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【22】運命
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(アリアドネさんが、私を……好き!)
ステュアートは、何度もその言葉を頭の中で反芻した。
理解すると、心臓がやけにドキドキして頬が火照ってくる。
「やっぱり信じて貰えませんか?」
「し、信じて……差し上げますよ。私は大神官ですから」
もごもごと口ごもる。
アリアドネの力はすでに上層部には知れ渡っているし、今後悪用しようと考える者が現れてもおかしくない。
悪魔から直接狙われる可能性だってあるのだ。
大巫女となれば彼女個人に護衛も付くし、安全性が格段に上がる。
しかもアリアドネには聖力がないため、ステュアートたち大神官のように、異形と直接対峙するような危険なことは早々ないだろう。
あってもステュアートが共に行けばよいだけだ。これは他の男に対する牽制になるだろうし、とてもよい考えである。
「ま、まぁ、私の妻であることを第一に考えて頂けるなら」
アリアドネにそう言ってから、教主を見た。
「アリアドネさんには、聖力がありません。大巫女としてその力を使うのでしたら、身の安全を最優先で考えていただけますか?」
「当然だ。他の大神官とは役割が異なるからな」
教主の言葉に、ステュアートは頷いた。
彼はステュアートが本部にやってきた子供の頃、師匠を務めた男である。
色々腹が立つところもあるが、それなりに信用はできるだろう。
何より、今後についてのことは、アリアドネ本人が決めたことだ。
勢いで反対してしまったが、彼女の希望を叶えたいという気持ちもある。
「わかりました。……アリアドネさんがお望みでしたら、そのように致します」
「ありがとうございます!」
花開くような眩しい笑みに、ステュアートは胸をキュンとさせてアリアドネを抱きしめる。
アリアドネの柔らかな香りを吸い込むたびに、安心した。同時に体の中心が落ち着かなくなってしまう。
「ですが、そうですか。私を愛して……ふふ、当然ですね。私に惚れない女性はおりませんから」
「はい、ステュアート様ほど素敵な男性はいません」
笑顔で言うアリアドネが可愛すぎる。
堪らず頬にキスをしたとき、咳払いがした。
教主である。
「もう戻ってよい。アリアドネ、先程見た件についてはステュアートに話しておけ。その後、お前と悪魔の関係に変化があれば知らせるように。それから、ステュアート。此度の件の顛末をアリアドネに伝えておいてくれ」
そう言うと、教主は鬱陶しそうに手を振った。
さっさと帰れという意味だろう。
教主に向かって深くお辞儀するアリアドネの項をじっと見つめたあと、彼女と共に部屋を出て、馬車に乗り込んだ。
アランに見送られて、馬車が動き始める。
「アランさんは一緒じゃないんですか?」
「彼には暫く休暇を与えているんです。怪我の治療に専念するように」
アリアドネの表情は浮かない。
どんな表情のアリアドネも可愛いけれど、やはり笑顔でいて欲しいと思った。
ステュアートは席を彼女の向かいから隣に移動すると、そっと腰を抱く。
「大丈夫です、何も心配いりません」
「……あの、教主様がおっしゃっていた『此度の件の顛末』ってなんですか?」
恐る恐るといった様子で尋ねるアリアドネに、ステュアートは微笑んだ。
「すべて解決しましたので、内容をお話させて頂きますね」
解決した、という言葉にアリアドネはほっとした様子を見せたが、それも一瞬だった。
少しでも表情が晴れるように、ステュアートは優しい口調で話した。
リィナが十年前に両親を失っていること。
その後、唯一の肉親である歳の離れた妹の面倒を見てきたが、その妹を人質に取られて脅され、良いように使われてきたこと。
最初の計画は、カーン帝国でアランを子どもが出来ないようにして王位継承権を奪うことだったという。
しかしそれに失敗したリィナはもう後がなく、悪魔と契約し、確実にアランを仕留めようとした。
「今回リィナの背後にいたのは第三王子です。すでに証拠も揃っており、教皇自ら裁くことになりました」
