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第4章 ここから始まる勇者様?

三十六日目① 二度あることは三度あった

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 俺たちは朝の準備を終えると、早めに自宅を出てギルドへと向かった。
 理由は採掘等の時間を多めに確保したいからだ。
 頼まれた物を作る分と、自分の装備分。
 あとは納品分を考えると、あまり余裕が無かったりする。

 二日三日に分けたらいいんだけど、できれば【新緑のダンジョン】へ長く潜りたいのが本音だ。



 俺たちが冒険者ギルドへ到着すると、入り口に人だかりができていた。
 また何か揉め事かと思い、中をのぞくとまたも【勇者モドキ】だ。
 ほんとマジで勘弁してほしい。
 これ以上奴らと関わり合いになりたくないってのにさ……
 
 入り口付近だと中の騒ぎが良く聞こえないけど、何かを喚き散らしているようだ。
 ちらちらと見えたけど、どうも神官騎士が昨日より減っているのも気になるな。
 どうやら【勇者モドキ】がキャサリンさんにくってかかっているみたいだけど、うまい事キャサリンさんがさばいている感じに見える。
 それを周りで見ている冒険者の先輩たちは苛立ち半分、笑いをこらえるのを半分とある意味で忙しそうではあった。
 それほど心配する事態には陥っていないようだった。

 そんな中俺たちに気が付いた、ギルド職員が声をかけに来てくれた。
 どうやらシャバズのおっちゃんが俺たちを呼んでいるらしい。
 ただこのまま中に入ると面倒がありそう……ってか面倒ごとが確定なので、職員用玄関から入れてもらい執務室へ移動した。



「おう来たな。まあ座れや。」
「はい。」

 俺たちは勧められるがままソファーに腰かけた。
 今日はキャサリンさんが居ないので、職員さんがお茶の準備をしてくれていた。

「で、下の騒ぎって何かあったんですか?」
「それはな、下の奴が【ゴーヨクォート正教国の勇者】と名のっていてな、『俺たちは教会より魔王討伐の任を受けてここに来た。だから冒険者も支援をするのが当たり前だ!!』って感じでまくし立ててるんだ。だからキャサリンが対応しているんだが……。」

 話を言い澱むシャバズのおっちゃんのこめかみに、青筋が立っていた。
 いったい何を要求したのやら……

「そいつは依頼料を払う気はないとのことだ。手伝うのが当然だろうだとさ。」
「それはまた……。」

 俺たちはその発言に呆れを超えて、声を失ってしまった。
 どこまでも自己中なんだろうか……
 冒険者はあくまでも自由。
 受ける受けないは個人の判断だが、その基準の大きな要因を締めているのは、依頼料とギルドへの信頼だ。
 今回はギルドも取り合わないだろうし、依頼料ゼロなら冒険者はほぼ取り合わない。
 あいつらが冒険者に〝個人的依頼〟をして義にかられた阿呆が早死にするくらいだろうか。
 
「しかもだ、昨日準備もほとんどしないままダンジョンへ突入したそうだが、神官騎士が数名死亡したそうだ。」
「え?でも入り口で腕輪を買えば死ななくて済むんじゃ……」
「あいつらが【魔人族】から買うと思うか?」

 もうあいつらそのまま全滅してくれないかな?
 ほんと関わり合いたくはないね。

コンコンコンコン

 執務室のドアがノックされる。
 しかも四回。
 この世界のルールとして四回ノックされるときは火急の知らせだったはずだ。

「入れ。」
「失礼します!!」

 慌てて入ってきた職員はシャバズのおっちゃんに耳打ちをしていた。
 おっちゃんは職員さんに返事を伝えると、職員さんはすぐに執務室を後にした。

 残されたおっちゃんは盛大にため息をついて、頭を抱えていたのだった。
 エルダ達も心配しているようで、おっちゃんの言葉を待つことにした。

 考えをまとめたシャバズのおっちゃんは、あらましを説明してくれた。

 キャサリンさんがどうやっても取り合わないことに業を煮やした【勇者モドキ】が、ついに剣を抜いたらしい。
 ギルド内での抜剣はご法度だ。
 それをわかっている周りの冒険者たちは、剣を抜かなかったそうだ。
 それを見た【勇者モドキ】は自分たちにビビってるって勘違いをし、剣を振り回したそうだ。
 そして、昨日の北区商店街での一件で冒険者ギルドは教会にたてつく気かと粋がり始めたそうだ。

 俺はため息をつきながらおっちゃんに奴らの正体をばらした。
 間違いなく偽物の【勇者】であると。
 ただ、【聖女】については確認できないので、職業診断を盾に要請を受け入れることにしてみてはどうだろうかと提案をしてみた。

 しかしおっちゃんは頭を横に振った。
 すでに職業診断の話はしたそうだ。
 しかし、【勇者モドキ】は頑なに拒み続けているらしい。
 終いには……

『我ら【勇者】一行に何たる仕打ち!!貴様らは神をも恐れぬ者たちの集まりなのか!!』

 などと騒ぎ立てる始末だったようだ。
 おっちゃんの対応としてはもう取り合うつもりもないので、ご退場願うことにしたらしい。

 というわけで、さっさと魔道具を使って元老院経由で国王に報告を行ったそうだ。



 俺たちは騒ぎが収まるのを執務室で待つことにした。
 おそらく俺たちが行くと火に油を注ぐだろうと、シャバズのおっちゃんからの提案だった。

 しばらくして一階の騒ぎが沈静化を見せた。

 国王陛下が近衛騎士団を派遣したのだ。
 近衛騎士団は『王国として【勇者】を歓待する』として、迎えに来たということだった。
 あくまで〝本物の【勇者】だったら〟という但し書きが付くだろうけど。
 実際は歓待などするはずもなく、強制的に職業診断を行い、事情聴取をするということだった。
 場合によっては投獄もあり得るそうだ。

 これでやっと問題がひと段落すると、全員で安堵するのだった。
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