100 / 1,212
告げられないほどに深い愛(極道若頭編)
32
しおりを挟む
その翌々日、晦日のことだ。すっかりと体調を取り戻した鐘崎は、紫月と共に汐留にある氷川こと周焔の元を訪れていた。
「今回は本当に世話になった。お陰でまだこうして生きてられる」
鐘崎が丁寧に礼を述べる傍らで、紫月も一緒になって頭を下げた。
「氷川、俺からも礼を言う。ホントにありがとな!」
「カネの体調も戻ったようだな。お前らの元気な姿を拝めて俺もホッとしたぜ」
周の社も既に年末年始の連休に入っているので、今日はリラックスした私服で出迎えてくれる。
「けどさ、さすが氷川だよ。俺が電話した時、ろくに話す前からすぐに事態を察してくれたもんな」
紫月が感心顔で言う。と同時に、あの時、何故すぐに鐘崎の居場所を突き止めることができたのかというのを聞き忘れていたことに気付いて、逸ったように紫月は訊いた。
「そういや忘れてた! 遼二はスマホを落として行ったわけだし、GPSもなかったってのにどうやって位置が分かったんだ?」
本当は鐘崎に訊くはずだったのだが、永年の想いがやっと通じ合った直後で、すっかり頭から抜け落ちていたのだ。周と鐘崎は同時に『ああ、それはな』と言って笑い、その理由の説明は鐘崎の口から語られた。
「俺と氷川はああいった緊急時のことを踏まえて、互いの位置が分かるようにしてあるんだ」
鐘崎はその場でグイと襟元をはだけると、肩先に入っている刺青を晒してみせた。
「俺は紅椿の花弁の部分に、氷川は龍の目玉の位置にGPS機能の付いた宝石をくっ付けてあってな。どちらかが非常事態に陥った際は互いの位置を知ることができるようにしてあるんだ」
鐘崎が見せた刺青の肩には、確かに紅椿の花の雄蕊雌蕊に当たる箇所に小さなピアスのようなアクセサリーが括り付けてあった。
「本当は体内に埋め込んじまうことも考えたんだが、それは追々――。とりあえずはピアスの形でくっ付けとけこうって話になってな」
紫月はめっぽう驚かされてしまった。
確かに二人は裏の世界に生きる者同士だ。一昨日のようなことから、もっと緊急を要する――例えば命の危険にかかわるような――事態に巻き込まれることがあった時のことを想定しているのだろう。その時は互いに助け合えるようにと、常日頃から二人で用意していたらしい。鐘崎が開けた襟元を正す傍らで、今度は周が説明を続けた。
「これにアクセスするにはパスワードが必要でな。セキュリティ面から年に一度はチェンジするわけだが、新しいパスに変えるのは毎年大晦日って決めてあるんだ」
「パスワード?」
「ああ。だが、コイツときたら、まだ大晦日前だってのにパスを更新してやがってよ。去年のを打ち込んでもエラーするしで、正直焦らされたぜ」
周が呆れ口調で苦笑する。
「今回は本当に世話になった。お陰でまだこうして生きてられる」
鐘崎が丁寧に礼を述べる傍らで、紫月も一緒になって頭を下げた。
「氷川、俺からも礼を言う。ホントにありがとな!」
「カネの体調も戻ったようだな。お前らの元気な姿を拝めて俺もホッとしたぜ」
周の社も既に年末年始の連休に入っているので、今日はリラックスした私服で出迎えてくれる。
「けどさ、さすが氷川だよ。俺が電話した時、ろくに話す前からすぐに事態を察してくれたもんな」
紫月が感心顔で言う。と同時に、あの時、何故すぐに鐘崎の居場所を突き止めることができたのかというのを聞き忘れていたことに気付いて、逸ったように紫月は訊いた。
「そういや忘れてた! 遼二はスマホを落として行ったわけだし、GPSもなかったってのにどうやって位置が分かったんだ?」
本当は鐘崎に訊くはずだったのだが、永年の想いがやっと通じ合った直後で、すっかり頭から抜け落ちていたのだ。周と鐘崎は同時に『ああ、それはな』と言って笑い、その理由の説明は鐘崎の口から語られた。
「俺と氷川はああいった緊急時のことを踏まえて、互いの位置が分かるようにしてあるんだ」
鐘崎はその場でグイと襟元をはだけると、肩先に入っている刺青を晒してみせた。
「俺は紅椿の花弁の部分に、氷川は龍の目玉の位置にGPS機能の付いた宝石をくっ付けてあってな。どちらかが非常事態に陥った際は互いの位置を知ることができるようにしてあるんだ」
鐘崎が見せた刺青の肩には、確かに紅椿の花の雄蕊雌蕊に当たる箇所に小さなピアスのようなアクセサリーが括り付けてあった。
「本当は体内に埋め込んじまうことも考えたんだが、それは追々――。とりあえずはピアスの形でくっ付けとけこうって話になってな」
紫月はめっぽう驚かされてしまった。
確かに二人は裏の世界に生きる者同士だ。一昨日のようなことから、もっと緊急を要する――例えば命の危険にかかわるような――事態に巻き込まれることがあった時のことを想定しているのだろう。その時は互いに助け合えるようにと、常日頃から二人で用意していたらしい。鐘崎が開けた襟元を正す傍らで、今度は周が説明を続けた。
「これにアクセスするにはパスワードが必要でな。セキュリティ面から年に一度はチェンジするわけだが、新しいパスに変えるのは毎年大晦日って決めてあるんだ」
「パスワード?」
「ああ。だが、コイツときたら、まだ大晦日前だってのにパスを更新してやがってよ。去年のを打ち込んでもエラーするしで、正直焦らされたぜ」
周が呆れ口調で苦笑する。
36
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる