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かつての婚約者
王妃殿下と話をしていると、ドアがノックされる。
「来たようね……。私は席を離れるから、あとは二人で話し合ってちょうだい。
私は貴女の意思を尊重したいと思っているから、アリエルが公爵夫人でいたいと言うならそれでいいと思っているわ。
貴女が不幸そうにしていたり、離縁を望むようであれば何とかしようと思っていたけど、記憶がない自分を受け入れて前に進もうとしているようだから、それは必要ないみたいね。
シールズ公爵もずっと貴女のことを思っていたようだし、不器用なりにアリエルを大切にしてくれると思うわ。
ふふっ、またお茶に誘うわね」
王妃殿下はそれだけを言うと部屋から出て行ってしまった。
バトラー侯爵家の両親や兄とは違って、私の希望を重視してくれるということなのかしら?
そんなことを言ってもらえるとは全く思っていなかったので、少しだけ嬉しく感じてしまった。
しかし、こんな場所で殿下と二人で何を話せというのかしら?
誰かに見られて、密会していると思われたらどうしましょう……
不安に苛まれていると、殿下が来られたようで声を掛けられる。
「アリー……、今日は急に悪かったな。
母上が君と茶会をすると言うから来てしまった」
「王太子殿下、ご機嫌麗しゅうございます」
「君が怯えた目で私を見るということは、まだ記憶は戻らないのだな……」
「……申し訳ありません」
殿下は悲しげな目で私を見つめていた。
この方は、私の記憶が戻ることを切に願っているようだ。
「君は離縁を望んでいないことをバトラー侯爵から聞いた。
毒を飲まされて苦しむ君を冷遇した家族を許せないのは分かる。
バトラー侯爵家に戻るのが嫌で離縁をしたくないと考えているなら、どこか別の家の養子になればいい。
君を養子に迎えたいという家門は沢山あると思うから心配はいらない。
だから……、シールズ公爵とは離縁してくれないか……?」
私達は仲の良かった婚約者同士だと聞いたことがあったが、それは本当だったようだ。
殿下は私が何を考えているのか気付いている……
「王太子殿下、確かに私はバトラー侯爵家には戻りたくありません。
でも、離縁したくないのはそれだけが理由ではありませんわ。
何の期待も持たずに結婚しましたが、夫はとてもいい人ですし、シールズ公爵家は居心地の良い場所なのです。
私は夫と結婚出来て幸せだと思ってます」
「……公爵を愛しているとは言わないのだな。
それに、君が幸せそうには見えない。他の者は騙せても私は騙されないぞ」
「……」
やはりこの人は苦手だわ……。私のことをよく知っているようだから煩わしく感じてしまう。
「アリー。シールズ公爵は君を縁談避けに利用したかっただけだ。
君のバトラー侯爵令嬢という身分も、妻に迎えるにはちょうど良かったらしい。
貴族は政略結婚が当たり前だから愛など必要ないとでも思っているのかもしれないが、愛のない夫婦は遅かれ早かれ愛人を持つぞ。
私なら君をそんな風に扱わない。私はアリエルだけを愛している。
記憶なんて戻らなくてもいいから、これからの私を見てくれないか?
また君と一からやり直したいんだ」
私を見つめる殿下の目からは、懇望しか感じられなかった。
しかし私達はもう終わっているのよ。
旦那様が私を縁談避けに利用していたとしても、婚約した頃にあんなに冷たい態度を取られ続けていたのだから、今さら驚かないし何とも思わない。
私だって、バトラー侯爵家に帰りたくないという理由だけで旦那様の妻でいることを望んだのだから、何も言えないわ。
もし殿下を愛していた頃の記憶があったら、私は殿下の手を取ったのかしら?
……それはあり得ないわね。
愛していた記憶があったら、なぜ私を助けてくれなかったのか、どうして私を信じてくれなかったのかと悲しくなって、殿下のことも信用出来なくなっていたと思うの。
「殿下、私達はあの時に終わっています。
それに私は愛など望んでおりませんわ。
記憶喪失になった後、愛が何なのかがよく分からなくなってしまいましたの。
正妃様と揉めたりしたくないので、側妃にもなりたくないですわ。
こうやって二人きりで話をすることも、これで最後にして下さい」
「……あんなにつらい思いをしたのだから、人を信じられなくなって、愛なんていらないと考えてしまっても仕方がない。
しかも私は、あの女の話ばかりを信じて、君に裏切られたのだと思い込んでしまったのだから尚更だ。
だが、私は君に拒否されたからと簡単に諦めるつもりはないよ」
どうして……?
