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第三章 結婚式からの初夜

3―2、

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 夫婦の寝室に案内されたメリアは、驚きで立ち尽くしていた。
 部屋は広く、衣装棚やカウチ、物書き用の机、閉ざされた窓を覆う青を基調とした色合いのカーテン、それらはすべて新調されたもので、どれもこれもが、メリアの好みと理想そのものだった。
 何より凄いのは、部屋の突き当りで存在感をかもす天蓋付きの大きなベッドだ。
 ベルベットのカーテンと薄い白色のレースの天蓋が、高級家具であることを示しており、震える手でそっと撫でると、驚くほどに柔らかい質感をしている。

「……すごい」

 すべて、メリアとの結婚生活のために揃えてくれたのだろうか。
 家具の手配から運び入れまで、結構な手間と資金がかかっただろうに。

(これから新婚生活が始まるのね)

 否が応にも、自分が人妻になったことを意識させられる部屋だ。
 メリアはそっと、ベッドにあがった。
 天蓋の幕のなかは、小部屋にいるような感覚だ。
 うるさいほどの静寂のなか、メリアは優しく布団を撫でる。
 かつてメリアは、両親のような結婚をしたいと夢を見ていた。いや、夢なんてものじゃない。
 両親のように仲睦まじい夫婦になることが、メリアが望む未来であり、目標だったのだ。

(そういえばお父さん、最後まであの人の名前を教えてくれなかったな)

 庭で出会った初恋の男は、どうやら父の知り合いらしい。
 母のミーティアが一度名前を呼んでいた記憶があるが、なんて呼んだのかうまく思い出せず、結局わからなかったのだ。
 メリアは、首を横に振って考えを振り払った。
 今夜は初夜だ。
 初恋の男など、思い出している場合ではない。

(今のうちに、心を落ち着けておこう)

 深呼吸をしようと息を深く吸いこんだメリアは、ドアを叩く音がして、身体を強張らせた。
 部屋に入ってきた相手は、一度足を止めて、ベッドへ歩み寄ってきた。天蓋付きのベッドの幕が開かれて、夜着に身を包んだゲオルグが顔をみせる。
 深呼吸をする余裕などなく、心臓が、大きく脈打ち始めた。
 知らず背筋を伸ばし、ベッドの上で正座をする。
 ベッドに横座りしたゲオルグは、風呂上がりの大人の男性だった。
 思えば、湯上りの男性を見るのは初めての経験だ。仕事中は毅然としていた父も風呂上がりはパンツ一枚で部屋を歩き回っており、メリアにとっての風呂上がりの男性は、父しか知らない。
 ゲオルグのように、裾の長いガウンを纏った男性がこんなにも色っぽいものだなんて、想像さえしておらず、メリアの胸は高鳴りっぱなしだ。

(な、何か、言わないと)

 ゲオルグが枕元の卓にあるワインに手を伸ばしたが、躊躇うように手を引っ込めた。

「メリア」
「はい!」

 思っていたよりも大きな声が出てしまい、顔が熱くなる。
 ゆっくりとメリアを振り返ったゲオルグは、くっとおかしそうに笑った。ゲオルグの大きな手が伸びてきて、メリアの頭を優しく撫でる。
 細めた目がメリアを見ていて、嬉しさからメリアも破顔した。

(なんだか、褒められてるみたい)

 もっと撫でてほしくて、そっと身を前に傾げると、ゲオルグの手がメリアの頬を滑り、頤を持ち上げる。
 男性の硬い手のひらや、ごつごつとした指先の皮膚は、まさに軍人のそれだ。
 これまでもこの手に、抱き上げてもらったり手当てをしてもらったりしてきたのに、今は肉食動物に睨まれる小動物のように、怖々とした心地を抱いている。
 同時に、胸の奥がむずむずと落ち着かず、ちら、とゲオルグを見上げた。

(もっと触れてほしい)

 手のひらのぬくもりを、いや、ゲオルグ自身のぬくもりを、メリアにも分けてほしい。メリアの心を汲み取ったのか、ゲオルグが親指を滑らせて、メリアの唇に触れる。
 むにむにと弾力を確かめるように、上と下の唇を同時に親指で押さえてきた。

「柔らかいな」

 うっとりと呟かれて、メリアは頬を朱色に染める。
 ただ唇を、指で撫でられて、押しつけられているだけなのに、甘い疼きが身体中を駆け巡ってしまう。
 心音が、空気に漏れてしまうのではと不安になるほどに高鳴った。
 ゲオルグの指に当たって返ってくる、熱を持つ自らの吐息にさえ、身体が疼いた。まだ何も始まっていないのに、こんなふうに身体を熱くしてしまうなんて破廉恥だ。

「メリア」

 確認するよう低い声で呼ばれて、ゲオルグの指に向けていた視線をあげると、熱のこもった視線を真っ向から受けて息を呑んだ。
 いつもは鋭い瞳は穏やかに弧を描いているのに、ぎらつくほどの情欲が隠されもせず、メリアへ注がれる。
 ぶわっ、と身体が火照り、メリアは落ち着かずに座り直した。

(早く、触れて……欲しい。早く……!)

