極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
12 / 1,212
漆黒の人(香港マフィア頭領次男坊編)

12

しおりを挟む
「お前に悪気がねえことくらい分かる。逆に――金をせしめるつもりなんざ、これっぽっちもねえ正直で人の好いヤツだってこともな」
 ジォウは言うと、またも楽しげに瞳をゆるめながら口走った。
「職を探してると言ったな。だったら――俺のところで働く気はねえか?」

「え……!?」

 ひょうは驚きに瞳を見開いたままで固まってしまった。意外も意外過ぎて、すぐには言われたことの意味を理解できなかったのだ。
「何て顔してる。ガキみてえなツラだぞ?」
「え!? あ、はい……すみません!」
「――ったく、飽きさせねえヤツだな。ウォンのじいさんは確かに育て方が上手かったんだろう」
 ジォウひょうの性質の良さが気に入ったようだった。
「もう一度尋ねるが、俺の社で働く気はねえかと訊いてる。さっき、どんな職でもいいと言ってただろうが」
「あ、はい……すみません! あまりにも夢みたいな話で……ちょっとビックリしてしまって。あの、俺なんかでよろしければ是非働かせていただきたいです!」
「そうか。だったらよろしく頼む」
「こ、こちらこそ! よろしくお願いします!」
 ひょうはまたしてもガバッと頭を下げて、あまりに勢いをつけたせいで大理石のテーブルの上に頭をぶつけてしまったほどだった。
「おいおい、気を付けろよ?」
 痛くなかったか? と、顔を覗き込まれて思わず頬が染まる。声音はやわらかで、少し笑みを帯びていてあたたかい。まるで、『しょうのねえヤツだな』と言わんばかりの笑顔が年の離れた兄さながらだ。なんだか大いなるかいなに包まれるような感覚が、むず痒くもあり、わけもなく胸を高鳴らせるのだった。
「す、すみません……。おっちょこちょいなもので」
「いや、お前さんが怪我をしなかったならそれでいい」
 ふいと微笑む表情がやさしくて、それ以前に男前過ぎて目のやり場に困ってしまう。視線を泳がせ、対面といめんを直視できずにいるひょうとは裏腹に、男前の彼はまたしても驚くようなことを言ってよこした。
「ああ、そうだ。ついでにウチは寮も完備だ」

「……え!?」

「お前さんの部屋は社で用意する。住むところも探す必要がねえってことだ」
 そうはいうものの、実際には社員寮などはない。会ったばかりの人間相手にジォウがそこまで入れ込むのは皆無といっていい。だが、ジォウ自身、無意識の内にもこのひょうを自分の目の届く範囲に置いておきたいという不思議な願望に突き動かされるような気分だったのだ。むろん、物理的にもジォウがその気になれば、住む家の一つや二つどうとでもなる意のままというのもある。
「えッ!? 本当ですか? それは有り難いです!」
 正直な感想だった。
「ああ。これで職と住まいは揃ったな。あとは食う方だが――それも心配はいらねえ」
「まさか……社食が出る……とか?」
 あまりの待遇の良さに、ひょうの瞳はこれ以上見開けないというくらいまん丸になっている。そんな様子はジォウにとって堪らなく可愛らしく映ったようだ。
 ひょうは外見だけでいえば顔立ちも端正で、背もジォウほどでないにしろ長身といえる。スレンダーではあるが、そこそこ筋肉もあるし、男前という印象だろう。幼い頃にその見目の良さを買ってチンピラ連中が売り飛ばそうとしたくらいだ、そのまま美麗な青年に育ったということなのだろう。
 余談だが、先程エントランスで受付嬢の女がホストと間違え、『ちょっと顔がいいからって図々しいわ』と言ったくらいだから、誰が見ても華やかな雰囲気をまとった”いい男”だといえる。ジォウは十二年ぶりに会ったひょうを見た瞬間から想像通りに育ったなという印象を受けたようだが、外見はともかく内面にも興味を惹かれ始めていた。たった短いやり取りの中で、まさかこんなにも和む気持ちにさせられるとは思っていなかったのだ。このままもっとひょうという男を知ってみたいという欲が顔を出したようだった。
「社食――ね。まあ、そんなところだ。それで、いつから来られる?」
 笑いを堪えながら訊くと、ひょうは思った通りの反応でジォウの興味を更に底上げしたのだった。
「はい! 今日からすぐにでも! どんなことでも一生懸命やります!」
「そうか。だったらちょうどいい。これからちょっと付き合わんか? 仕事内容を説明しがてら茶でもしよう」
「はい――! よろしくお願いします」
 目に物くれる速さのトントン拍子である。これでいいのかと戸惑う間もなく、ひょうの日本での衣食住はいとも簡単に決まってしまったのだった。



◇    ◇    ◇


しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

処理中です...