「そんなにすぐ、判明したんですか!? リィナさんの件があってからまだ三日も経ってないと思うんですけど……教皇様って、すごいんですね」
ステュアートは微笑んだ。
本当のところ、カーン帝国で起きた『妖精と逸物事件』の時点でステュアートはすでに、誰かが妖精の背後にいることに勘づいていた。
確信はなかった。だが、アランが狙われている可能性もあったため、事件の内容を教皇に報告しておいたのだ。
ステュアートにとって教主が親代わりであり師ならば、教皇は尊敬すべき上司であり、個人的に手紙のやりとりをしている。
教皇はアランを溺愛しているため、――これが他の王子たちとの確執を生んでいる理由の一つでもあるのだが――すぐに調査に乗り出した。
意外にも第三王子が怪しいという目星はすぐについたものの証拠がなく、動くに動けない。
そうして日数が過ぎてリィナの件が起きた。
リィナがこの件に関わっていることが判明するなり、教皇は彼女の周辺を調べ、リィナの妹が行方不明になっていることを突き止めた。
そこから妹の所在を探っているうちに第三王子に行き着き、ついに、リィナの妹が幽閉されている場所を特定したのだ。
当然ながら言い逃れの出来ない証拠がごろごろ出てきて、第三王子は牢獄へ入ることになったという。
(とはいえ、王子に変わりありませんし。教皇がほどほどの罰を与えて、あとは無罪放免でしょうね)
世の中の理不尽さに胸中でため息をついた頃、屋敷にたどり着いた。
アリアドネの手を取って、共に屋敷に戻る。
リビングのソファに並んで座ると、そっとアリアドネを抱きしめた。
このまま押し倒してしまいたい衝動を懸命に堪える。
アリアドネは疲れているはずだ。リィナの件以後、ずっと不安を抱えていただろうから。
熱を持ち始める身体に気付かないふりをして、あやすようにアリアドネの背中を撫でていると、ふと、アリアドネがもぞもぞと動いた。
「あの、ステュアート様」
「なんでしょう?」
アリアドネを見ると、真っ赤な顔をしている。
熱があるのだろうか、と不安が過ったとき、彼女の両手がそっとステュアートの胸に触れた。
「その……あの……し、しないんですか?」
益々真っ赤になるアリアドネの様子に、ステュアートの心臓がドンドコ太鼓のように大きく鳴る。
三年に一度開かれる、ヒューリア教祭の大太鼓のようだ。
「し、しない、とは……その、何を……」
「ですから……その……いいです、聞かなかったことにしてください」
何かがステュアートの中で、はち切れた。
頭のなかがピンクに染まって、たまらずにアリアドネをソファに押し倒す。
「それはつまり、私と……私のリリアンと遊びたい、ってことでよろしいでしょうか?」
ずいっと顔を近づけて尋ねると、アリアドネはこくりと小さく頷いた。
愛おしさが渦のように全身を駆け抜けて、心と下半身が熱く昂ぶる。
すべてが欲しいと感じた。
アリアドネの心も、身体も、吐息も、人生も、ありとあらゆるものを。
「ありがとうございます、アリアドネさん。……愛しています」
◇
「ひ……っ、あっ」
アリアドネの声が響くのは、寝室ではなくリビングだ。
ざらりとしたステュアートの舌がアリアドネの全身を舐ったあと、まるでデザートだというように、秘裂を彼の肉厚な舌が舐めしゃぶる。
指で秘裂を左右に広げ、硬く尖らせた舌が蜜窟に差し込まれた。
蜜壁の浅い部分を舌が愛撫する感触が、気持ちよくてたまらない。
ピンとつま先が伸びる。
大きく開かれた両足が引き攣るように痙攣し、喉の奧から嬌声が漏れた。
「あ、ああ……っ!」
きゅう、と子宮が収縮して、堪らずに下肢をくねらせてしまう。
ステュアートの顔が離れ、吐息や舌の温もりが去っていく。アリアドネは寂しさを覚えて、秘所の奥が切なく動くのを感じた。
(あっ、やだ……っ)
身体がステュアートを求めている。
もっと彼に触れて欲しくて、もっと感じたくて、深い部分まで熱が欲しい――。
ふ、とステュアートの笑う気配がした。
「可愛い、アリアドネさん」
秘裂に指を挿入されて、意図せずにきゅうと彼の指を締め上げてしまう。
正直な反応をする身体が恥ずかしいのに、ステュアートが嬉しそうにしている姿を見るとこのままでも構わないと思うくらい、ステュアートが愛しくてたまらない。
「こんなに感じてくださっているなんて、嬉しいです。リビングがお好きですか?」
