするな。ここからは静かにしてくれ。」

 王女の部屋の前に来ると、中から男女のまぐわう声が聞こえてきた。
 オーデン伯爵が不快な表情をしている。
 その表情を見た後に私達は、物音を立てないように部屋の中に乗り込んで行った。


「デイジー…、愛してます。
 ああ、私は永遠に貴女方だけのもの…」

「ああん。私もフロスト卿を愛しているわ。
 ああっ…。もっと…。」


 二人は私達に気付かず、盛り上がっているようだ。


「オーデン伯爵、二人は愛し合っているようだから、伯爵の令嬢との婚約は破棄してくれるか?」

 私は盛り上がっている二人に聞こえるように、伯爵に話しかけてやった。

「殿下…、このために私を呼んだのですね?
 ハハハ!これはやられましたな。
 分かりました。娘とは婚約破棄させて頂きます!」

「伯爵、理解してくれて感謝する。」

 私と伯爵の会話にハッとする二人。

「な、なぜ殿下が?」

「殿下、見ないで下さいませ!わ、私はこの男に脅されて…」

 慌てる二人だが、まぐわう現場を見られた以上はどうしようもなかった。

「コールマン侯爵。隣国の国王陛下から文を預かっていたのだよな?」

「はい。読ませて頂きます。
〝デイジー、お前とは兄妹の縁を切らせてもらう。
今後、我が国の王女の身分を名乗ることも、我が国の領土に入ることも許さない。〟
 と、書いてあります。国王陛下のサインもこちらに…」

 王女は裸のままで声を荒げる。

「嘘よ!私を溺愛するお父様がそんな手紙を書くわけないわ!
 同盟の為の結婚なのだから、私は殿下と結婚しなくてはならないのよ。
 これくらいのことは同盟を結ぶことを考えたら、大目に見るべきよ。お父様が黙ってないわ!」

 なんて見苦しい女だ…。

 そんな王女にコールマン侯爵が冷ややかに答える。

「何か誤解しているようですが、貴女様の父である前の国王陛下と貴女様の母であった側妃様は、馬車の事故でお亡くなりになられ、今は貴女様の兄である前の王太子殿下が国王陛下となられております。」

「……え?」

「新しく即位された国王陛下は、身持ちの悪い妹が迷惑をかけたと、謝罪までして下さった素晴らしいお方でした。
 殿下との婚姻の話は無くなりましたが、条件付きで同盟関係は維持して下さると約束までして下さりましたよ。」

 コールマン侯爵の完璧で隙のない笑顔は、美しいだけでなくとても恐ろしいのだ。

「お父様が死んだ…?お母様も?」

「あなたは王女ではなくなりましたが、隣国の国王陛下は、元王女の貴女が愛する人と結ばれるならば、我が国との同盟関係を維持してくれるそうです。」

「良かったな、デイジー殿。愛するフロスト卿と結婚が出来るぞ。
 フロスト侯爵家に使いをやっているから、フロスト卿も安心してくれ。二人が幸せになれることを祈っているよ。」

「…い、嫌よ!私は殿下の妻になるのよ!」
 
 裸で布団に包まる姿で叫ぶ元王女の隣にいるフロスト卿は、表情をなくしたまま動けなくなっていた。



 二人は騎士達が拘束して連れて行った。



 

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