僕だけの箱庭

田古みゆう

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 ドドドド、ドババンという大きな音と共に、白い塊は青い海に呑まれていく。その光景に、僕は思わず息を吞む。

 とてもダイナミックな光景だが、なぜだかとても悲しくなった。白い塊の崩れる音が、青い海に呑まれる音が、まるで地球の悲鳴に聞こえてしまった。

「もしかして、今のが崩壊?」

 呆然としたまま僕が口にした言葉に、男は悲しそうにうなずく。

「そう。今の光景以外にも、この箱庭の至る所でとんでもない崩壊がはじまっている。地球の環境が急速に変化したために、星が悲鳴をあげているんだよ」
「どうして、そんなことに?」
「全ては私の力不足さ」
「どういうこと?」

 僕は、すっかりうなだれてしまっている男に問う。いつの間にか、男は辛そうに肩で息をしていた。それでも、男は、懸命に僕の問いに答えようと口を開いた。

「私がここの世話役になったのは、ちょうどキミくらいの歳の頃だ。この箱庭が安定し始めた頃、前任の世話役から引き継いだ。前任者が、とても手を掛けていたからだろう。箱庭は、水も緑も大地もとても豊かで、とても綺麗だった。初めて箱庭を目にしたとき、私は今の君のように、箱庭の美しさに目を奪われたよ。私は、ひと目で、この箱庭を気に入った。絶対、大事に大事に育てようと思った」
「じゃあ、どうして崩壊なんて?」
「私は大事に思うあまり、この箱庭を自由気ままに成長させてしまったんだ」
「自由に?」
「そう。さっき見た光景の中に、街の景色があっただろ?」

 僕は、大地からニョキニョキと何かが空高くまで伸びていた光景を思い出す。

「あれは、箱庭に住む者たちの住処だよ。私が引き継いだ頃には、まだなかった光景さ。彼らは、とても賢い。自身が如何に便利に、如何により快適に生きていくかを、常に考えている。私は、そんな彼らが好きだった。だから、彼らの望むままに、箱庭の発展を促し続けた」
「そうなんですね。だから、こんなに箱庭の中が活発なんですね」
「だけど、それでは駄目だったんだ」
「なぜ?」
「僕は、この箱庭の世話役。決して、彼らだけの世話役ではなかったのに」
「どういうこと?」

 僕は、男の言葉が意味するところが分からず、首を傾げる。男は、立っていることすら辛いのか、僕の手を離すと、箱庭に背を預け、ズルズルと座り込んでしまった。

「私は彼らの望むままに箱庭に力を注ぎ続けた。それがどんなに危険な事だったか……。気が付いたときには、もう遅かった」
「何がダメだったの?」
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