僕だけの箱庭

田古みゆう

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「だって、地球は、Earthは、彼らだけじゃないのだから」

 男の言葉に、「そうだ」と言わんばかりに、箱庭の大地が大きな地響きを上げた。音のした方へ目を向けると、大地がパックリと大きな口を開けていた。

「そうやって、箱庭は、毎日、自身を傷つけ、崩壊の一途を辿っている」

 座り込んでしまった男は、箱庭から目を背けるように頭を抱える。

「初めは、小さな亀裂だった。でも私は、その小さな亀裂を見逃してしまったんだ。彼らの発展ばかりに力を注ぎ、技術の進歩を飛躍的に伸ばしてしまったことで、周辺環境との均衡が保てなくなった。そして、箱庭は内部から崩れ出した。今では、いつもどこかで何かが崩れている」
「今すぐ崩壊を止めることはできないの?」

 僕は階段を駆け下り、男の前に座り込む。そんな僕にチラリと視線を投げた男は、悲しそうに首を振った。

「私の力では、もう無理だ。彼らに力を注ぎ過ぎて、私の力はもう枯渇状態なんだ」
「もしかして、さっきから苦しそうなのは、そのせいなの? 力がなくなったから?」
「それもそうだが……それだけじゃない。箱庭の世話役となった者は、常に箱庭と繋がっているのだ」
「どういうこと?」
「箱庭の崩壊は、私自身の崩壊でもあるってことさ。逆に言えば、私自身の弱りが、箱庭の崩壊を一層早めているとも言える」
「ええっ! そんな!」

 思わず大きな声を出してしまう。助けを求めて、視線を忙しく動かしてみても、ここには、崩壊しかけた箱庭と、僕と、弱った男しかいない。

 意味もなくあたふたと不審な動きをする僕を宥めるように、男は僕の手を取ると、手の甲を優しく叩く。

「キミは箱庭を守りたいかい?」
「もちろん!」

 こんな綺麗な箱庭がなくなってしまうなんて、考えるだけで悲しくなる。男の問いに、僕は大きく頷いた。

「そうか。良かった。それなら、まだ箱庭の崩壊を止める事が出来るかもしれない」
「僕、何でもやるよ! どうすればいい」

 僕の言葉に、男は嬉しそうに微笑む。

「すぐに、世話役の引き継ぎを行おう。今の箱庭は、私と繋がっているよりも、一刻も早く、新しい力と繋がるべきだ。そうすれば、少しは崩壊速度も遅くなるだろう」

 男の言葉の何かが僕の心に引っかかった。僕は、慎重に心の引っ掛かりを引っ張り上げる。

「待って。箱庭と繋がると言うことは、Earthの崩壊と共に、僕もあなたのように弱ってしまうと言うことなの?」

 僕を勇気付けるように、男の手に力が入る。
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