86 / 102
二度目の話
閑話 ブレア公爵令息
しおりを挟む
父上と母上を交えてメイド長と話し合った結果、メイド長には、借金で没落した元田舎貴族を装って、街の食堂で働いてもらうことになった。
その食堂は、あの暗殺者組織に属している者達が常連で訪れることが分かっているので、メイド長にはそこで客と仲良くなるようにとだけ指示を出して働かせることにしたのだ。
私を殺したあの暗殺者は、公爵家の厳しい警備をすり抜けて、私の部屋までやって来た手練れの暗殺者だった。
あの暗殺者は、まともに戦うよりも毒殺する方が確実だろうし、暗殺者集団を壊滅させるには、先にあの手練れの暗殺者を消すことが重要だろう。
しかも、あの暗殺者の見た目は、普通にどこにでもいるような容姿をしていて、街で働く平民に混ざってしまったら、追跡が難しそうなのだ。だから、一発で仕留められそうな毒殺が一番だと考えた。
メイド長には、その食堂で暗殺者達と時間をかけて仲良くなってもらおう。
時期が来たら、メイド長が得意とする毒殺を頼むつもりでいる。もし失敗しても、メイド長が暗殺者に消されるだけなのだから問題ない。
それに向けて、公爵領で栽培されている薬草だけでなく、他国からも薬草や毒草を取り寄せて、新薬の開発や毒物の研究に力を入れることにした。
私は毒と分かりにくい毒物の開発と、どんな毒にも効果のある解毒剤が欲しかったのだ。
あの時シアは、遅延性の毒に苦しみながら息を引き取ったと聞いた。色々な解毒剤を試したが効果は効かなかったという。
今回は、絶対にシアを毒殺させないが、念のために解毒剤を開発しておきたい。あの時のように、シアを死なせることは絶対にさせない。
そして、私が死ぬ前に流行った病の薬の備蓄をしなくてはならない。
あの病は男子のみに感染するといわれ、あの時の王太子殿下も病で倒れられた。
バコの葉がこの病に効果があると分かった時には、沢山の人が亡くなった後だった。更にバコの葉の備蓄量が少なく、なかなか薬が行き渡らなくて大変だったのを覚えている。
今から沢山のバコを栽培しておけば、何とか間に合うはずだ。
忙しい日々を送っていたから、あっという間に私は13歳になっていた。
公爵家のことや、これから起きると思われることへの準備で忙しい私は、早々と王太子殿下の側近を辞退することに決めた。
その頃になると、シアの噂話を耳にするようになる。
〝コールマン侯爵家の兄妹は優秀らしい。〟
〝令嬢はすでに外国語を何カ国語も話せるらしい。〟
〝家庭教師達は二人を神童だと話していた。〟
巻き戻る前には、そんな噂話は聞いたことがなかった。
コールマン侯爵令息が優秀過ぎて、義妹のシアが出来ないと嘲笑う者はいたことは覚えている。
シアをよく知る者ならば、彼女が普通の令嬢よりもかなり優秀で、努力家の素晴らしい令嬢なのだと分かるのだ。
ただ比べる相手が、普通の人間とは思えない程に優秀過ぎるコールマン侯爵令息だから、そのように見えるだけ。
それなのに、今世のシアはコールマン侯爵令息と一緒の扱いで神童だと言われている…。
他の人物は、殿下以外は巻き戻る前と同じなのに。
もしかしたら殿下と一緒で、シアか義兄のコールマン侯爵令息も記憶持ちなのかもしれない…。
でも、記憶があってもなくても関係ない。早く彼女に逢いたい。
私が14歳になる年、王宮での茶会の日を迎える。
一度目の人生で私がシアに初めて会った日だ。
この日をどんなに待ちわびていたことか…
しかし、そこに現れたシアは、一度目の茶会とは違った動きをしていた。
記憶の中と同じで、可愛らしい雰囲気の美少女のシアを見て心が弾む私であったのだが、あの時とは違うドレスを着ていることに気がついてしまった。
