立てば芍薬、座れば牡丹、歩けば咲くは百合の花

鍵谷 雷

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恋花と愛那

恋花と愛那の場合 3

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  入学式から約一か月経った五月、ついに翌週に控えた遠足の班決めが行われようとしていた。

「じゃあ、適当に班組んで。人数偏ったり、この時間で決まらないならこっちで勝手に組むから」

  北条先生が言うと、待ってましたとばかりに一斉に立ち上がる。早くもある程度のグループが出来ているようで、大沢恋花は頭を抱える。この一か月の間、岡田愛那としかまともに話をしていないのだ。しかし、班は四人から六人くらいでとの事だった。恋花は珍しく自分から後ろを向いて言う。

「ねえ、私以外でこのクラスで話す人いる……?」
「いるよ」
「誰……?」

  人目がなければ恋花はここで大声をあげて驚いていただろう。愛那は、学校で自分としか話しているのを見たことがない。

「あの子」

  愛那が指を向けたのは、藤井里亜。クラスのムードメーカー的ポジションの人だ。彼女の周囲には多くの女子がいた。一つの班では多すぎるので、どう分かれるかを決めあぐねているようだ。
  楽観的な顔をした愛那に、他に誰かいないかと聞こうとしたときだった。

「もしかしてまだ二人?」

と声をかけられた。

  結局、恋花と愛那、そして田中希美のぞみと高橋ひかりの四人の班で遠足当日を迎えた。希美と光は同じ中学で、こちらも入学初日から二人でいたところ、他にあまり話す人がいなかったらしい。
  バスが到着したのは、草と空以外何もないところだった。お昼は飯盒炊飯はんごうすいはんでカレーを作るらしい。やり方を多少調べてきたが、果たして役に立つだろうか。

「ご飯はあたしに任せて!!」

 愛那は胸を張って言う。不安はあるが任せることにする。田中、高橋の両名は薪を探してくると行って出ていった。

「二人で何してるのかな?」
「薪を探してるだけでしょ」
「ホントにそう思うかね、大沢くん」
「何が言いたいの?」

  まさか二人が隠れてイチャついてるとでも言いたいのだろうか。内心では無いと言い切れない。

「草原殺人事件とか、そういう臭いがしない?」
「私はカレーの臭いしかわかんないかな」

  そっちか。と思いながら冷たくあしらう。確かに二人が出ていってからもう長い。

「お待たせ~」
「ごめんね、なかなか良いのが見つかんなくって」

  高橋が謝りながら薪をゆっくりと置く。田中はその横に落とすように置いた。
  炊きあがった米を紙皿につぎ、カレールウをかける。やっとお昼だ。

「二人はいつからの付き合い?」

  カレーを頬張りながら田中が聞いてきた。

「恋ちゃんとは高校からだよ!」

  恋花がカレーを咀嚼している間に愛那が答える。田中はニヤニヤとしながら恋花と愛那を見比べる。高橋は申し訳なさそうに顔を上げずにいる。田中の質問の意味するところを理解しているのだろう。

「じゃあまだ一か月なんだ。仲良いんだね」
「うん!」

  恋花は、何も分からず返事をしているであろう愛那が羨ましく思えた。天然なのか、アホなのか、あるいはわざとではないのかとすら考えてしまう。
  昼食が終わり自由時間になると、高橋が恋花に声をかけた。

「さっきはごめんね。」
「ん、何が?」
「え?  あ、ご飯遅くなって……」

  わざとはぐらかしてみたが、少し意地悪だっただろうか。絞り出したような返事だ。

「私たちじゃないから」

  恋花は努めてさわやかに笑いながらそう言った。そして、先を進む愛那と田中を追いかける。高橋は誰にも聞こえないように呟く。

「本当に……?」
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