不機嫌な先生は、恋人のために謎を解く

如月あこ

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第四章 隠された真実

8、

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「ここは、病院ではありません。不認可の病院、というわけでもなく。いわゆる、人体実験を行っていた施設だそうです」
 ぴく、と姫島屋先生が微かに動く。
 腰を抱く腕に、私を落ち着かせるように力がこもる。
「表向きは、特殊な医療を施していることになっていたそうですが、ここにくる『患者』は『被験者』と呼ばれ、かなり……その、非人道的な扱いをされていたと」
 何日食べずに生きられるか。水だけで生きていけるか。脳の構造は、大人と子どもでは違うのか、どんな色なのか、また、身体のどの部分に刺激を与えたら、脳はどんな動きをするのか。真冬に全裸で、屋外で一晩生きていけるのか。
 この書類――いや、手紙には、そういった己の興味を満たす実験を行ってきたという者の、自身の研究成果が自慢げに書いてあった。
 研究者の名前は、志木カツヨシ。
 俗にいうマッドサイエンティストだ。けれど、現実にこんな行いをする人間がいるなんて、信じられない。
 私は、ほとんど無意識に想像してしまう。
 泣きわめく子どもがいる、しかしいつしか泣くことも諦め、されるがまま被検体となり、命を落としていく。
 なんて、惨いことを。
「確か、時代は明治だったか。ちょうど西洋文化が流行った時期だ。山奥に建てたのは人目を避けるためだろうが、資金が潤沢だったようだな」
 ため息交じりに言う姫島屋先生の服を、ぎゅっと掴んだ。
「実験に使われた被験者は、子どもだそうです。売られたり、攫われたり。大人も少しいたそうですが、ほとんどが子どもで……」
 死んだら、池に捨てていた。
 その言葉が出ずに、唇を噛む。
 姫島屋先生が、背中をぽんぽんと撫でてくれた。
「言わなくていい。……なるほど、だから『沈め池』なのか」
 子どもを沈めるから。
 姫島屋先生は、私の少ない説明で、そこまで理解しているようだ。
 もしかしたら、真理亜ちゃんの話を聞いたときから、沈め池という名前を聞いたときから、子どもの白骨遺体が発見されたときから――あらゆる場面から、少しずつ結び付けて、結論に近しい何かを考えていたのかもしれない。
「先生は、この事実が知りたかったんですか」
「知りたくなかったから、調べにきた」
 静かにため息をついた先生のその言葉から、痛みを感じる。
 子どもが大勢殺された。
 それも、大人の欲望のために。
 この志木カツヨシとは何者なのか。この研究者が首謀者であることは間違いないようだけれど。
「せんせー、いるでござるかー?」
 ふと、階段のうえから声が聞こえてきて、はっと顔をあげた。慌てて返事を返すと、心配だから見に来たという双子からの返事があった。随分と時間が経っていたらしい。
 私は、姫島屋先生に言われて、書斎からいくつかの資料を探して確認したあと、姫島屋先生の手を借りて、廃屋を出た。
 廃屋を出てからは、皆無言だった。
 双子もなにかを察して、声をかけてはこず、ただ黙々と下山した。


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