僕だけの箱庭

田古みゆう

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 僕が自分の名前を口にしたとき、先生は、一つの扉の前で足を止めた。扉にはEarthと記したプレートが掛かっていた。

 先生は引いていた僕の手を離すと、コンコンと扉をノックする。しばらくして、中から、顔色の悪い痩せこけた男が顔を覗かせた。

 男は、先生に向かって深々と頭を下げる。しかし先生は、その人の事が見えていないかのように何も反応することなく、スイっと室内へ入っていった。

 僕は、入口で頭を下げたままの男と、先へ行ってしまった先生の背中を交互に見比べる。入口で困惑気味に呆けていると、その人は腰を折ったまま、顔だけを上げ、じっと僕を見据えてきた。

 その人の目を見つめていると、不意に、僕は、その人がもうこの先長くはないのだろうと思った。

 ほんの一瞬視線を交わしただけの人の事を、何故そのように思ったのか分からない。けれど僕は、困惑と不安に頬を引きつらせながら、思わず半歩後ずさる。

 そんな僕を憐れむように微笑みながら、男は手を差し出してきた。

「そう怖がることはない。私はキミの前任者だ。さあ、おいで」

 発せられた声にも生気が感じられない。これまで、こんなに衰退した人を見たことがなかった僕は、どうしたものかと数瞬案じたが、よくよく考えてみれば、僕には、この男の手を取る以外に選択肢がないということに思い至る。

 僕はしぶしぶ手を差し出し、男に手を引かれて、室内へと入った。

 室内は、先ほど通ってきた道と同じように暗かった。しかし、壁面や天井、床に至るまで、光を放つ砂が撒かれているのか、所々に光を感じる。先に部屋へと入っていた先生は、部屋の中央部でしきりに何かを覗き込んでいた。

 僕の手を引いた男が、先生の背後に立つと、先生は、振り返ることもなく、口を開いた。

 「それで? 状況はどうなの?」

 僕には、その質問の意味が分からなかったが、どうやらその質問は、僕にではなく、男に向けられたもののようだった。

 男は、僕の手を握ったまま、再度頭を垂れ、無念そうに声を絞り出した。

「やはり、このままでは崩壊は免れないかと存じます。マザー・ソル」
「そのようね。まぁ、私としては、箱庭は別にいくつもあるのだから、このまま消滅してしまっても良かったのだけれどね。運良く後継者がいたのだから、もう少し様子を見ていきましょう」
「ありがとうございます。マザー・ソル」
「引継ぎが済み次第、あなたは、ルナとなり、私の陰にお入りなさい」
「御意に。マザー・ソル」
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