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告げられないほどに深い愛(極道若頭編)
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「それについては俺が悪かった。どうせもうあと何日かで大晦日だしと思って新しいのに変えちまったんだが。まさかこんな事が起こるなんて思いもしなかったからな」
裏の世界で生きる鐘崎にしては随分と手落ちである。
「おめえ、緊張感が足りねえぞ。いくら平和だからって、俺らの身の上にゃ、いつどんなことが起こるか分からんのだからな」
周は呆れたように肩をすくめる。
「ああ、まったくその通りだ。確かに気がゆるんでたな」
鐘崎は素直に非を認めながらも、ボソりとその理由を口走った。
「ちょっと嬉しいことがあったんで、早々と変えちまったんだ」
「嬉しいことだ?」
それはいったい何だというように周が片眉を吊り上げる。
「ケーキ入刀に成功したもんでな」
「ケーキ入刀だ? 何だ、そりゃ」
「こないだのクリスマスは俺も時間が取れたんで、コイツん家で一緒に過ごさせてもらったんだが……」
用意していったケーキを切り分ける際に、紫月と共にナイフを入れることができて、浮かれてしまったのだという。
「実はあれは俺の作戦でもあったわけだが……。思っていたより上手くことが運んだんで、つい……な?」
ケーキを三段重ねにしたのも結婚披露宴のそれに似せたかったからだと暴露した。二人で入刀の真似事をしたかったからというのが鐘崎の狙いだったようだ。周はそれを聞いて、大袈裟なくらいに溜め息をついてみせた。
「阿保か! ガキじゃあるめえし、ンなことに労力使う暇があったら、とっとと打ち明けちまえばいいものを!」
「まあ、そう言ってくれるな。これでも必死だったんだ」
鐘崎にしては珍しく照れたように頭を掻きながら苦笑顔だ。二人のやり取りを窺っていた紫月でさえも、思わず呆れてしまうくらいだったが、それと同時に、そんな子供のような発想を思い付くほど真剣に想われていたことが嬉しくてたまらない。みるみると染まり出した頬の色を隠さんとアタフタとさせられてしまった。
「つ、つかさ……それとお前らのパスワードと何の関係があんだよー……」
必死でごまかさんと話題を元に戻す。その答えを聞いたと同時に、より一層赤面させられることになろうとは思いもしなかった。
「ああ、それはな。俺らのパスワードってのは、毎年カネが考えるわけだが……。それはお前に贈るクリスマスケーキの種類と決まっているんだ」
「はぁ?」
「去年はイチゴショート、一昨年はチョコレートだったっけなぁ? それをな、化学式になおすわけだよ」
「化……学式……?」
「まあ、そのままでもいいっちゃいいんだが、あんまり単純でもな?」
つまり、ケーキの種類さえ分かれば、あとは主成分を化学式に変換すればいいらしい。周は笑うが、またえらくマニアックなことを考えついたものだ。
「とにかく、ぜってえ忘れねえパスにしてえからってよ。万が一忘れても、一之宮に訊けばいいとか何とか抜かしやがってよ?」
なるほど、それであの時、クリスマスケーキの種類を訊いてきたのだということがやっと分かった紫月であった。鐘崎がパスを更新した可能性を考えて、とりあえず片っ端から打ち込んでみたのだろう。その一つが見事にヒットしたというわけだ。
「てめえが三段ケーキなんてややこしいのにすっから! 李も頭をひねくらされてたぜ」
「あー、そいつぁすまねえ。李さんや劉さんにも後で詫びねえとな」
裏社会の男二人はそう言って笑い合う。紫月はそんな彼らに囲まれながら、こうして軽口を叩き合って和やかに過ごせていることが、しみじみ幸せだと思うのだった。