そしてあの時に、一人でお菓子を食べていたシアは、今世では義兄と行動を共にしていた。
前は仲が良いとは言えない義兄妹だったはずなのに、今世の二人は誰が見ても仲が良さそうで、恋人同士のようだったのだ。
二人はコールマン侯爵令息の友人達とおしゃべりをして楽しそうな時間を過ごしていた。
このままでは、私はシアと話すら出来ないではないか。
焦っていた私が、花摘みに向かったシアを待っていると、シアは赤いドレスを着ていた令嬢三人に絡まれている。
三人は殿下狙いの令嬢達だが、王妃殿下に多く声を掛けてもらっていたシアを僻んで絡んでいるのだろう。
年下でお茶会デビューしたばかりのシアを見下しているに違いない。
しかし、シアはその令嬢達を簡単に言い負かしてしまうのだった。
そんなシアに逆ギレしたギロリー侯爵令嬢が、彼女に手を上げる。
私は無意識に声を掛けていた。
この三人は絶対に許さない。公爵家の力を使っても潰してやると決めた瞬間だった。
私に礼を言うシアは、相変わらず可愛かった。
顔が引き攣っているような気がするが、緊張しているのかもしれない。
しかしその後、シアを呼びに来たコールマン侯爵令息の行動が気になってしまう。
私の目の前で、見せつけるようにシアを抱きしめたり、シアのことを宝物だと言ってみたり…。
まるで、義妹は渡さないと私に牽制するかのようだったのだ。
コールマン侯爵令息が記憶持ちなのか?余りにも一度目の時とは違いすぎる。
私の知るコールマン侯爵令息は、あんな風に義妹を溺愛していなかったし、人前で義妹にベタベタするような男ではなかった。
あの時の令息は、シアを大切に思っていたのだろうが、一歩引いたような関わりしかしなかったはずだ。
今後の令息の動きを注意して見ていく必要があるな…
その食堂は、あの暗殺者組織に属している者達が常連で訪れることが分かっているので、メイド長にはそこで客と仲良くなるようにとだけ指示を出して働かせることにしたのだ。
私を殺したあの暗殺者は、公爵家の厳しい警備をすり抜けて、私の部屋までやって来た手練れの暗殺者だった。
あの暗殺者は、まともに戦うよりも毒殺する方が確実だろうし、暗殺者集団を壊滅させるには、先にあの手練れの暗殺者を消すことが重要だろう。
しかも、あの暗殺者の見た目は、普通にどこにでもいるような容姿をしていて、街で働く平民に混ざってしまったら、追跡が難しそうなのだ。だから、一発で仕留められそうな毒殺が一番だと考えた。
メイド長には、その食堂で暗殺者達と時間をかけて仲良くなってもらおう。
時期が来たら、メイド長が得意とする毒殺を頼むつもりでいる。もし失敗しても、メイド長が暗殺者に消されるだけなのだから問題ない。
それに向けて、公爵領で栽培されている薬草だけでなく、他国からも薬草や毒草を取り寄せて、新薬の開発や毒物の研究に力を入れることにした。
私は毒と分かりにくい毒物の開発と、どんな毒にも効果のある解毒剤が欲しかったのだ。
あの時シアは、遅延性の毒に苦しみながら息を引き取ったと聞いた。色々な解毒剤を試したが効果は効かなかったという。
今回は、絶対にシアを毒殺させないが、念のために解毒剤を開発しておきたい。あの時のように、シアを死なせることは絶対にさせない。
そして、私が死ぬ前に流行った病の薬の備蓄をしなくてはならない。
あの病は男子のみに感染するといわれ、あの時の王太子殿下も病で倒れられた。
バコの葉がこの病に効果があると分かった時には、沢山の人が亡くなった後だった。更にバコの葉の備蓄量が少なく、なかなか薬が行き渡らなくて大変だったのを覚えている。