 メリアは、顎に添えてあるゲオルグの腕に触れた。

「んぅ」

 ちろ、と舌先で親指の腹を舐めると――メリア自身なぜそんなことをしたのかわからないが――ゲオルグの瞳が、煮えたぎる炎のように揺らめいた。
 メリアを視線だけで犯せるほどにゲオルグの情欲が強く瞳に灯り、項から背筋にかけてゾクゾクと甘い痺れに侵されてしまう。
 愛する男に求められていることが嬉しくて、もっと強く舌をとがらせてゲオルグの指を舐めてから、ちゅう、と口に含んだ。

「っ、随分と誘ってくるものだ」
「――ぁ」

 嫌われてしまったのだろうか。
 不安で慌てて顔を離すと同時に、唇が合わさり、噛みつくような口づけを交わす。
 熱い吐息や柔らかな舌の感触、さりげなく腰を支えてくる腕の熱さに身体を震わせた。
 メリアは、ゲオルグから香る彼自身の匂いや激しい口づけに驚いて、咄嗟にゲオルグのガウンにしがみつく。
 ぼんやりとした思考のなかで、腰を支えられる腕に促されるまま、ゲオルグの胸に身体を寄せた。
 唇ごと食べられるのではないかと思うような口づけは、すぐに唇の隙間を割って舌が入り込み、メリアの口内を蹂躙する。
 乱暴に舌を吸い上げられて、大きくざらりとした舌を絡ませるとお互いの唾液が混ざり合い、くちゅぐちゅと卑猥な水音が部屋に響いた。
 名残惜しくゆっくりとゲオルグの顔が離れると、ゲオルグの黒い瞳のなかに、酷く妖艶な女がいる――。

(私⁉)

 メリアは、咄嗟に口元を押さえて、身体を逸らした。
 腰を支えるゲオルグの腕がメリアを逃がさずに、さらに身体を密着させる。

(わ、わたし、また、破廉恥なことをっ)

 自分から強請るような真似をしてしまうなんて。
 羞恥と嫌われてしまうのではないかという恐怖で怯えるメリアの額に、ゲオルグが口づけを落とした。

「すまない、余裕がなくてな。……だが、初夜は一度きりだ」
「は、はい」
「じっくりと、愛したい。全力で頑張ってくれるのだろう?」

 馬車のなかで約束した話を持ち出されて、メリアは小さく震えた。恐怖のためではない。悦びで震えたのだ。
 メリアは、生唾を飲み込んでそっと頷いた。

「旦那様の、お望みのままに」

 にやり、とゲオルグが笑う。
 悪の王のような、威圧感と支配欲をぎらつかせた笑みに、小さく喉がひくついた。ゲオルグがメリアの頭の後ろに手を回して角度をあげ、顔を近づけてくる。
 唇が合わさると、先ほどよりもゆっくりと味わうような口づけが始まった。歯列をなぞり、上顎を舌で押しつけるように撫で、舌を絡ませながらも味わうように口の中を吸い上げて――言われていないのに、メリアもゲオルグの動きに合わせて、舌を差し出し、貪るように唇を押しつける。

「ふっ、ん、んぅ」

 先ほどの激しい口づけよりも、緩慢な動きで絡めとる舌は、じっくりと堪能するようにメリアの口内を甘く犯す。
 身体の中心が熱を持ち、その部分に熱が溜まっていくような錯覚を覚える。身体が火照っていけばいくほど、意識が朦朧と心地よく溶けていく感覚がした。
 このまま意識が飛んでしまったら、どうなってしまうのか。
 震える手でゲオルグのガウンを掴むけれど、力が入らずに、自分から身体を擦りつけるような格好になってしまった。

(心臓の音、聞こえちゃう、かも)

