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第1章 ここから始まるDIY

十九日目SS① エルダの苦悩

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「ふぅ、ここでの生活もこれで最後か。」

 私は、長く拠点にしていた部屋の片付けを進めていた。
 これからカイトと合流して、ここを引き払うことになっている。
 この宿【森のアナグマ亭】は、私が冒険者になってからずっとお世話になっている大事な場所だ。
 お世辞にも新しいとは言えないけど、店主のダニエルさんには、とても良くしてもらっていた。
 私の他にも数多くの冒険者がここを定宿にしている。
 みんなここが大好きなのだ。

 それでもここを引き払うことになった。
 ギルドからの調査依頼「カイト・イシダテの身辺警護。及び情報収集」を受けたから。

 正直、受けて後悔している。
 まさか、こんなことになるなんて夢にも思ってなかったから。
 カイトと二人で新居に暮らす。
 受けるときに想像しろという方が無茶だ。

「なんでこうなっちゃったんだろ……」

 私はただ、真面目に冒険者をやってきただけなのに。
 父の背中を追いかけていれば、いつか父に会えるって思ってやってきただけなのに。

 気乗りしないまま、部屋を片付けていく。
 長いこと使ってたせいか、それなりに汚れている。
 看板娘のリリーちゃんからバケツと雑巾を借りてきた。
 リリーちゃんからは掃除はやるからいらないよと言われたけど、最後くらいきれいにして出ていきたいと思ったから。

 あらかた片付けが終わると、丁度いい時間になっていた。
 私は荷物を部屋の中央にまとめ直して、合流場所へと向かった。



 合流場所は、南区の住宅街の真ん中にある公園の噴水前。待ち合わせ場所の定番。カップルや家族が楽しそうにしていた。
 その中でベンチに座りながら、空中を指でなぞったり、突然悶絶したりと、おかしな動きをしている人がいた……
 カイトだ……
 私はうまくやっていけるか不安になってきた……

 カイトに近づいて目の前に立っても、気がつく気配すらなかった。
 そうこうしていると不意にカイトと目があった。

「お、お、おはよう、エルダ。」

 ものすごくキョドってぎこちない挨拶だった。
 顔も引きつっており、私に全然気がついてなかったみたい。

「おはようございます。カイト……出来れば普通に待てなかったかしら?危うく衛兵を呼ばれるところだったわよ?」

 そう、カイトのあまりの怪しさに子供連れの夫婦が不安になり、衛兵に通報していたのだ。
 少し遅ければカイトは連行されていたと思う。そうなる前に衛兵に事情を説明して帰ってもらった。

 でも、一回連行してもらったほうが良かったかも。
 少しは自分の行動を見直してくれるかもしれないし。
 だって、いきなり目の前でジャンプしながら土下座された方の身になってほしい。
 周囲からの視線がとっても痛かった。

 それから、カイトと一緒に【森のアナグマ亭】ヘと移動した。
 ただし、一定距離を保ったままで。



 二人で【森のアナグマ亭】に戻ると、リリーちゃんが出迎えてくれた。
 荒んでいた心がきれいに洗われていく。リリーちゃんは無敵なのです。

 リリーちゃんと話していると、奥からダニエルさんも顔を出してくれた。
 ダニエルさんにカイトを紹介しつつ、荷物を回収する為に私の部屋へといどうした。

「ついたわ。ここよ。」

 部屋についたはいいけれど、ここに来る前にダニエルさんから変なことを言われたから、ものすごく恥ずかしく感じてしまった。
 ここに黙って立ってても意味は無いから、部屋のドアを開けて中に案内することにした。
 中に入ると、カイトは周りを見回していた。
 それも照れ臭そうにちらちらと。
 しまいには、本人は気付かれていないと思っているかもしれないけど、ものすごく鼻がぴくぴく動いていた。
 正直、ものすごく気持ち悪かった……

 カイトにはすでに荷物をまとめてあることは伝えてあったから、回収はすぐに終わった。
 本当に、カイトのスキル【アイテムボックス】の性能には驚かされる。
 よくもまぁ、これだけのものがすんなりと入っていくものだと感心してしまった。

 カイトは部屋の掃除をかって出てくれた。
 スキルですぐに済むとのことだったので、お願いすると、本当にすぐにきれいなった。
 私の朝の苦労を返してほしい。

 部屋の片づけを終えた私たちは、一階の受付へと戻ってきた。
 すると、ダニエルさんたちがお見送りにでてきてくれた。
 それだけで私は泣きそうになった。
 本当にこれでサヨナラになってしまいそうで……

「エルダちゃん、何かあったらここに駆け込むのよ?必ず助けるからね?」
 
 ダニエルさんの奥さんのメアリーさんが、私を強く抱きしめてくれた。
 きっと母が生きていたら、こんな感じなんだろうなって思ってしまった。

「メアリーさん、ありがとうございます。でも大丈夫ですよ?カイトはヘタレですから。」

 私がメアリーさんに安心するように言うと、隣でカイトがなぜか泣いていた……
 メアリーさんがカイトに何かを話していたようだけど、小声で私には聞こえなかった。
 その直後、体をビシッとさせているカイトを見て何となく察しはついてしまった。

 ダニエルさんたちと別れを惜しみつつ出発することとなった。
 リリーちゃんの声がずっと聞こえてくる。
 私はみんなが見えなくなるまで、ずっと手を振り続けた。
 今生の別れではないけれど、この任務が終わるまではここへは帰ってこられない。
 そう思うと涙があふれてきた。

 そんな私を心配したのか、カイトがそっと背中を擦ってくれた。
 今日くらいはいいよね?
 私はカイトの胸を借り、泣き続けていた。
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