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二度目の話

教科係

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 気まずいからと、ミルズ先生のいる部屋から早く退室しようとしたその時だった。


「…待ってくれ。」


 急に呼び止められる私。
 思わずビクッとしてしまう。


 何なの?怖い…


「その…、私こそ悪かったな。
 君がまだ幼かった時に、私は家庭教師として君に酷い態度を取ってしまった。
 これでもかなり後悔しているんだ。」


 ひぃー!今更謝られても怖いだけだから!


「い…、いえ。幼かったので、全て忘れました。
 先生が謝罪するようなことはなかったかと思いますわ。」

「……あの時、君の義兄君に言われてハッとした。
 私は教師として、大切なことを忘れていた。
 その後、何とかやり直したいと思って猛省してきたつもりだ。
 まだまだ教師としては未熟の私だが、どうかよろしく頼む。」


 よろしく頼まれちゃったわ…


 というか、お義兄様があの時に先生にガツンと言って改心させた結果、一度目の人生の時に貴族学園にはいなかったはずのミルズ先生が、今ここにいるってことなのね…。

 貴族学園の先生になるのは、相当難しいって聞いたことがある。
 生徒である貴族の子息達に侮られないようにと、ここの先生になると爵位がもらえるらしいから、爵位を引き継ぐことが出来ない、次男や三男に人気の職場らしいのよね。
 退職者が出た時にだけ採用募集をするけど、かなりの倍率になるって聞いたもの。


「…そんな怯えたような目で見られると、私でも流石に辛い。
 そうさせてしまったのは私なのは分かっている。
 これから、君に信頼してもらえるように頑張るよ。」


 バレていたのね…


「そんなつもりはなかったのですが、不快にさせてしまったなら、申し訳ありません。
 皆んながお慕いするミルズ先生と、私も仲良く出来ましたら嬉しく思いますわ。
 先生、これからもどうぞよろしくお願いいたします。」

「……仲良くなりたいのか?
 そうか!ならば、私の外国語の教科係を君にお願いしたい。」

「…えっ?」

「ちょうど教科係を決めたいと思っていたんだが、優秀なコールマン侯爵令嬢がやってくれるなら安心だ。
 授業の前に資料やノートを運ばなくてはいけないから、ここに来るようにしてくれ。

「き、教科係でしょうか…?」


 そんな面倒な係なんて、絶対にやりたくないわよ!
 余計なことを言わなければ良かったわ。


「ああ。ぜひ君に頼みたい。
 きっと、お互いの信頼関係を築くのに役に立つはずだし、仲良く出来ると思う。」


 あのミルズ先生が…、悪戯っ子のような表情をしている。


「ミルズ先生は、とても、とても…、とっても人気のある先生なのですわ。
 先生の教科係になりたい令嬢は沢山いますので、私がなる必要はないかと…。
 あっ、私の友人のチェルシー・クラーク伯爵令嬢なんてどうでしょうか?
 先生をとても尊敬していると普段からよく話をしていますし、先生のファンだとも言っておりました。
 彼女は真面目で成績優秀なだけでなく、知的な美人ですから目の保養にもなりますし、先生の教科係にピッタリですわ!」


 面倒なことが大嫌いな私は、ミルズ先生が大好きなチェルシーに、教科係を押し付けようとしたのだが…


「ぷっ…。君は……、そんなに教科係をやりたくないのか?」


 わ、笑っているわ!!
 この先生、笑えたの?
 

「いえ、そんなつもりでは。」

「じゃあ、君に頼むことにする。
 クラーク伯爵令嬢とは、先生と生徒として仲良く出来ているから、あえて教科係をお願いする必要はない。
 じゃあ、明日からよろしく頼んだ。」

「私では力不足かと思いますわ。」

「いや、適任だ。」


 ミルズ先生の笑顔からは圧力しか感じられなかった…







「アナ。ミルズ先生にお礼は伝えられた?
 ……どうしたの、その酷い顔は?」

「お礼は伝えられたけど、ミルズ先生の教科係をさせられることに決まってしまったのよ。
 私は、ミルズ先生の大ファンであるチェルシーを勧めたのに!
 やっぱりあの先生は苦手よ!
 ミルズ先生の授業は毎日あるから大変じゃないの!」

「アナ…、その大変な教科係を私に押し付けようとしたのね!」

「だってー、チェルシーはミルズ先生が好きでしょう?
 こういうことは、ミルズ先生を慕っている人がやった方がいいに決まっているわ。」

「ファンだと言ってちょうだい!
 しょうがないわね…。大変な時は手伝ってあげるわよ。」

「チェルシー、ありがとう!」

「アナは調子がいいんだから!
 考えてみると、ミルズ先生を慕っている令嬢が係をやると、他のファンの子達が抜け駆けをしたとか言って、僻んだりするかもしれないから、アナが教科係をやるのがちょうどいいのかもしれないわね。
 みんな、アナがミルズ先生に近寄らないくらい、苦手だということは分かっていると思うし。
 侯爵令嬢で学年トップのアナには、誰も文句は言えないだろうから。
 ミルズ先生も上手いこと考えたわね。」


 な…、なんて計算高い男なの!
 それより、私ってそんなに態度に出ていたかしら?


「私がミルズ先生が苦手なことを、みんなは気付いていたのかしら?」

「令嬢がみんなミルズ先生の話ばかりしていても、アナは乗り気ではなかったし、テスト前にミルズ先生が主催していた放課後の勉強会も、アナだけ不参加だったでしょ。
 しかも幼い頃からミルズ先生を知っていたのなら、今更カッコいいなんて感じるはずはないわよね。」

「そうね…。
 そのことによって、令嬢方の僻みの対象にならないなら良かったわ。」

「誰もアナには僻んだり出来ないわよ。いたとしても、ティアニー侯爵令息くらいね。
 大丈夫よ!」



 そして、次の日からミルズ先生の教科係として動くことになった私。



「ミルズ先生、おはようございます。
 今日からよろしくお願い致します。」


 ハァー。話をすることすら嫌なのに…


「コールマン侯爵令嬢。私こそ、今日からよろしく頼む。
 早速だが、授業でこれを使うから運んでもらえるか?」

「畏まりました。」


 外国語の担当だから、こんな分厚い辞書を毎回運ばされるのね…

 こんなのは、先生が自分でも運べるんじゃないのよ。
 毎日こうやってミルズ先生の所に行かなくてはいけないなんて…
 
 ああ…、面倒だわ!





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