今から沢山のバコを栽培しておけば、何とか間に合うはずだ。
忙しい日々を送っていたから、あっという間に私は13歳になっていた。
公爵家のことや、これから起きると思われることへの準備で忙しい私は、早々と王太子殿下の側近を辞退することに決めた。
その頃になると、シアの噂話を耳にするようになる。
〝コールマン侯爵家の兄妹は優秀らしい。〟
〝令嬢はすでに外国語を何カ国語も話せるらしい。〟
〝家庭教師達は二人を神童だと話していた。〟
巻き戻る前には、そんな噂話は聞いたことがなかった。
コールマン侯爵令息が優秀過ぎて、義妹のシアが出来ないと嘲笑う者はいたことは覚えている。
シアをよく知る者ならば、彼女が普通の令嬢よりもかなり優秀で、努力家の素晴らしい令嬢なのだと分かるのだ。
ただ比べる相手が、普通の人間とは思えない程に優秀過ぎるコールマン侯爵令息だから、そのように見えるだけ。
それなのに、今世のシアはコールマン侯爵令息と一緒の扱いで神童だと言われている…。
他の人物は、殿下以外は巻き戻る前と同じなのに。
もしかしたら殿下と一緒で、シアか義兄のコールマン侯爵令息も記憶持ちなのかもしれない…。
でも、記憶があってもなくても関係ない。早く彼女に逢いたい。
私が14歳になる年、王宮での茶会の日を迎える。
一度目の人生で私がシアに初めて会った日だ。
この日をどんなに待ちわびていたことか…
しかし、そこに現れたシアは、一度目の茶会とは違った動きをしていた。
記憶の中と同じで、可愛らしい雰囲気の美少女のシアを見て心が弾む私であったのだが、あの時とは違うドレスを着ていることに気がついてしまった。
そしてあの時に、一人でお菓子を食べていたシアは、今世では義兄と行動を共にしていた。
前は仲が良いとは言えない義兄妹だったはずなのに、今世の二人は誰が見ても仲が良さそうで、恋人同士のようだったのだ。
二人はコールマン侯爵令息の友人達とおしゃべりをして楽しそうな時間を過ごしていた。
このままでは、私はシアと話すら出来ないではないか。
焦っていた私が、花摘みに向かったシアを待っていると、シアは赤いドレスを着ていた令嬢三人に絡まれている。
三人は殿下狙いの令嬢達だが、王妃殿下に多く声を掛けてもらっていたシアを僻んで絡んでいるのだろう。
年下でお茶会デビューしたばかりのシアを見下しているに違いない。
しかし、シアはその令嬢達を簡単に言い負かしてしまうのだった。
そんなシアに逆ギレしたギロリー侯爵令嬢が、彼女に手を上げる。
私は無意識に声を掛けていた。
この三人は絶対に許さない。公爵家の力を使っても潰してやると決めた瞬間だった。
私に礼を言うシアは、相変わらず可愛かった。
顔が引き攣っているような気がするが、緊張しているのかもしれない。
しかしその後、シアを呼びに来たコールマン侯爵令息の行動が気になってしまう。
私の目の前で、見せつけるようにシアを抱きしめたり、シアのことを宝物だと言ってみたり…。
まるで、義妹は渡さないと私に牽制するかのようだったのだ。
コールマン侯爵令息が記憶持ちなのか?余りにも一度目の時とは違いすぎる。
私の知るコールマン侯爵令息は、あんな風に義妹を溺愛していなかったし、人前で義妹にベタベタするような男ではなかった。
あの時の令息は、シアを大切に思っていたのだろうが、一歩引いたような関わりしかしなかったはずだ。
今後の令息の動きを注意して見ていく必要があるな…
応援ありがとうございます!
6
お気に入りに追加
8,221
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる