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白百合、黒鷲との初夜

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「ここが王都の邸だよ。

今日一日はこちらで過ごして、明日領へ向かうけど大丈夫かな?」


「構わない」


「では、行こうか」


王都の邸はそんなに大きくは無いが、過ごしやすい環境を整えている。

シルヴィをエスコートし、邸に入り

ズラリと並ぶ使用人の間を歩き進む。


「お帰りなさいませ。カミーユ様、奥様」


「あぁ、ただいま。今日から新しい家族のシルヴィアだ。

シルヴィ、こちらの邸を任せている執事のボーデン」


「シルヴィアだ。今回は短い間だが、宜しく頼む」


「これは、ご丁寧に。老骨ですが、奥様のお過ごし易いよう何でも言い付けて下され」


「はは、ボーデンは誰よりも元気だよ」


「ほほほ、まだまだ若い者には負けますまい」


少し緊張している様子のシルヴィにお茶を出すように言って、お互い着替えを済ませる。


シルヴィには好きな格好でいて欲しいと頼んだ。

彼女が普段どのような格好をしていたのか知っている。

これから家族になるんだから、家に居る時位は自由にしていて欲しい。


「待たせた」


そう言って部屋に入って来たシルヴィはやはりパンツスタイルだった。

ラフ過ぎない乗馬も出来そうな服装で有る。

琥珀色のシャツは私の為に着てくれている気がして一瞬息が止まり、窒息するかと思った。

私がクローゼットの中身を厳選したんだけどね。


「そんなに待っていないよ。シルヴィ、座って?」


「ありがとう。服もあんなに沢山、ありがとう…」


「いえいえ、色々揃えてみたんだ。気に入って貰えたかな?」


「あぁ、多過ぎるくらいだ」


「どんなのが好みか分からなかったからね。また、教えて?」


「…善処する」


シルヴィが座ると侍女達がティーセットを持ってやって来た。

その彼女達に礼を言って、下がらせる。


「お口に合うか分からないけど」



緊張するが決めていた事だ。

彼女のお茶は自ら入れてあげたい。

茶葉選びも、ティーセット選びもとても楽しかった。

彼女を待つ一週間はそれはもう、彼女の為に費やしたと言っても過言では無い。


丁寧にお茶を入れ、彼女の前に置いた。


「まさかカミュが入れてくれるだなんて、思わなかった」


「ふふ、驚いた?

料理はした事が無いけれどお茶が好きでね、色々凝ってるんだ。

シルヴィにもいつか飲んで貰えたらな、と思っていたんだ。また一つ、夢が叶ったよ」


「そうなのか、ありがとう…」


シルヴィは躊躇いがちに、だがお茶を飲んでくれた。


「美味しい…。爽やかな香りがする」


「ふふ、そうでしょ?フレーバーティーなんだけど、少しミントが入っているんだ。私が調合したから世界に一つだよ」


「これは、才能だな」


「お褒めに預かり光栄です。

あ、忘れてた。こちら、従者のノエル。領から連れて来ている私の右腕」


「やっとご紹介に預かれました。

ノエルと申します。以後、お見知り置きを」


「宜しく」


「ノエル、目が怖いよ~目だけで人殺せるよ」


「元より、この様な顔です」


従者の鏡であるノエルは私が声を掛けるまで待っていた。

シルヴィにお茶を出す事に気を取られ紹介をすっかり忘れていたのだ、許して欲しい。

絶対、怒っている。


「では、明日からの予定を話させて頂きます」


ノエルが明日からの領地までの経路や、休憩地点等の説明をしてくれる。

二週間の長旅だ。その間に仲を深められたら良いな。






その後はご飯を食べ、少し有った書類を片付けてお風呂に入り寝室へ向かう。



扉を開けると、信じられない光景が目に飛び込んで来た。


パタン



おっと、妖精が見えたが疲れて居るんだろうか。

もう一度開けてみよう。


ガチャ


「遅かったな、カミュ。待ちくたびれた」


「え、いやいやいや待って。これ着て?」


そこには物凄く薄い寝間着を着たシルヴィが居た。

慌てて目を手で塞ぎ、着ていたガウンを渡す。




「…着た」


「びっくりした…。ボーデンの仕業だね」


「今日は初夜だから、と。私も覚悟して来ている。閨を共にするのも妻の役目だ」


「…。シルヴィ、ちょっと話しをしようか」


「分かった」


顔は真顔だが、緊張でガチガチでは無いか。ボーデンはこういうお節介な所がある。

シルヴィも私の妻となる為に無理してくれた事は嬉しくも有り、複雑だ。

シルヴィの両の手を握り、その翡翠色の瞳を真っ直ぐ見据える。


「結論から言えば、今日そのような事はしない。

結婚こそ急いでしまったけれど、私は貴女の全てが欲しい。その心までも。

だから、シルヴィの心が私を求めるまでしないと誓おう」


「カミュ…でも、それでは…私は…」


「年齢の事?」



コクリとシルヴィが頷く。


「気にしないで、いつまでも待つよ。

その代わり、シルヴィが私を想ってくれるまで努力は惜しまないし、沢山甘やかすつもりだよ。

もし、十年後も二人に子が居なかったら養子を取ろう。妻になって貰えただけでも私は幸せなんだ。勿論、二人の子どもはとても可愛いだろうけどね。

もし、襲いそうになったら容赦無く殴り飛ばしてくれても良いよ」


「良いのか…?」


「うん。元よりそのつもりだったんだ。だから、部屋も別にしていたんだけど…確かに対外的には悪いからシルヴィが良ければ今日は一緒に寝ようか?」


「私はそのつもりだ」


「ふふふ、なら手を繋いでいても良い?」


「…何もしないのでは無いのか」


「スキンシップは大事だよ♪」


「お調子者だな」



そう言ってシルヴィはクスクス笑う。

身体や精神を鍛えても根は伯爵令嬢なんだな、とこういう所で思う。

シルヴィの手は剣ダコでゴツゴツしていた。剣士の手だ。



「ありがとう、シルヴィ」


「何がだ?」


「私の妻になってくれて」


「お互い様だ」


「おやすみ」


「おやすみ」

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