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初登校、ですの?
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王立学園の正門は、朝から賑わっていた。
格式ある石造りの門をくぐり抜け、色とりどりの制服に身を包んだ生徒たちが次々と校内へ吸い込まれていく。
談笑する声、笑い声、少し緊張した面持ち――そのどれもが、これから始まる学園生活への期待を物語っていた。
(……本当に、来てしまいましたのね)
ロザルナは、門の前で一度だけ深呼吸をした。
胸元には、例の“黒いリボン”は付いていない。
薔薇も、手袋も、今朝の時点で断固として却下した。
(学園では、清く正しい令嬢として過ごしますわ)
そう心に決めて、一歩踏み出そうとした、その時。
「お嬢様」
背後から、聞き慣れた声がした。
「……何ですの」
振り返ると、そこには完璧な身なりの執事――シルヴェルが立っていた。
なぜかやけに満足そうな笑顔で。
「初登校、おめでとうございます」
「ええ、ありがとう……ですが」
ロザルナは周囲を見回し、声を潜めた。
「なぜ、ここにあなたが居るのかしら?」
「お嬢様の学園生活を見守るためでご
ざいます!」
「執事が学園の門前に立つ必要はありませんわ!」
「ご安心ください。あくまで“見守る”だけです」
その“だけ”が信用ならないのだが。
周囲では、すでに何人かの生徒がこちらをちらちらと見ている。
――主に、ロザルナの後ろに立つ執事を。
「……目立っていますわよ」
「はい。順調でございますね!」
「何がですの!?」
「“初日から注目を集める”――悪役令嬢の基本でございます」
(基本ではありませんわよ!?)
ロザルナは半ば引きずるようにして、校内へ足を踏み入れた。
学園の中は、想像以上に広かった。
白い石の校舎、整えられた庭園、行き交う生徒たち。
(ここで学ぶのですね……)
少しだけ、不安が胸をよぎる。
その時。
「ねえ、あの子……」
「後ろの人、執事じゃない?」
「え、付き添い……?」
小さな囁きが、確かに聞こえた。
(やはり……)
ロザルナは背筋を伸ばし、歩き方を整えた。
余計なことは考えない。今日はただ、無事に初日を終えるだけ。
「お嬢様。あちらが教室でございます」
シルヴェルが指し示した先には、重厚な扉が並ぶ廊下があった。
「ここから先は、生徒だけですわよね?」
「はい」
「では、失礼いたしますわ」
ロザルナは扉の前で一礼し、静かに中へ入った。
――教室の中は、一瞬で静まり返った。
(……?)
数十の視線が、一斉にこちらに向けられる。
金色の髪、整った佇まい。
そして、どこか落ち着いた雰囲気。
「……新入生?」
「見ない顔ね」
小声が飛び交う。
ロザルナは深く一礼した。
「ロザルナ・フィオレと申します。よろしくお願いいたしますわ」
その声は、思ったよりも落ち着いていた。
(大丈夫……ですわよね?)
席へ向かおうとした、その時。
――廊下から、やけに通る声が響いた。
「お嬢様ぁぁぁ!!」
(……あ)
聞き覚えのありすぎる声。
扉がガラッと勢いよく開き、シルヴェルが姿を現した。
「お忘れ物でございます!」
「何を――」
ロザルナが振り返るより早く、彼は胸を張って言い切った。
「“悪役令嬢としての心構え”、でございます!」
教室が、完全に凍り付いた。
「……」
「……」
「……え?」
数秒の沈黙の後、ざわりと空気が揺れた。
(終わりましたわ……)
ロザルナは、そっと天を仰いだ。
こうして――
正統派令嬢ロザルナの学園生活は、
初日から、静かに、しかし確実に波乱の幕を開けたのであった。
格式ある石造りの門をくぐり抜け、色とりどりの制服に身を包んだ生徒たちが次々と校内へ吸い込まれていく。
談笑する声、笑い声、少し緊張した面持ち――そのどれもが、これから始まる学園生活への期待を物語っていた。
(……本当に、来てしまいましたのね)
ロザルナは、門の前で一度だけ深呼吸をした。
胸元には、例の“黒いリボン”は付いていない。
薔薇も、手袋も、今朝の時点で断固として却下した。
(学園では、清く正しい令嬢として過ごしますわ)
そう心に決めて、一歩踏み出そうとした、その時。
「お嬢様」
背後から、聞き慣れた声がした。
「……何ですの」
振り返ると、そこには完璧な身なりの執事――シルヴェルが立っていた。
なぜかやけに満足そうな笑顔で。
「初登校、おめでとうございます」
「ええ、ありがとう……ですが」
ロザルナは周囲を見回し、声を潜めた。
「なぜ、ここにあなたが居るのかしら?」
「お嬢様の学園生活を見守るためでご
ざいます!」
「執事が学園の門前に立つ必要はありませんわ!」
「ご安心ください。あくまで“見守る”だけです」
その“だけ”が信用ならないのだが。
周囲では、すでに何人かの生徒がこちらをちらちらと見ている。
――主に、ロザルナの後ろに立つ執事を。
「……目立っていますわよ」
「はい。順調でございますね!」
「何がですの!?」
「“初日から注目を集める”――悪役令嬢の基本でございます」
(基本ではありませんわよ!?)
ロザルナは半ば引きずるようにして、校内へ足を踏み入れた。
学園の中は、想像以上に広かった。
白い石の校舎、整えられた庭園、行き交う生徒たち。
(ここで学ぶのですね……)
少しだけ、不安が胸をよぎる。
その時。
「ねえ、あの子……」
「後ろの人、執事じゃない?」
「え、付き添い……?」
小さな囁きが、確かに聞こえた。
(やはり……)
ロザルナは背筋を伸ばし、歩き方を整えた。
余計なことは考えない。今日はただ、無事に初日を終えるだけ。
「お嬢様。あちらが教室でございます」
シルヴェルが指し示した先には、重厚な扉が並ぶ廊下があった。
「ここから先は、生徒だけですわよね?」
「はい」
「では、失礼いたしますわ」
ロザルナは扉の前で一礼し、静かに中へ入った。
――教室の中は、一瞬で静まり返った。
(……?)
数十の視線が、一斉にこちらに向けられる。
金色の髪、整った佇まい。
そして、どこか落ち着いた雰囲気。
「……新入生?」
「見ない顔ね」
小声が飛び交う。
ロザルナは深く一礼した。
「ロザルナ・フィオレと申します。よろしくお願いいたしますわ」
その声は、思ったよりも落ち着いていた。
(大丈夫……ですわよね?)
席へ向かおうとした、その時。
――廊下から、やけに通る声が響いた。
「お嬢様ぁぁぁ!!」
(……あ)
聞き覚えのありすぎる声。
扉がガラッと勢いよく開き、シルヴェルが姿を現した。
「お忘れ物でございます!」
「何を――」
ロザルナが振り返るより早く、彼は胸を張って言い切った。
「“悪役令嬢としての心構え”、でございます!」
教室が、完全に凍り付いた。
「……」
「……」
「……え?」
数秒の沈黙の後、ざわりと空気が揺れた。
(終わりましたわ……)
ロザルナは、そっと天を仰いだ。
こうして――
正統派令嬢ロザルナの学園生活は、
初日から、静かに、しかし確実に波乱の幕を開けたのであった。
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