「ち、違います! ステュアート様が、私を愛してるって、言ってくださったから……それに、なんだか、すごく……その」
――回数を重ねるたびに、驚くほどステュアートの愛撫が上達している。
そう言おうとして口ごもったが、ステュアートはあっさりと察したらしい。
美貌を惜しげもなく微笑ませた彼は、叢に隠されている蕾を指で優しく撫でた。
「ひっ……んんっ!」
アリアドネは快楽の波に全身を震わせて、やや遅れて硬直する。
下肢にじんわりとしたぬくもりと淡い痺れが広がって、また少しだけ気をやってしまったことに気付いた。
「あなたを気持ちよくしたいんです。愛しています、アリアドネさん」
「私も愛しています。ステュアート様にも、気持ちよくなってもらいたいです」
言ってから、恥ずかしいことを言ってしまったと後悔してしまう。
けれど、言葉にしないと伝わらないことはすでに経験済みで、二人の関係を今後とも続けていくには、多少恥ずかしくても本音を伝えたほうがよいのだ。
「なので、私もします」
言葉以外にも、行動が伴えば尚良いはずだ。
アリアドネは身体を起こすと、ステュアートのトラウザーズに手を伸ばした。
じつは初夜以降、アリアドネもこっそり閨の指南本を読んで勉強していたのである。
男はここを口で奉仕されると気持ちよくなるそうだ。
トラウザーズを押し上げていた膨らみをそっと撫でると、ステュアートがくぐもった声を上げた。
「っ、アリアドネさん、無理をしなくてもいいんですよ……?」
「……したいです。嫌ですか……?」
ここは急所である。
アリアドネに触れさせるのは怖いのかもしれない。
そんな不安は、こっそりステュアートを見上げた瞬間に消え去った。
真っ赤な首と耳が見えた。
ステュアートはいつの間にか両手で顔を隠して、天井を見上げている。
「……すみません、視覚的に刺激が強くて」
アリアドネは改めて自分たちの状況を意識した。
今はまだ昼間で、場所はリビングだ。
ステュアートはしっかりと服を着込んでいるが、アリアドネは全裸である。押し倒されたあと、あっという間に脱がされてしまったからだ。
いつもと異なる状況のせいだろうか。
ステュアートが可愛く見えて、たくさん気持ちよくなって欲しいと心から思った。
トラウザーズを押し上げる昂りを撫でて感じてくれていることを確認すると、服をずらして昂りを取り出す。
勢いよく飛び出てきたそれは、以前アリアドネが魔獣と間違えて溺愛していたものより大きく、そしてとても逞しい。
まさか、あのとき以上に愛おしく感じる日がくるとは思わなかった。
ちゅ、と先端部分にキスをする。
舌を先端の滑らかな部分に沿うように当てて、括れの辺りまで口のなかに頬張った。
「んん……っ」
唾液ばかりが溢れて、うまく奉仕できない。
それでも舌を絡めて懸命に昂りを愛撫する。
濃い麝香の匂いと独特の味に、頭の奧が痺れて麻痺していくような感覚を覚えた。子宮が疼いて、溢れる蜜もそのままに下肢をくねらせてしまう。
口のなかでビクビクと生き物のように動く熱杭を、秘所に受け入れたくて堪らない。
ふいに、ステュアートの手が伸びてきて、きゅっと乳首を摘んだ。
「――あっ!」
咄嗟に、顔を離してしまう。
その隙にソファの背もたれに押し付けられた。
大きく足を開かされて、剛直が秘裂に宛てがわれる。
ステュアートが熱情に滾ったギラギラした目で、アリアドネを見下ろしていた。
「もう我慢できそうにないのです……いいですか?」
「ん、もう……っ、きて、くださ――」
言い終える前に、ずぶりと肉杭が押し込まれた。
アリアドネは難なく最奥まで受け入れて、もっと奥に来て欲しいと彼の昂りを締め付ける。
ステュアートの顔が近づいてきて、キスを交わした。
何度も角度を変えて、舌を絡ませる頃に熱杭が抽挿を始める。
二人の荒々しい吐息や肌がぶつかる音、ぐちゅぐちゅとした粘着質な水音が興奮を煽っていたが、やがてステュアートの熱以外何も分からなくなっていく。
「ん……っ、あぁ……っ、んっ……!」
深い場所を穿たれるたびに悦びが弾ける。
アリアドネは貪欲にステュアートを求め続けた――。
◇
ぐったりとステュアートの胸の上にもたれかかったアリアドネは、心地よい疲労感にうとうとしていた。