 メリアは、小さく身じろいだ。

「――っ!」

 布越しに擦れた胸の先端に、ちりっとした痛みを感じて、身体が大きく跳ねてしまう。
 それを見逃すゲオルグではない。
 ゆっくりと顔を離すと、観察するようにメリアの赤い顔を見つめた。荒い呼吸を整えようとするメリアの目にもゲオルグの上気した頬や唾液に濡れた唇が映り、胸の奥がキュンと甘く痛む。
 束の間の静寂のあと、ゲオルグは口の端をつり上げた。乱暴に自らの口元を袖で拭うと、視線をメリアの身体に下げていく。

「夜着越しでもわかるほどだな」

 何が、と言われなくてもわかる。
 口づけだけで胸の突起がこんなにも強調されてしまうなんて、凄くいやらしい女だと思われたに違いない。
 泣きたいほど恥ずかしいのに、心の奥で期待してしまう。
 もっと見てほしい、深い部分まで触れて、愛して、放さないでほしい。
 あれほど嫌悪していた自分の身体を愛してほしいなんて、浅ましい自身の考えが嫌だった。嫌なのに、求めてしまう。
 腰に添えてあったゲオルグの手が、焦らすように夜着を這い、腹、脇腹、そして、呼吸するごとに上下する胸の膨らみに触れた。

「あっ」

 大きく硬い、剣を持つ者の手のひらの感触が、メリアの胸の輪郭を、形を確かめるように撫でる。下から上に、マッサージでもするかのように焦らしながらゆっくりと揉まれて、首を横へ向けた。
 ゲオルグの熱い吐息が鎖骨へかかったと感じた瞬間、ざらりとした弾力のある舌が首筋を舐めて、強く吸いついた。

「あんっ」

 身じろぎして、ガウンを掴んでいた手をゲオルグの頭に添える。

(な、なんで、私、さっきからっ)

 自分から引き寄せてしまうなんて、してほしいと望んでいることが知られてしまう。

「可愛いな」

 耳元にかかる吐息に、びくりと身体が跳ねた。胸を揉む手の動きが変わり、表面を撫でるように指先がうごめき、そそりたつ突起を摘まみ上げた。

「ひっ!」

 これまでとは比べ物にならない痺れが、胸から全身に、稲妻のように走り抜ける。甘い痺れは下腹部の疼痛を大きくさせて、メリアをより大胆にさせた。
 ゲオルグの頭に添えていた手を首筋に回して、もう片方の手を彼の腰に添えたのだ。
 ゲオルグがメリアに触れやすいように体勢を変えたことは、彼にもすぐに伝わったらしい。
 ふと笑う声がしたかと思うと、ゲオルグの顔が近づいてきて触れるだけの口づけのあと、頬へ、首筋へと、唇と舌を使った愛撫が続く。

「あっ、んぅ、やぁ」

 つつ、と舌が這うたびに、呼吸が乱れて、下半身が否応なく動いてしまう。メリアは、それらすべてがゲオルグに知れていることも理解していた。

(恥ずかしいのにっ、もっと、触って、ほしい)

 胸の突起をくにくにと指先で弄ばれて、嬌声が漏れる。
 指からもたらされる快感を貪っているうちに、ゲオルグの唇が胸元に降りてきた。

「……夜着が、邪魔だな」

 ぴたり、と突起をいじる指が止まり、メリアは視線をゲオルグへ向ける。
 熱情を大きくした瞳を間近で見て、じわり、と秘部が濡れるのを感じた。早く触れてほしい、胸に、全身に、深くまで。

「ぬ、脱いだ方が、いいでしょうか」
「そうして貰えると助かる」

 微笑むゲオルグに、メリアは頷く。
 早く脱いだほうがいいと思い、一気に首をぐぐらそうとすると、ゲオルグに止められた。

「前のボタンを、一つずつ、上から外すんだ」
「は、はい」

 前開きの夜着を、横着して脱ごうとしたことを窘められてしまう。
 すぐに、前開きのボタンを上から外していく。

「ああ、綺麗だな」

 二つ目のボタンをはずしたとき、飛び出そうな乳房を見たゲオルグが吐息交じりに言った。思わず手を止めてしまったが、すぐに、次のボタンをはずす。
 すべてのボタンをはずし終えると、はだけた夜着の隙間に、ゲオルグが手を差し込んでくる。上半分しかボタンのついていない夜着は、ボタンを外し終えてもなかなか脱げないのだ。

「あの」
「脱がしてやろう」

 ゲオルグは夜着の裾をたくし上げて、さっさとメリアの肌から外してしまう。ドレスのような夜着に前開きのボタンなど不要なのに、どうして前のボタンを外す必要があったのか、一瞬だけ疑問が過ったけれど、すぐに考える余裕などなくなった。
 メリアの大きな胸がぶるんと空気にさらされて揺れ、果実のように色づいた先端にまた刺激が走る。
 ドロワーズだけになったメリアは、咄嗟に両手で胸を覆い隠した。

