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二度目の話

閑話 ブレア公爵令息

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 シアがまだ王太子殿下の婚約者だった頃に、彼女の命を狙っていた暗殺者組織を壊滅させることに成功したと思っていた。
 騎士達からは、暗殺者のアジトで一人取り逃したと報告は受けていたので、私なりに警戒はしていたつもりだったのだが…、まさか暗殺者組織の残党に私が斬られることになるとは。


「ぐっ…。……っ!」

「よくも…、よくも我が組織を潰してくれたな…。」

「「公爵閣下!」」


 私が斬られたことに気づいた護衛達が、刺客を斬りつけ、倒してくれたのだが…


「閣下、すぐに治療をいたします!」

「おい!血を止める物を持ってこい!
 急ぎで侍医を呼べ!」

「早くしろ!」



 騎士達が叫ぶ声が聞こえる…


「いい…。もういいのだ…
 このまま……シアの…所へ…逝かせてくれ…
 シアに会って…愛して…ると…伝え…なければ…」

「…閣下!」

「公爵閣下、しっかり!」


 そのまま私は死んだはずだった…












 しかし私は目覚めた。体が小さくなった状態で。

 両親が言うには、高熱で数日間、寝込んでいたらしい。
 そして気が付いたのは今の私は8歳だということ。
 そして、死ぬ前の人生の記憶と同じことが起きるのである。
 認めたくなかったが、私は時間が巻き戻っているのだと確信した。


 それならば、私はあの時のような失敗はしない。
 今度こそ、シアと幸せになりたいのだ。


 しかし、8歳の私に出来ることは限られてくるため、私は両親の力を借りることにした。
 両親に自分は一度死んでいて、時間が巻き戻ってここにいるということを正直に話すことにしたのである。

 両親は当初、全く信用してくれなかった。
 当然だと思う。私だって自分自身のことなのに、信じられなかったのだから。

 私は両親に信じてもらえるように、これから起こることを両親に話した。
 領地内の事件や貴族のスキャンダル、親戚の不幸やこれから流行る物などを両親に話し、それが現実に起こると、両親はやっと私のことを信じてくれたのだった。

 そして過去に戻ったなら、あのバカ女とメイド長がいつから繋がっていたのかを知りたいと思った。
 私は、自分の最愛の妻があの二人によって殺されたことを両親に話し、あの二人を警戒してほしいことや、しばらくは泳がせておいて欲しいことをお願いした。

 その結果、私が調査をした時に二人はすでにベタベタだった。
 あのバカ女なら、上手く利用できるとメイド長は判断したのかもしれない。


 私が二人を泳がせていることにも気付かずに、あのバカ女は、今日も図々しくうちの邸に遊びに来た。

 男に媚びる耳障りな声も、ベッタリと付き纏ってくる不愉快な態度も、一度目の時は、腹を空かせた可哀想な野良犬が、餌を貰いに庭にやって来るようなものだと考えて放っておいたのだが…、今考えるとそれが全ての間違いだったのだ。

 もう調査も済んでいることだし、そろそろ切り捨てよう。
 

「アルぅー。一緒にケーキ食べよう!
 メイド長がおやつを沢山用意してくれたのよぉ。」

 何も知らないバカ女は、今日も馴れ馴れしい態度を取ってくる。
 こうやって改めて見てみると、まるでこの邸に住む令嬢のような振る舞いだ…。

「今すぐ出て行け!!
 今後、この邸に来ることを許さない。
 もしやって来たら、パーカー子爵家を潰す!
 私にも近付くなよ!」

「えっ…アル?
 私、何か怒らせるようなことをした?
 ごめんなさぁーい。許してぇ。
 私ぃ、アルに好かれるように頑張るからぁ!」

 その言葉は私を更に不愉快にさせる。

「バカだから、ハッキリ言わないと分からないようだな…
 私はお前が大嫌いだから、顔も見たくないし、声も聞きたくない!同じ空気も吸いたくないのだ。
 お前を殺してやりたいと思うほどに憎い!
 …以上だ。今すぐ出て行ってくれ!」

「そ…そんな、アル酷い!」

 バカ女を囲んで、絶句しているメイド達にもハッキリ伝えることにした。

「この女をこの邸には二度と入れるな!
 言い付けを破った者はクビだ!
 早くこの女を追い出せ!」

 そこまで言われると、バカ女はメイド達に連れられて出て行ったようだ。
 あのバカ女を取り囲んでいたメイド達は、メイド長の手先だから、近いうちにクビにしてやろう。

 その数分後、メイド達から報告を受けたであろうメイド長が、慌てて私の所にやってくるのであった。


 来ると思っていた…


「アルマン様!バーカー子爵令嬢は、お母様を亡くしたばかりですし、忙しい子爵様が構ってあげることの出来ない、孤独で可哀想な方ですわ。
 旦那様も奥様も、そんなバーカー子爵令嬢をもてなすようにと話されておりました。」

「その父上と母上が、あの女を切り捨ててよいと言っているのだ。」

「……そ、それはどういうことでしょうか?」

「ふっ!あのバカ女なら上手く利用出来るとでも思ったか?
 私とあのバカ女を仲良くさせて、いずれは既成事実でも作らせて、公爵夫人にでもなってくれれば、バカなりに利用価値があるとでも思っていたか?」
 
「私は決してそのようなことは…」


 一気に顔色を悪くするメイド長。
 まさか、まだ10歳にも満たない私がこのようなことを言うとは思っていなかったようだ。


「あの女はもうすぐ貴族ではなくなるから、切り捨てただけだ。
 勿論、私が殺したいほど嫌いだということもあるが。」

「…アルマン様の意向を理解せず、出過ぎた真似を致しましたことを謝罪させて頂きます。
 申し訳ありませんでした。」


 謝罪しても、私はお前を許さない…


「メイド長。最近、お前の夫はギャンブルにハマって大変なんだって…?
 離縁したいのに、向こうが離縁に応じてくれなくて苦労していると聞いているぞ。」

「どうしてそれを…」


 調べてみたら、すでにこの時には、メイド長の夫はギャンブル狂いになりつつあり、借金もあるようだった。

「メイド長が離縁出来るように、公爵家が力になってやってもいい。
 ついでに、いまある借金も私が肩代わりしてやろう。
 その代わり、メイド長には今とは違う仕事を頼みたいのだ。給金は今の2倍にしてやる。」

「…え?」

 メイド長は、こんな都合の良い話を信じていいのかと言ったような顔をしていた。
 



 
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