カーン帝国で暮らしていた頃は、自分がこんなに満たされた幸福を感じることができるなんて思ってもみなかった。
自分には過ぎた幸福だと思う一方で、誰にもこの場所は譲らないと強く思う。
ステュアートの傍こそが、アリアドネの居場所になったのだから。
「……アリアドネさん」
はい、と返事をしたかったけれど、声が出ない。
伝わってくる体温や心臓の音がゆりかごのようにアリアドネを包み込み、すぐにでも意識を手放してしまいそうだ。
「私は十一の歳に、地方からフューリア教本部に出てきました。大神官になり多くを救うことが目的です。嘘ではありません――でも、別の願いもありました」
ステュアートは少し言いにくそうに口ごもる。
「……私の両親は悪魔崇拝者でした。私は、生贄として悪魔に捧げるために生まれたのです。ですが、私が『聖力』を得たばかりに悪魔の生贄には使えず、対価を払えなかった両親は悪魔に引き裂かれ魂を奪われました。……そのとき、私の魂は穢れてしまったのです」
穢れの後遺症によって、眠る度に悪夢を見ていたとステュアートは言う。
「両親から譲り受けた唯一のものが、この『穢れ』でした。だから、私はこの『穢れ』を手放そうと躍起になっていたのです。手放して初めて、私は自由に生きても良いのだと……そんなふうに、考えておりました」
大神官として遠征に行くのも、手がかりを探すためだとステュアートは言う。だが調べるほど、魂の浄化が不可能だと知って絶望ばかりが募っていく。
そんなとき、アリアドネという心から愛する人ができた。
共にありたいと願う頃には、いつしか悪夢を見なくなっていた。
「今思うと、あなたとの出会いは運命だったのかもしれません」
ふふ、とステュアートが笑う。
額に柔らかいものが押し付けられた。
「ありがとうございます、アリアドネさん。私の魂の穢れを浄化してくださって、何より、私と出会ってくださって。……眠っている時にこんな話をするなんて、卑怯ですね」
ちゃんと聞いてますよ。
でも、眠っているから話せたのなら、今後も聞かなかったふりをして、胸の中に留めておきますね。
いつか起きている時に話してくれる、その時まで。
アリアドネは心の中でそう答えて、そっと、眠りに落ちた――。
ステュアートは、何度もその言葉を頭の中で反芻した。
理解すると、心臓がやけにドキドキして頬が火照ってくる。
「やっぱり信じて貰えませんか?」
「し、信じて……差し上げますよ。私は大神官ですから」
もごもごと口ごもる。
アリアドネの力はすでに上層部には知れ渡っているし、今後悪用しようと考える者が現れてもおかしくない。
悪魔から直接狙われる可能性だってあるのだ。
大巫女となれば彼女個人に護衛も付くし、安全性が格段に上がる。
しかもアリアドネには聖力がないため、ステュアートたち大神官のように、異形と直接対峙するような危険なことは早々ないだろう。
あってもステュアートが共に行けばよいだけだ。これは他の男に対する牽制になるだろうし、とてもよい考えである。
「ま、まぁ、私の妻であることを第一に考えて頂けるなら」
アリアドネにそう言ってから、教主を見た。
「アリアドネさんには、聖力がありません。大巫女としてその力を使うのでしたら、身の安全を最優先で考えていただけますか?」
「当然だ。他の大神官とは役割が異なるからな」
教主の言葉に、ステュアートは頷いた。
彼はステュアートが本部にやってきた子供の頃、師匠を務めた男である。
色々腹が立つところもあるが、それなりに信用はできるだろう。
何より、今後についてのことは、アリアドネ本人が決めたことだ。
勢いで反対してしまったが、彼女の希望を叶えたいという気持ちもある。
「わかりました。……アリアドネさんがお望みでしたら、そのように致します」
「ありがとうございます!」
花開くような眩しい笑みに、ステュアートは胸をキュンとさせてアリアドネを抱きしめる。
アリアドネの柔らかな香りを吸い込むたびに、安心した。同時に体の中心が落ち着かなくなってしまう。
「ですが、そうですか。私を愛して……ふふ、当然ですね。私に惚れない女性はおりませんから」
「はい、ステュアート様ほど素敵な男性はいません」
笑顔で言うアリアドネが可愛すぎる。
堪らず頬にキスをしたとき、咳払いがした。