「きみは本当に、綺麗だな」

 低く熱のある声音に、大きく肩が揺れる。
 ゲオルグの手のひらが腰を撫でると、触れ合う素肌から伝わる体温の熱さに驚いた。

「このままでも、十分良いのだが」

 言うなり、あっという間にメリアをベッドに横たえてしまう。上から覆いかぶさり、右手をメリアの頭を横について格子のように閉じこめたゲオルグは、じっくりとメリアの白い素肌を眺めた。
 普段と変わらない冷静なゲオルグだった。
 なのに、上気した頬や乱れた呼吸、劣情の灯る視線が、ゲオルグが狂暴な雄になっていることを嫌でもわからせてくる。

「隠さずに、見せろ」
「――っ、は、はい」

 胸を覆っていた両手をシーツに下ろす。先ほどまで摘ままれていた突起が、もっと触れてほしくて硬く尖っているのがわかる。
 なのに、ゲオルグはメリアの胸に触れることなく、覆いかぶさったまま、すぐ近くからメリアの大きな胸を食い入るように見つめた。

「ああ、いいな。すごくいい」
「あ、あの、私、太いから、その、ごめんなさい」
「きみの心配は杞憂だ」

 ゲオルグはメリアの胸元に吸いつくと、身体をずらして、メリアの胸の先端を口に含んだ。これまにない甘い疼痛が襲い、じくりと下腹部を刺激して、メリアは身体を強張らせた。

「ああっ! ひっ、あっ、んっ」

 飴を舐めるように口内でころころと転がされる突起は、刺激されるたびに甘美な痺れを全身に齎し、メリアは何度も声をあげてしまう。

「可愛い、メリア」
「ひっ、あ、あああっ」

 きつく突起を吸われて、目の前で何かが弾けた。
 反対側の乳首も指先でこねられて、両方の胸から齎される刺激に、下半身を大きくゆすってしまう。

「あっ、ん、ふぅ」

 両足をこすり合わせるたびに、ドロワーズの濡れが大きくなっていることに気づいたけれど、止められない。
 もっと直接的な、大きな刺激が欲しくてたまらない。

「だ、だんな、さまっ」
「気持ちよさそうだな」
「はいっ、ん、気持ちい、です」

 シーツを掴んでいた両手をゲオルグの首筋に回すと、ゲオルグは微かに驚いた顔をした。
 次の瞬間、強く乳首を吸われて、大きく膝を曲げる。足の指先にシーツが引っかかって引き寄せ、皴が出来てしまう。

「取れちゃ、あぅ」
「ん、うまいな。ずっと食べていたい」
「あっあああっ」

 強く吸われるたびに何かが押し寄せてくる感覚がして、逃れるように首を振る。
 押し寄せてくるそれは波のようで、押し寄せては引いて、次に押し寄せるときはさらに大きな波となって、メリアを飲み込もうとするのだ。
 このまま耐えきろうと懸命に我慢するメリアに、ゲオルグは愉快そうに笑って、メリアの太ももを撫でた。
 じわり、と滲む愛液を感じた瞬間、まさに、愛液が溢れた場所へゲオルグの指が押しつけられる。

「だ、だめっ」

 ドロワーズ越しにぐりぐりと押しつけてくる硬い指の腹は、水気を含んだドロワーズとこすれて、グジュッと音が鳴る。

「凄い濡れているが、漏らしたのか?」
「ちが、ちがいますっ」

 そんな幼子ではない、と主張したメリアに、ゲオルグがおかしそうに笑った。

「ならば、なぜ濡れている?」
「それは」
「教えてくれ。ここは、なぜこんなにぬるぬるしているんだ?」

 ぐじゅぐじゅと水音を強調されてしまい、メリアは齎される甘い痺れに耐えながら、口をひらいた。

「嬉しくて、その、旦那様に触れて頂いたことが……」
「嬉しくて、どうなった?」
「んっ、濡れて、しまいました」
「そうか、私に触れられることが嬉しくて、こうなってしまったのだな」

 繰り返されて、羞恥で頬が熱くなる。
 ゲオルグの口で繰り返されてしまえば、自分の淫らさを自覚せずにはいられない。初めての行為にいやらしく濡らしているはしたなさに、泣きたいほど悲しくなってしまう。