「来たようね……。私は席を離れるから、あとは二人で話し合ってちょうだい。
私は貴女の意思を尊重したいと思っているから、アリエルが公爵夫人でいたいと言うならそれでいいと思っているわ。
貴女が不幸そうにしていたり、離縁を望むようであれば何とかしようと思っていたけど、記憶がない自分を受け入れて前に進もうとしているようだから、それは必要ないみたいね。
シールズ公爵もずっと貴女のことを思っていたようだし、不器用なりにアリエルを大切にしてくれると思うわ。
ふふっ、またお茶に誘うわね」
王妃殿下はそれだけを言うと部屋から出て行ってしまった。
バトラー侯爵家の両親や兄とは違って、私の希望を重視してくれるということなのかしら?
そんなことを言ってもらえるとは全く思っていなかったので、少しだけ嬉しく感じてしまった。
しかし、こんな場所で殿下と二人で何を話せというのかしら?
誰かに見られて、密会していると思われたらどうしましょう……
不安に苛まれていると、殿下が来られたようで声を掛けられる。
「アリー……、今日は急に悪かったな。
母上が君と茶会をすると言うから来てしまった」
「王太子殿下、ご機嫌麗しゅうございます」
「君が怯えた目で私を見るということは、まだ記憶は戻らないのだな……」
「……申し訳ありません」
殿下は悲しげな目で私を見つめていた。
この方は、私の記憶が戻ることを切に願っているようだ。
「君は離縁を望んでいないことをバトラー侯爵から聞いた。
毒を飲まされて苦しむ君を冷遇した家族を許せないのは分かる。
バトラー侯爵家に戻るのが嫌で離縁をしたくないと考えているなら、どこか別の家の養子になればいい。
君を養子に迎えたいという家門は沢山あると思うから心配はいらない。
だから……、シールズ公爵とは離縁してくれないか……?」
私達は仲の良かった婚約者同士だと聞いたことがあったが、それは本当だったようだ。
殿下は私が何を考えているのか気付いている……
「王太子殿下、確かに私はバトラー侯爵家には戻りたくありません。
でも、離縁したくないのはそれだけが理由ではありませんわ。
何の期待も持たずに結婚しましたが、夫はとてもいい人ですし、シールズ公爵家は居心地の良い場所なのです。
私は夫と結婚出来て幸せだと思ってます」
「……公爵を愛しているとは言わないのだな。
それに、君が幸せそうには見えない。他の者は騙せても私は騙されないぞ」
「……」
やはりこの人は苦手だわ……。私のことをよく知っているようだから煩わしく感じてしまう。
「アリー。シールズ公爵は君を縁談避けに利用したかっただけだ。
君のバトラー侯爵令嬢という身分も、妻に迎えるにはちょうど良かったらしい。
貴族は政略結婚が当たり前だから愛など必要ないとでも思っているのかもしれないが、愛のない夫婦は遅かれ早かれ愛人を持つぞ。
私なら君をそんな風に扱わない。私はアリエルだけを愛している。
記憶なんて戻らなくてもいいから、これからの私を見てくれないか?
また君と一からやり直したいんだ」
私を見つめる殿下の目からは、懇望しか感じられなかった。
しかし私達はもう終わっているのよ。
旦那様が私を縁談避けに利用していたとしても、婚約した頃にあんなに冷たい態度を取られ続けていたのだから、今さら驚かないし何とも思わない。
私だって、バトラー侯爵家に帰りたくないという理由だけで旦那様の妻でいることを望んだのだから、何も言えないわ。
もし殿下を愛していた頃の記憶があったら、私は殿下の手を取ったのかしら?
……それはあり得ないわね。
愛していた記憶があったら、なぜ私を助けてくれなかったのか、どうして私を信じてくれなかったのかと悲しくなって、殿下のことも信用出来なくなっていたと思うの。
「殿下、私達はあの時に終わっています。
それに私は愛など望んでおりませんわ。
記憶喪失になった後、愛が何なのかがよく分からなくなってしまいましたの。
正妃様と揉めたりしたくないので、側妃にもなりたくないですわ。
こうやって二人きりで話をすることも、これで最後にして下さい」
「……あんなにつらい思いをしたのだから、人を信じられなくなって、愛なんていらないと考えてしまっても仕方がない。
しかも私は、あの女の話ばかりを信じて、君に裏切られたのだと思い込んでしまったのだから尚更だ。
だが、私は君に拒否されたからと簡単に諦めるつもりはないよ」
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