教主である。
「もう戻ってよい。アリアドネ、先程見た件についてはステュアートに話しておけ。その後、お前と悪魔の関係に変化があれば知らせるように。それから、ステュアート。此度の件の顛末をアリアドネに伝えておいてくれ」
そう言うと、教主は鬱陶しそうに手を振った。
さっさと帰れという意味だろう。
教主に向かって深くお辞儀するアリアドネの項をじっと見つめたあと、彼女と共に部屋を出て、馬車に乗り込んだ。
アランに見送られて、馬車が動き始める。
「アランさんは一緒じゃないんですか?」
「彼には暫く休暇を与えているんです。怪我の治療に専念するように」
アリアドネの表情は浮かない。
どんな表情のアリアドネも可愛いけれど、やはり笑顔でいて欲しいと思った。
ステュアートは席を彼女の向かいから隣に移動すると、そっと腰を抱く。
「大丈夫です、何も心配いりません」
「……あの、教主様がおっしゃっていた『此度の件の顛末』ってなんですか?」
恐る恐るといった様子で尋ねるアリアドネに、ステュアートは微笑んだ。
「すべて解決しましたので、内容をお話させて頂きますね」
解決した、という言葉にアリアドネはほっとした様子を見せたが、それも一瞬だった。
少しでも表情が晴れるように、ステュアートは優しい口調で話した。
リィナが十年前に両親を失っていること。
その後、唯一の肉親である歳の離れた妹の面倒を見てきたが、その妹を人質に取られて脅され、良いように使われてきたこと。
最初の計画は、カーン帝国でアランを子どもが出来ないようにして王位継承権を奪うことだったという。
しかしそれに失敗したリィナはもう後がなく、悪魔と契約し、確実にアランを仕留めようとした。
「今回リィナの背後にいたのは第三王子です。すでに証拠も揃っており、教皇自ら裁くことになりました」
「そんなにすぐ、判明したんですか!? リィナさんの件があってからまだ三日も経ってないと思うんですけど……教皇様って、すごいんですね」
ステュアートは微笑んだ。
本当のところ、カーン帝国で起きた『妖精と逸物事件』の時点でステュアートはすでに、誰かが妖精の背後にいることに勘づいていた。
確信はなかった。だが、アランが狙われている可能性もあったため、事件の内容を教皇に報告しておいたのだ。
ステュアートにとって教主が親代わりであり師ならば、教皇は尊敬すべき上司であり、個人的に手紙のやりとりをしている。
教皇はアランを溺愛しているため、――これが他の王子たちとの確執を生んでいる理由の一つでもあるのだが――すぐに調査に乗り出した。
意外にも第三王子が怪しいという目星はすぐについたものの証拠がなく、動くに動けない。
そうして日数が過ぎてリィナの件が起きた。
リィナがこの件に関わっていることが判明するなり、教皇は彼女の周辺を調べ、リィナの妹が行方不明になっていることを突き止めた。
そこから妹の所在を探っているうちに第三王子に行き着き、ついに、リィナの妹が幽閉されている場所を特定したのだ。
当然ながら言い逃れの出来ない証拠がごろごろ出てきて、第三王子は牢獄へ入ることになったという。
(とはいえ、王子に変わりありませんし。教皇がほどほどの罰を与えて、あとは無罪放免でしょうね)
世の中の理不尽さに胸中でため息をついた頃、屋敷にたどり着いた。
アリアドネの手を取って、共に屋敷に戻る。
リビングのソファに並んで座ると、そっとアリアドネを抱きしめた。
このまま押し倒してしまいたい衝動を懸命に堪える。
アリアドネは疲れているはずだ。リィナの件以後、ずっと不安を抱えていただろうから。
熱を持ち始める身体に気付かないふりをして、あやすようにアリアドネの背中を撫でていると、ふと、アリアドネがもぞもぞと動いた。
「あの、ステュアート様」
「なんでしょう?」
アリアドネを見ると、真っ赤な顔をしている。
熱があるのだろうか、と不安が過ったとき、彼女の両手がそっとステュアートの胸に触れた。
「その……あの……し、しないんですか?」
益々真っ赤になるアリアドネの様子に、ステュアートの心臓がドンドコ太鼓のように大きく鳴る。
三年に一度開かれる、ヒューリア教祭の大太鼓のようだ。
「し、しない、とは……その、何を……」