「私も嬉しい」
「……え」

 ゲオルグがメリアの頬に唇を押し当てる。
 下腹部を這う指が秘裂をなぞり、ドロワーズごと奥へと侵入してくることで、ざらりと布がこすれて、これまでにない刺激に益々蜜を溢れさせてしまう。
 すぐに察したゲオルグが、小さく笑うのが分かった。

「いやらしい女になったな」
「申し訳ございませ――」
「嬉しいと言ったはずだ。触れただけでこんなに乱れて、蜜を溢れさせて……私の、可愛いメリア」
「――っ」

 甘く囁く声が、メリアの意識の深くを溶かしていく。

(喜んで貰える? 乱れて、恥ずかしいことになってるのに……嬉しいって、言って、くださった)

 そう理解した瞬間、知らずに腰が揺れ、ゲオルグの指に自らを押しつけていた。慌てて静止するけれど、もっと触れてほしい欲望が今にも爆発しそうで、唇を噛んで耐える。

「……そんなふうにされると、理性がもたん」

 ゲオルグは呟くと、驚くほどの手際のよさで、ドロワーズを膝まで下ろしてしまう。一糸まとわぬ姿になったメリアを見下ろすゲオルグは、ひと目でわかるほど呼吸を乱しており、緊張が滲んだ表情のままメリアの秘部へ触れた。

「ひっ」

 ドロワーズ越しではない、硬いゲオルグの指が秘裂をなぞり、割れ目に沿って、ぷくりと膨らんだ場所を探し当てる。

(そこ、だめ――)

 腰を引こうとしたメリルだが、いつの間にか反対の手で腰を抑え込まれており、ベッドから動くことが出来ない。

「だ、だめ」

 ぐりゅ、と赤く腫れた花芽を指の腹で押しつぶされて、メリアの背中が弓なりにしなる。目の前が真っ白に染まり、ハクモクレンの花びらが散る幻を見た。
 息をつめて、両足をピンと伸ばしたままがくがくと震えたメリアは、どぷりと蜜を溢れさせたあと、身体を弛緩させた。

(私……きちゃっ、た)

 無意識にゲオルグを視線で追うメリアに、ゲオルグのほうから視線を合わせると、メリアの頭を優しく撫でて、軽く啄む口づけを何度も繰り返した。
 優しい口づけに、初めて気をやって不安に揺れていた心が、温かく溶けていく。

「辛くないか?」
「はい……ありがとうございます」

 メリアの微笑みに、ゲオルグも笑みを返す。
 勿論、これで終わりではないことくらい、メリアも知っている。これから、濡れそぼった秘部に、ゲオルグのものを受け入れるのだ。

「やはり、不安か?」

 メリアの表情を見たゲオルグが、淡々とした口調で問う。瞳に浮かぶ熱はそのままなのに、始終冷静なゲオルグの姿に思わず苦笑してしまった。
「正直に申し上げますと、不安です。旦那様が、私を求めてくださるのかと……は、反応して頂けるように、私、頑張ります」

 弱気になっては駄目だ、妻としての役割を全うすると約束したのだからとメリアは自身に言い聞かせる。

(あっ、でも、男性はプレッシャーに弱いって、ラナが言ってたような)

 ラナは一昨年結婚退職した同期の宮廷使用人だった。強そうに見えて、実は繊細な人なのよ、と彼の恋人に会わせてもらったとき、そう紹介された。
 夜の事情については使用人としての教養座学で学んだだけだったメリアに、具体的な方法を教えてくれたのもラナだ。

(今の私の言葉、物凄くプレッシャーになったんじゃない?)

 さっと顔が青くなる。
 女性が苦手だと公言するゲオルグに対して、抱いてくれと直接言ったようなものだ。
これでは、妻として、初夜として、よろしくないのではないかと焦ってしまう。

「あ、あの、私、待ちますから。旦那様が、求めてくださるまで」

 顔をあげると、ゲオルグが驚いた顔をしていた。

(やっぱり、変なこと言っちゃった⁉)

 泣きそうになるメリアに、ゲオルグが噴き出した。

「何を誤解しているか知らんが、私はきみを愛していると言ったはずだが。挙式の多忙さのなかで、忘れてしまったのか?」
「いいえ! あのように、嬉しいお言葉を頂けるなんて思っておらず、夢のように幸せな時間として、胸に刻んでおります」
「あいにく、夢ではないんだがな」

