僕だけの箱庭

田古みゆう

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 頭を下げた男に一瞥をくれると、先生は僕を見下ろした。

「あなたの箱庭よ。上手く育てなさい」

 それだけ言うと、先生はスイっと部屋を出て行ってしまった。部屋に残された僕は、まだ手を繋いだままでいた男を見上げる。

「箱庭というのは?」
「これの事だよ」

 男は、僕と手を繋いでいない方の手で、先生が覗いていたものを示した。

「おいで」

 男に手を引かれ、さっきまで先生が立っていた場所に立つ。高い位置から覗くためだろうか。数段の階段が設えられている。それを上り、先生がしていたように上から覗き込んだ僕の目に飛び込んできたのは、小さな、とても小さな浮遊する光たち。

 その光たちの中央に、ひときわ大きく青い光を放っているものと、それに寄り添うように幾分小さい、しかし、周りを浮遊する光に比べれば、大きな金色の光を放つものが、ふわふわと浮いていた。

「これは一体?」
「これが、これからキミが世話をする箱庭だよ」
「これが、箱庭。すごくきれいだ」

 僕がそう言うと、男は悲しそうにフッと頬を緩めた。

「本当はもっと綺麗だったんだ。だけど、私の力が足りなくてね。このままでは、もうすぐこの箱庭は崩壊してしまうのさ」
「崩壊とは?」
「言葉の通りさ。崩れて壊れる。最後は消滅してしまう」
「そんな! どうして? こんなにきれいなのに」

 僕の問いに、男は、大きな青い光をポンポンと軽く叩きながら答える。

「これ。ここをよく見てごらん」

 男に叩かれた青い光は、グンと僕を飲み込むようにして広がったかと思うと、次の瞬間、僕の目の前には、一面の青が広がっていた。青の中を白い塊がいくつもいくつもプカプカと漂っている。そうかと思えば、突然青を切り裂くようにして、ブシャーと柱が上がった。

「これは?」
「今見えているのは、さっきの箱庭の広角倍率を変えた景色だ。あの青い光の中は、このようになっているのだよ。これは、海。他にも山や川、街の風景を見ることができる」

 そう言って、男は、僕と手を繋いでいない方の手をサッサッサッと振る。

 すると、緑豊かな景色が、キラキラと青く光る大きな蛇が、そして、地を埋め尽くすほどのニョキニョキとしたものがいくつも聳え立つ風景が、僕の目の前を流れていった。

 他にもいくつかの景色に切り替わり、やがて目の前には、最初の海が広がった。

「これが、キミが世話をするEarth。地球さ」

 男がそう言った時、大きな音をたてながら、白い大きな塊が海へと崩れ落ちていった。
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