「ですから……その……いいです、聞かなかったことにしてください」
何かがステュアートの中で、はち切れた。
頭のなかがピンクに染まって、たまらずにアリアドネをソファに押し倒す。
「それはつまり、私と……私のリリアンと遊びたい、ってことでよろしいでしょうか?」
ずいっと顔を近づけて尋ねると、アリアドネはこくりと小さく頷いた。
愛おしさが渦のように全身を駆け抜けて、心と下半身が熱く昂ぶる。
すべてが欲しいと感じた。
アリアドネの心も、身体も、吐息も、人生も、ありとあらゆるものを。
「ありがとうございます、アリアドネさん。……愛しています」
◇
「ひ……っ、あっ」
アリアドネの声が響くのは、寝室ではなくリビングだ。
ざらりとしたステュアートの舌がアリアドネの全身を舐ったあと、まるでデザートだというように、秘裂を彼の肉厚な舌が舐めしゃぶる。
指で秘裂を左右に広げ、硬く尖らせた舌が蜜窟に差し込まれた。
蜜壁の浅い部分を舌が愛撫する感触が、気持ちよくてたまらない。
ピンとつま先が伸びる。
大きく開かれた両足が引き攣るように痙攣し、喉の奧から嬌声が漏れた。
「あ、ああ……っ!」
きゅう、と子宮が収縮して、堪らずに下肢をくねらせてしまう。
ステュアートの顔が離れ、吐息や舌の温もりが去っていく。アリアドネは寂しさを覚えて、秘所の奥が切なく動くのを感じた。
(あっ、やだ……っ)
身体がステュアートを求めている。
もっと彼に触れて欲しくて、もっと感じたくて、深い部分まで熱が欲しい――。
ふ、とステュアートの笑う気配がした。
「可愛い、アリアドネさん」
秘裂に指を挿入されて、意図せずにきゅうと彼の指を締め上げてしまう。
正直な反応をする身体が恥ずかしいのに、ステュアートが嬉しそうにしている姿を見るとこのままでも構わないと思うくらい、ステュアートが愛しくてたまらない。
「こんなに感じてくださっているなんて、嬉しいです。リビングがお好きですか?」
「ち、違います! ステュアート様が、私を愛してるって、言ってくださったから……それに、なんだか、すごく……その」
――回数を重ねるたびに、驚くほどステュアートの愛撫が上達している。
そう言おうとして口ごもったが、ステュアートはあっさりと察したらしい。
美貌を惜しげもなく微笑ませた彼は、叢に隠されている蕾を指で優しく撫でた。
「ひっ……んんっ!」
アリアドネは快楽の波に全身を震わせて、やや遅れて硬直する。
下肢にじんわりとしたぬくもりと淡い痺れが広がって、また少しだけ気をやってしまったことに気付いた。
「あなたを気持ちよくしたいんです。愛しています、アリアドネさん」
「私も愛しています。ステュアート様にも、気持ちよくなってもらいたいです」
言ってから、恥ずかしいことを言ってしまったと後悔してしまう。
けれど、言葉にしないと伝わらないことはすでに経験済みで、二人の関係を今後とも続けていくには、多少恥ずかしくても本音を伝えたほうがよいのだ。
「なので、私もします」
言葉以外にも、行動が伴えば尚良いはずだ。
アリアドネは身体を起こすと、ステュアートのトラウザーズに手を伸ばした。
じつは初夜以降、アリアドネもこっそり閨の指南本を読んで勉強していたのである。
男はここを口で奉仕されると気持ちよくなるそうだ。
トラウザーズを押し上げていた膨らみをそっと撫でると、ステュアートがくぐもった声を上げた。
「っ、アリアドネさん、無理をしなくてもいいんですよ……?」
「……したいです。嫌ですか……?」
ここは急所である。
アリアドネに触れさせるのは怖いのかもしれない。
そんな不安は、こっそりステュアートを見上げた瞬間に消え去った。
真っ赤な首と耳が見えた。
ステュアートはいつの間にか両手で顔を隠して、天井を見上げている。
「……すみません、視覚的に刺激が強くて」
アリアドネは改めて自分たちの状況を意識した。
今はまだ昼間で、場所はリビングだ。
ステュアートはしっかりと服を着込んでいるが、アリアドネは全裸である。押し倒されたあと、あっという間に脱がされてしまったからだ。
いつもと異なる状況のせいだろうか。
ステュアートが可愛く見えて、たくさん気持ちよくなって欲しいと心から思った。
トラウザーズを押し上げる昂りを撫でて感じてくれていることを確認すると、服をずらして昂りを取り出す。