 ぎしり、とベッドが軋んで、ゲオルグが覆いかぶさってくる。片手で器用にガウンの腰帯を解くと、鍛えられた広い胸板が見えた。
 メリアは、がしりとした頼りがいのある胸板がしっとりと汗で潤んでいるのを見て、なんだか見てはいけないものを見てしまった気持ちになってしまう。

「きみが感じているのが、とても嬉しく思えた」

 欲情に濡れた黒い瞳が、すぐ近くからメリアを見下ろす。
 獲物を求める雄の目に、一度は落ち着いた身体がまた、甘く疼く。

「きみを愛しているからだ。……愛する女を妻に迎えて、やっと、この腕で抱けるのだから、感じないはずはないだろう」

 ゲオルグがまた、にやり、と笑う。
 悪い男の顔で、ゲオルグがメリアの手に己の手を重ねた。
 そのまま、はだけたガウンのなかへ導かれる。

「――っ!」

 火傷しそうなほどに熱く硬いものに、手のひらが触れた。
 ぬるりと濡れており、何気なく指を動かして撫でると、大きくびくんと動く。

「くっ」

 苦しそうなゲオルグの声に、慌てて手を放そうとしたけれど、ゲオルグはメリアの手を熱い塊に一層強く押し当てた。そこは何度も、びく、びく、と動いて、どこかから流れてくるぬめった液体が、メリアの手を濡らしていく。

(これって、旦那様の、お、おち……)

 ラナは、男のそこは興奮すると大きく硬くなると言っていたけれど、ここまで大きくなるなんて思ってもいなかった。メリアの蜜窟に挿入するものだというから、もっと小さいものだと考えていたのに。

「わかるか? きみを、どれだけ求めているか」

 うっすらと汗をにじませたゲオルグが、メリアの瞳を見つめてくる。同時に、下腹部へ導いたメリアの手を動かして、怒張を手のひらに擦りつけてみせた。

「ふっ、くっ……メリアの手は、気持ちがいいな」
「ほ、ほんとう、に」
「ああ。こんなに、大きく硬くなったのは、初めてだ。早く奥へ入りたい」

 触れられたわけでもないのに、メリアの身体が大きく震えた。
 じわ、と秘部から蜜がこぼれて、シーツを濡らす。
 追い詰められた獲物のように、ベッドに縫い付けられたまま、メリアは静かに呼吸を荒くして、ゲオルグの昂った瞳を見つめ返した。
 身体がおかしい。
 先ほどあんなにも気持ちよく導かれたのに、身体の芯が疼いて、もっと欲しいと――この、硬く熱い塊が欲しいと、欲望が大きくなっていく。

「嬉しいです。……旦那様、その、は、はやく」

 もじもじと足を擦り合わせるメリアを見たゲオルグの表情が、愉悦に歪む。
 ゲオルグは昂りに押しつけたメリアの手を解放すると同時に、メリアの足を大きく広げて、間に身体を割り入れた。

「あっ」

 メリアは、いつの間にかドロワーズが足首まで下がり、右足にかろうじてひっかかっていることを知る。下着もなしで足を開かされた状態では、秘部が丸見えになってしまう。
 両手で隠そうとすると。

「見られたくない、ということはないだろう? ああ、自分で広げてみせてくれるのか」

 そう尋ねられて、メリアは口をぱくぱくさせる。
 見られたくないのではなく、恥ずかしいのだ。
 けれど、あれだけ気持ちよくしてもらったのに、自分だけこんなふうに出し惜しみするなんて、そんな偉そうなことしていいはずがない。

「ひ、広げる、って、どうやって」
「ここだ」

 ゲオルグの指が秘裂を撫でたあと、蜜を指に絡ませながら、割れ目に沿うように指を沈めていく。
 指が、明らかに表面ではない部分に侵入して、内壁の浅い部分を指の腹で撫で始めた。

「やっ、あ、旦那様っ」
「嫌なのか?」
「ちがっ、す、すこしだけ、怖い、です」
「痛みは?」
「な、ないです」

 浅い部分を撫でていたゲオルグの指が、ずぶりと少し先へ差し込まれる。さらに奥へ、ぬるっと滑るように侵入してくる異物感に、メリアは身体をぶるりと引きつらせた。

「っ、自分から奥へ誘い込むのか、きみは」
「……あ」

 きゅう、と絞めた膣が、ゲオルグの指を奥へ導いてしまったと察して、どうしていいかわからず、シーツを強く掴んだ。

「ごめんなさい」
「謝らなくていい。きみのここは、とても気持ちよさそうだ」

 ゲオルグの指が、二本になり、三本になる。
 三本目がほんの少しだけ苦しかったが、痛みはなかった。

「メリア、これからここに、私のものがはいる」

 ゲオルグが荒い呼吸とともに呟いた言葉に、すでに息も耐え耐えになっていたメリアは、ぼんやりとした目をあげた。
 先ほどから、浅い所を刺激するゲオルグの男らしい指に、蜜壺が切なく疼いている。ぐちゅりとかき混ぜられるたびに蜜が溢れて、早くほしいと蕩けていた。

