73 / 113
15.3月25日
15.3月25日 p.2
しおりを挟む
人待ち顔で店の奥に設置されたイートインスペースへ視線を向けると、奥の方の席で浩志に向かって手を振っている優の姿を見つける。浩志は応えるように軽く手を上げ、彼女のいる席へと向かった。優の向かいに腰を下ろす。すでに手を付けたのか、溶け始めているアイスクリームの入ったカップが彼女の前には置いてあった。
「悪い。待ったか?」
「ううん。そんなことない。とりあえず、成瀬も何か買ってくる? 私、ベリーベリーベリーっていうイチゴのアイスにしちゃった。期間限定なんだって」
そう言って嬉しそうに笑う優は、いつもと何か雰囲気が違う気がした。目の前にいるのは、いつもの優のはず。小さな違和感に浩志がぼんやりしていると、優が不思議そうに小首を傾げた。すると、トレードマークのポニーテールの頭頂部で、ふわりと白いリボンが揺れる。それに視線を奪われていると、どこか可笑しそうな優の声が降ってくる。
「ちょっと、成瀬? どうしたの? まだ寝ぼけてるの?」
「あ? ああ。俺も何か買ってくる。待ってて」
「うん」
浩志は慌てて席を立つと、レジカウンターへ注文に向かった。慌てたからか、心臓がいつもよりも忙しく動いているのがわかる。カウンターの向こう側から自分よりも少し年上に見える女性スタッフが、「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」と言っている間に、浩志はうるさい鼓動を落ち着けようと、大きく息を吐いた。
気持ちを落ち着けてから、最近お気に入りのアイスクリームを注文する。メロンソーダのような色合いのアイスの中に、口の中でパチパチと爆ぜるキャンディーが混ぜられているそれを待つ間、浩志は席で一人待つ優の様子をチラリと伺った。
今日の優は、ザックリと編まれた少し大きめの白のカーディガンに、ふんわりとした薄いピンク色のスカート、そして、白のくるぶしソックスと茶色のローファー。極めつけは、髪を飾る白のリボンだ。いかにもふんわりとした感じの女の子の格好をしている。彼はようやく違和感の正体に気がついた。浩志は、制服か学校指定のジャージ姿の優しか知らなかったのだ。
違和感の正体に気づいてしまうと、またしても心臓が忙しく動き始めた気がした。アイスを取り落とさないよう、カップの形が少しばかりくずれる程に手に力を込めて持つ。どこかぎこちない足取りで優の待つ席へと戻った。優は無邪気に「何にした~?」と浩志の手の中を覗き込む。そして、遠慮なく笑いだした。
「悪い。待ったか?」
「ううん。そんなことない。とりあえず、成瀬も何か買ってくる? 私、ベリーベリーベリーっていうイチゴのアイスにしちゃった。期間限定なんだって」
そう言って嬉しそうに笑う優は、いつもと何か雰囲気が違う気がした。目の前にいるのは、いつもの優のはず。小さな違和感に浩志がぼんやりしていると、優が不思議そうに小首を傾げた。すると、トレードマークのポニーテールの頭頂部で、ふわりと白いリボンが揺れる。それに視線を奪われていると、どこか可笑しそうな優の声が降ってくる。
「ちょっと、成瀬? どうしたの? まだ寝ぼけてるの?」
「あ? ああ。俺も何か買ってくる。待ってて」
「うん」
浩志は慌てて席を立つと、レジカウンターへ注文に向かった。慌てたからか、心臓がいつもよりも忙しく動いているのがわかる。カウンターの向こう側から自分よりも少し年上に見える女性スタッフが、「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」と言っている間に、浩志はうるさい鼓動を落ち着けようと、大きく息を吐いた。
気持ちを落ち着けてから、最近お気に入りのアイスクリームを注文する。メロンソーダのような色合いのアイスの中に、口の中でパチパチと爆ぜるキャンディーが混ぜられているそれを待つ間、浩志は席で一人待つ優の様子をチラリと伺った。
今日の優は、ザックリと編まれた少し大きめの白のカーディガンに、ふんわりとした薄いピンク色のスカート、そして、白のくるぶしソックスと茶色のローファー。極めつけは、髪を飾る白のリボンだ。いかにもふんわりとした感じの女の子の格好をしている。彼はようやく違和感の正体に気がついた。浩志は、制服か学校指定のジャージ姿の優しか知らなかったのだ。
違和感の正体に気づいてしまうと、またしても心臓が忙しく動き始めた気がした。アイスを取り落とさないよう、カップの形が少しばかりくずれる程に手に力を込めて持つ。どこかぎこちない足取りで優の待つ席へと戻った。優は無邪気に「何にした~?」と浩志の手の中を覗き込む。そして、遠慮なく笑いだした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる