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二葉と早苗
二葉と早苗の場合 1
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ホームルームが終わると、如月早苗は真っ直ぐにとなりの教室へと向かう。ちょうど教室から出て来た城田二葉に声をかける。
「しろちゃん、一緒に帰りましょう」
「ああ、行こうか」
二葉は普段通りのぶっきらぼうな返事をする。端から見ればいつもの会話だが、早苗の心中では今日の『一緒に帰ろう』はそれまでに無い気持ちで発していた。
もはや自分たちは生徒会会長と副会長ではない。当たり前のように横にいられる事はない。後輩で現生徒会長である桃子にああまでされて、まだ動けないようではこの先何も出来ず一生を終える臆病者だ。
「喫茶店寄ってかない? ほら、駅前の」
「春に行ったとこか。そういやあれきりだな。行こうか」
三分の二程の席が埋まっていた。二人は入り口付近の窓に案内される。若い女性店員はお冷やとメニューを差し出してくれる。
二葉はりんごのパフェを、早苗はミルクレープとコーラフロートを注文する。二人とも以前と同じものだった。
「しろちゃん、一年間お疲れさま」
「早苗こそ、お疲れ」
「ねえ、私たちが初めて会ったときのこと覚えてる?」
「早苗と会ったとき……? 忘れるわけがないだろう」
フフと思いだし笑いをしながら二葉が答える。少しして、真面目な顔つきで
「まさか、ここまで続くとは思ってなかったけどな」
と言った。早苗が微笑みながら返答する。
「迷惑だった?」
「時々な」
「sometimes(=時々)ってね、約五十パーセントなのよ。そんなに?」
「never(=全く無い)では無いな」
二葉は自分で放った冗談を流すように軽く咳払いをして、水を飲み、話題を変更した。
「今日はどうした? 疲れているなら帰るか?」
「いえ、大事な話があるの……」
早苗は先ほどまでコーラフロートが入っていたコップをテーブルに置く。二葉も空になった皿を弄る指を止めた。
「やっぱり、しろちゃんと同じ学校に行きたいと思ってるの」
「ダメだ」
切り捨てるように即座に返事をする。二葉は更に続けた。
「早苗は国公立だろう? 私なんかに合わせる必要はない」
『親に決められた進路なんかに進みたくない』と、早苗は言い返そうとするが、喉元で引っ掛かって出ない。
「どうして……」
これが精一杯の一言だった。
「実はな、私も早苗と一緒の大学に行けたらと思ってたんだ。だけど、あと二年は必要だって言われてさ……」
さっきとは打って変わって少し落ち込んだ様子で二葉はそうこぼした。
「だからさ、一緒に暮らそう。お互い四年は離ればなれかもしれないけど、その後ずっと一緒にいよう。な?」
早苗は泣き出しそうな顔を手で覆う。まさか彼女がここまで考えているとは思わなかった。
悔しい。カッコいい。ずるい。嬉しい。早苗の中でぐるぐると色んな感情が渦巻く。
黙りこんで顔を見せない早苗に、二葉はこう付け足した。
「早苗が良ければ、だけど……」
頬に伝う涙を拭いながら微笑む。最早、返事など必要ない。
二葉は彼女に笑い返して、
「ありがとう」
とだけ言った。
「しろちゃん、一緒に帰りましょう」
「ああ、行こうか」
二葉は普段通りのぶっきらぼうな返事をする。端から見ればいつもの会話だが、早苗の心中では今日の『一緒に帰ろう』はそれまでに無い気持ちで発していた。
もはや自分たちは生徒会会長と副会長ではない。当たり前のように横にいられる事はない。後輩で現生徒会長である桃子にああまでされて、まだ動けないようではこの先何も出来ず一生を終える臆病者だ。
「喫茶店寄ってかない? ほら、駅前の」
「春に行ったとこか。そういやあれきりだな。行こうか」
三分の二程の席が埋まっていた。二人は入り口付近の窓に案内される。若い女性店員はお冷やとメニューを差し出してくれる。
二葉はりんごのパフェを、早苗はミルクレープとコーラフロートを注文する。二人とも以前と同じものだった。
「しろちゃん、一年間お疲れさま」
「早苗こそ、お疲れ」
「ねえ、私たちが初めて会ったときのこと覚えてる?」
「早苗と会ったとき……? 忘れるわけがないだろう」
フフと思いだし笑いをしながら二葉が答える。少しして、真面目な顔つきで
「まさか、ここまで続くとは思ってなかったけどな」
と言った。早苗が微笑みながら返答する。
「迷惑だった?」
「時々な」
「sometimes(=時々)ってね、約五十パーセントなのよ。そんなに?」
「never(=全く無い)では無いな」
二葉は自分で放った冗談を流すように軽く咳払いをして、水を飲み、話題を変更した。
「今日はどうした? 疲れているなら帰るか?」
「いえ、大事な話があるの……」
早苗は先ほどまでコーラフロートが入っていたコップをテーブルに置く。二葉も空になった皿を弄る指を止めた。
「やっぱり、しろちゃんと同じ学校に行きたいと思ってるの」
「ダメだ」
切り捨てるように即座に返事をする。二葉は更に続けた。
「早苗は国公立だろう? 私なんかに合わせる必要はない」
『親に決められた進路なんかに進みたくない』と、早苗は言い返そうとするが、喉元で引っ掛かって出ない。
「どうして……」
これが精一杯の一言だった。
「実はな、私も早苗と一緒の大学に行けたらと思ってたんだ。だけど、あと二年は必要だって言われてさ……」
さっきとは打って変わって少し落ち込んだ様子で二葉はそうこぼした。
「だからさ、一緒に暮らそう。お互い四年は離ればなれかもしれないけど、その後ずっと一緒にいよう。な?」
早苗は泣き出しそうな顔を手で覆う。まさか彼女がここまで考えているとは思わなかった。
悔しい。カッコいい。ずるい。嬉しい。早苗の中でぐるぐると色んな感情が渦巻く。
黙りこんで顔を見せない早苗に、二葉はこう付け足した。
「早苗が良ければ、だけど……」
頬に伝う涙を拭いながら微笑む。最早、返事など必要ない。
二葉は彼女に笑い返して、
「ありがとう」
とだけ言った。
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