「くだ、さ……い。奥に」

 メリアは咄嗟にシーツを掴んだけれど、はっと気づいて、探るように手を自らの秘部に導いた。ゲオルグが指でほぐしてくれた場所がわかりやすいように、両手でそっと、広げてみせる。

「こう、で、あってますか?」
「……ああ。きみは、私を煽るのが上手いな」

 水音をたてて指が引き抜かれ、質量のある熱の塊が押し当てられた。
 身体を強張らせたメリアに、ゲオルグが唇を合わせてくる。

「ん、ふぅ」
「はぁ、そのまま、広げていてくれるか」
「あっ、はっ、はいっ」

 怒張が押しつけられて、ゆっくりとなかへ沈んでいく。
 知らず力んでしまうたび、合わさった唇から入り込んだ舌がメリアの小さな舌を絡めとり、蕩けるような口づけをする。
 身体の力が抜けるのを見計らったように、ずぶ、と怒張が蜜窟を進んでいった。
 あれほど蜜で溢れていたにも拘らず、メリアの蜜窟は怖くなるほど広がって、ゲオルグの怒張を、ギチギチになって受け入れる。

(あぁ、痛っ)

 これ以上は無理だ、と涙がこぼれそうになった瞬間。

「あぁ、メリアのなかは、気持ちがいいな」

 熱に浮かされたように切ない声で、ゲオルグが言った。すぐ近くで視線が交わり、メリアだけを映した瞳に絡めとられた瞬間、蜜壺が甘い疼痛に震えた。
 きゅう、と蜜窟が締まり、最も深い場所へとメリア自ら、ゲオルグの昂りを誘いこもうとする。

「メリアっ、きみはっ……くっ、すまない」

 メリアにだって、どうしようもできない。身体が反応して動いてしまうのだから。弁解しようと口を開いた瞬間、勢いよく奥まで貫かれて、メリアは背中を大きく逸らせた。

「――っ!」

 大きすぎるそれがもたらす痛みと衝撃に、呼吸を忘れて、ただ押し込まれた怒張から伝わる熱や脈を感じる。
 目の前がチカチカして、苦しくて、喉がひくついてしまう。
 ぱしん!
 ゲオルグに軽く頬を叩かれた。
 瞼をあげると、これまでで最も息を乱し、額に汗を浮かばせたゲオルグが、メリアを見ていた。

「呼吸をしろ、ゆっくりだ。手は、私の背中へ回せるか?」

 言われるままに、ゆっくりと息を吸って吐き、両手をゲオルグの背中にまわす。汗ばんだ背中は広くて、ふわりと香る男の匂いを、先ほどよりも濃く感じた。

「痛むだろう?」

 覆いかぶさったまま頭を撫でられて、メリアは笑み崩れた。

「平気、です。求めてくださって、その、こんなに硬くしてくださって、嬉しいです……あぅっ!」

 ナカに沈んだ怒張が一回り膨らんだ気がして、メリアはゲオルグの背中にしがみついた。

「これ以上、煽るな」

 言うなり、ゆっくりとゲオルグが腰を動かし始める。
 メリアはどうしたらいいのかわからずに、ゲオルグの背中にしがみつきながら、ただ痛みに耐えた。
 狭い秘窟のなかを行ったり来たりするたびに、先の太い部分がこすれて痛む。けれど、メリア以上に苦しそうなゲオルグの呼吸や唸り声を聞いていると、痛いなど言えるわけがない。

「く、苦しい、ですか」

 手をそっと動かして、背中を撫でた。少しでもゲオルグの痛みが和らぐといいと思いながら。
 ゲオルグは、両手でメリアの太ももを掬うように持つと、ぐじゅりと音をたてて奥まで怒張を突いた。
 入ってきた勢いのまま引き抜かれ、蜜窟をこすりあげながら、また奥へと押し込まれる。