互いに命を預け合う、そんな大事なパスワードにまで自分に繋がるものを選んでいたという鐘崎に、言いようのない熱い気持ちが込み上げる。それほどまでに深く強い想いを寄せてもらえていたことを思えば、図らずも目頭が熱くなってしまいそうだった。
裏の世界で生きる鐘崎にしては随分と手落ちである。
「おめえ、緊張感が足りねえぞ。いくら平和だからって、俺らの身の上にゃ、いつどんなことが起こるか分からんのだからな」
周は呆れたように肩をすくめる。
「ああ、まったくその通りだ。確かに気がゆるんでたな」
鐘崎は素直に非を認めながらも、ボソりとその理由を口走った。
「ちょっと嬉しいことがあったんで、早々と変えちまったんだ」
「嬉しいことだ?」
それはいったい何だというように周が片眉を吊り上げる。
「ケーキ入刀に成功したもんでな」
「ケーキ入刀だ? 何だ、そりゃ」
「こないだのクリスマスは俺も時間が取れたんで、コイツん家で一緒に過ごさせてもらったんだが……」
用意していったケーキを切り分ける際に、紫月と共にナイフを入れることができて、浮かれてしまったのだという。
「実はあれは俺の作戦でもあったわけだが……。思っていたより上手くことが運んだんで、つい……な?」
ケーキを三段重ねにしたのも結婚披露宴のそれに似せたかったからだと暴露した。二人で入刀の真似事をしたかったからというのが鐘崎の狙いだったようだ。周はそれを聞いて、大袈裟なくらいに溜め息をついてみせた。
「阿保か! ガキじゃあるめえし、ンなことに労力使う暇があったら、とっとと打ち明けちまえばいいものを!」
「まあ、そう言ってくれるな。これでも必死だったんだ」
鐘崎にしては珍しく照れたように頭を掻きながら苦笑顔だ。二人のやり取りを窺っていた紫月でさえも、思わず呆れてしまうくらいだったが、それと同時に、そんな子供のような発想を思い付くほど真剣に想われていたことが嬉しくてたまらない。みるみると染まり出した頬の色を隠さんとアタフタとさせられてしまった。
「つ、つかさ……それとお前らのパスワードと何の関係があんだよー……」
必死でごまかさんと話題を元に戻す。その答えを聞いたと同時に、より一層赤面させられることになろうとは思いもしなかった。
「ああ、それはな。俺らのパスワードってのは、毎年カネが考えるわけだが……。それはお前に贈るクリスマスケーキの種類と決まっているんだ」
「はぁ?」
「去年はイチゴショート、一昨年はチョコレートだったっけなぁ? それをな、化学式になおすわけだよ」
「化……学式……?」
「まあ、そのままでもいいっちゃいいんだが、あんまり単純でもな?」
つまり、ケーキの種類さえ分かれば、あとは主成分を化学式に変換すればいいらしい。周は笑うが、またえらくマニアックなことを考えついたものだ。
「とにかく、ぜってえ忘れねえパスにしてえからってよ。万が一忘れても、一之宮に訊けばいいとか何とか抜かしやがってよ?」
なるほど、それであの時、クリスマスケーキの種類を訊いてきたのだということがやっと分かった紫月であった。鐘崎がパスを更新した可能性を考えて、とりあえず片っ端から打ち込んでみたのだろう。その一つが見事にヒットしたというわけだ。
「てめえが三段ケーキなんてややこしいのにすっから! 李も頭をひねくらされてたぜ」
「あー、そいつぁすまねえ。李さんや劉さんにも後で詫びねえとな」
裏社会の男二人はそう言って笑い合う。紫月はそんな彼らに囲まれながら、こうして軽口を叩き合って和やかに過ごせていることが、しみじみ幸せだと思うのだった。
互いに命を預け合う、そんな大事なパスワードにまで自分に繋がるものを選んでいたという鐘崎に、言いようのない熱い気持ちが込み上げる。それほどまでに深く強い想いを寄せてもらえていたことを思えば、図らずも目頭が熱くなってしまいそうだった。
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