勢いよく飛び出てきたそれは、以前アリアドネが魔獣と間違えて溺愛していたものより大きく、そしてとても逞しい。
まさか、あのとき以上に愛おしく感じる日がくるとは思わなかった。
ちゅ、と先端部分にキスをする。
舌を先端の滑らかな部分に沿うように当てて、括れの辺りまで口のなかに頬張った。
「んん……っ」
唾液ばかりが溢れて、うまく奉仕できない。
それでも舌を絡めて懸命に昂りを愛撫する。
濃い麝香の匂いと独特の味に、頭の奧が痺れて麻痺していくような感覚を覚えた。子宮が疼いて、溢れる蜜もそのままに下肢をくねらせてしまう。
口のなかでビクビクと生き物のように動く熱杭を、秘所に受け入れたくて堪らない。
ふいに、ステュアートの手が伸びてきて、きゅっと乳首を摘んだ。
「――あっ!」
咄嗟に、顔を離してしまう。
その隙にソファの背もたれに押し付けられた。
大きく足を開かされて、剛直が秘裂に宛てがわれる。
ステュアートが熱情に滾ったギラギラした目で、アリアドネを見下ろしていた。
「もう我慢できそうにないのです……いいですか?」
「ん、もう……っ、きて、くださ――」
言い終える前に、ずぶりと肉杭が押し込まれた。
アリアドネは難なく最奥まで受け入れて、もっと奥に来て欲しいと彼の昂りを締め付ける。
ステュアートの顔が近づいてきて、キスを交わした。
何度も角度を変えて、舌を絡ませる頃に熱杭が抽挿を始める。
二人の荒々しい吐息や肌がぶつかる音、ぐちゅぐちゅとした粘着質な水音が興奮を煽っていたが、やがてステュアートの熱以外何も分からなくなっていく。
「ん……っ、あぁ……っ、んっ……!」
深い場所を穿たれるたびに悦びが弾ける。
アリアドネは貪欲にステュアートを求め続けた――。
◇
ぐったりとステュアートの胸の上にもたれかかったアリアドネは、心地よい疲労感にうとうとしていた。
カーン帝国で暮らしていた頃は、自分がこんなに満たされた幸福を感じることができるなんて思ってもみなかった。
自分には過ぎた幸福だと思う一方で、誰にもこの場所は譲らないと強く思う。
ステュアートの傍こそが、アリアドネの居場所になったのだから。
「……アリアドネさん」
はい、と返事をしたかったけれど、声が出ない。
伝わってくる体温や心臓の音がゆりかごのようにアリアドネを包み込み、すぐにでも意識を手放してしまいそうだ。
「私は十一の歳に、地方からフューリア教本部に出てきました。大神官になり多くを救うことが目的です。嘘ではありません――でも、別の願いもありました」
ステュアートは少し言いにくそうに口ごもる。
「……私の両親は悪魔崇拝者でした。私は、生贄として悪魔に捧げるために生まれたのです。ですが、私が『聖力』を得たばかりに悪魔の生贄には使えず、対価を払えなかった両親は悪魔に引き裂かれ魂を奪われました。……そのとき、私の魂は穢れてしまったのです」
穢れの後遺症によって、眠る度に悪夢を見ていたとステュアートは言う。
「両親から譲り受けた唯一のものが、この『穢れ』でした。だから、私はこの『穢れ』を手放そうと躍起になっていたのです。手放して初めて、私は自由に生きても良いのだと……そんなふうに、考えておりました」
大神官として遠征に行くのも、手がかりを探すためだとステュアートは言う。だが調べるほど、魂の浄化が不可能だと知って絶望ばかりが募っていく。
そんなとき、アリアドネという心から愛する人ができた。
共にありたいと願う頃には、いつしか悪夢を見なくなっていた。
「今思うと、あなたとの出会いは運命だったのかもしれません」
ふふ、とステュアートが笑う。
額に柔らかいものが押し付けられた。
「ありがとうございます、アリアドネさん。私の魂の穢れを浄化してくださって、何より、私と出会ってくださって。……眠っている時にこんな話をするなんて、卑怯ですね」
ちゃんと聞いてますよ。
でも、眠っているから話せたのなら、今後も聞かなかったふりをして、胸の中に留めておきますね。
いつか起きている時に話してくれる、その時まで。
アリアドネは心の中でそう答えて、そっと、眠りに落ちた――。
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