「ひっ」
「苦しいに決まっているっ」

 メリアの内壁をこすりつけるように、怒張を繰り返し奥へと打ち付けながら、ゲオルグが言う。

「私がどれだけ、きみとこうしたかったか、わかるまいっ」

 ぐじゅ、じゅぼっ。
 下品ともいえる水音が、メリアの耳に届く。
 そこには想像していた美しい初夜や、心ときめくような喜びなどない。現実はもっと、ドロドロとした、獣のような交わりだった。
 頭脳派と言われ、知性に溢れた騎士軍師が、本能のままにメリアを求めて腰を打つ姿は、とても野性的で愛おしく、メリアの身体に確かな快楽を齎した。

「はぁ、いい。凄くいい、メリアっ」

 これまでの疼きとは違う、もっと深くて大きいそれは、お互い以外見えなくさせてしまう。

「メリア、すまない……もっとだっ。足りん!」

 動きが一層早くなり、熱杭がメリアの奥を繰り返し蹂躙する。
 交わった部分が溶けてぐちゃぐちゃになり、感覚さえ鈍っていくなかで、甘い疼きだけは大きくなっていく。
 痛いのに、苦しいのに、確実に芽生えた快感を拾い上げようと、メリアは必死にゲオルグにしがみ付く。
 汗ばんだ彼の肌を感じるたび、ゲオルグの長い前髪がメリアの額にすれるたび、もっと深くまで突きあげてほしいと、無意識に腰をくねらせるメリアの腰を、ゲオルグが両手で押さえた。

「メリアっ……メリア、メリアっ!」
「だんなさまっ、また、きちゃう……あっ、奥、きちゃう!」

 呂律の回らない言葉で、メリアはゲオルグに気持ちを伝える。

「旦那様っ、あ、ああっ、あっ、おかしく、なっ、ちゃっ」

 腰を掴むゲオルグの手に、メリアは自分の手を重ねた。
 このままおかしくなってしまうのでは、と怖かったけれど、一緒なら大丈夫だ。

「ふ、うっ、限界だ。射精すぞっ」

 腰がより早く、角度をつけてぶつけられ、メリアは熱杭がもたらす快感に、歯を噛みしめて耐える。
 これまでにないほどに、より一層深くまで突き入れられた瞬間、メリアの視界は真っ白になった。ぶわっ、と全身から力が抜けて、体重そのものが消えてしまったかのような、不思議な心地のなか。

「あっ、くっ、ああっ!」

 低く唸る男の声が聞こえ、熱杭が大きく膨んで。
 何度も繰り返し、火傷しそうな白濁が、メリアの奥へと注がれた。







 朝日が差し込む部屋の中、静かに寝息をたてているメリアを見つめながら、ゲオルグは微笑む。

(……幸せにしたい)

 そっと、メリアの顔にかかった前髪を払ってやる。
 柔らかな赤茶色の髪に触れるだけで、昨夜の甘美な交わりを思い出して、ずくんと下腹部が痺れた。
 もっと、もっと、愛したい。
 けれど、騎士として鍛錬を欠かさないゲオルグと、宮廷使用人のメリアでは体力差は歴然だ。
 ゲオルグは、昨夜を思い出して口の端を歪めた。
 メリアは、意外に身体を鍛えているらしい。
 二度目、三度目と肌を重ねても、朦朧としながらも意識を保っていた。激しい運動に等しい行為をしたのだから、疲労で眠ってしまってもおかしくはないのに、メリアは自分で水差しから水を飲み、ゲオルグの分も差し出すほどに余裕があった。
 誰も見ていないことをいいことに、ゲオルグはにまにまとだらしのない笑みを浮かべて、メリアの頭に口づける。

(破瓜の痛みが落ち着いた頃にはもっと、激しく……いや、じっくりと隅々まで愛そう)

 今日から一週間、まとめて有休をとっているため、ゆったりとした新婚生活が送れるだろう。
 急な呼び出しがない限り、ゲオルグも屋敷にいることが出来るし、メリアがここでの生活に馴染むのを助けてやれるかもしれない。
 ゲオルグはもう一度メリアの髪を梳いて撫でたあと、彼女を起こさないよう、ベッドから抜け出した。
 床に投げ捨てたガウンを纏い、メリアの夜着を拾って畳むと、彼女の枕元へ置いておく。名残惜しくメリアへ視線を投げてから、隣接する書斎へ向かった。
 隠してあった鍵を取り出し、執務用の机の引き出しにある鍵穴へ差し込む。
 そこから取り出したのは、手のひらほどもある大きな鍵だ。この鍵は、屋敷の三階奥部屋のもので、ゲオルグ以外、誰も入ることを許していない場所である。

(……メリアにも、入らないように説明しておかねば)

 確かに鍵が引き出しにあることを確認すると、再び施錠して、ほっと息をついた。
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