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狙われた恋人
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「カジノで勝負――ね。俺が勝てば冰は連れ帰るぞ? 例え冰がどう言おうとだ」
周が了解したのを受けて、張は上手くいったとばかりの表情でほくそ笑んでみせた。
「ではそういうことで。俺が勝てば雪吹君は俺がもらう。それでよろしいな?」
「いいだろう。場所はあんたのカジノだな? 今夜でいいか?」
「俺は構わない」
「じゃあ、決まりだ。勝負は何でする」
「……そうだな、ルーレットかポーカーなんてところでどうかね? 雪吹君はどっちがいい?」
張に訊かれて、冰はどちらでもいいと答えた。
「ではルーレットでいこうか」
「――分かった」
周はうなずくと同時にソファから立ち上がった。
「では今夜九時にカジノでお待ちしている」
「――ああ」
周らが踵を返して出て行こうとした矢先だった。冰は、『そうだ!』と言って三人を引き止めた。
「ねえ、源さん! お願いがあるんだ」
周ではなく源次郎に向かって親しげな語り口調で呼び止める。
「……は、はい……! 何でしょう、冰坊っちゃま」
源次郎もこれまでの冰の芝居に合わせるようにして、執事を気取りながら返事をしてみせる。誘拐まがいの目に遭った冰をひどく心配して、オロオロとする感じまでが見事だ。こういうところの機転はさすがに手慣れたものである。一方、冰の方でも普段は『源さん』などという砕けた呼び方はしないのだが、今は源次郎が周家の執事という名目で出向いてくれていることを踏まえて、敢えてフランクな調子を装っていた。
「あのさ、俺の可愛いドッグたち、ハリネラ君とテルヨちゃんに餌をあげるの忘れないでって頼んでくれる? 二匹とも日本に置き去りにして来ちゃったから心配なんだ」
源次郎はむろんのこと、周も鐘崎も突如として突飛なことを言ってのけた冰に、一瞬怪訝そうに眉根を寄せた。
だが、すぐにその意図を読んだわけか、鐘崎が横から割り込むようにしてこう答えてみせた。
「ご安心ください。その二匹なら冰坊っちゃまを追ってマカオに来る際に、一緒に連れて参りました。きっとご心配していらっしゃると思いましたので」
鐘崎もさすがの役者ぶりをみせる。それを聞いて、冰はにっこりと微笑んだ。
「わぁ! 本当? 良かった。安心したよ」
嬉しそうにしながらも、張に向かって、
「ねえ張さん、俺、犬飼ってるんだ。もしも今夜の勝負に勝ってここで暮らせるようになったら、二匹とも一緒に連れて来てもいい?」
まるで勝敗が決まったかのようにはしゃいでみせる。
張は少々驚きながらも、悪い気はしなかったのだろう、
「キミは犬が好きだったのか。もちろんいいとも。見ての通りそこそこ大きな邸だからな。犬の二匹や三匹、自由に飼ってくれていいぞ」
ふふんと鼻高々な様子で、これみよがしに周を見やりながらそう言って笑った。
だが、実際のところ冰は犬を飼ってはいない。つまり、カジノでの勝負で張を勝たせるつもりもなければ、この邸で犬と一緒に暮らすつもりもないということが分かる。むろんのこと、周にもその意図は伝わったのだろう。
「は、てめえら……すっかり勝ったようなつもりでいやがるのか。まあいい。冰、今夜を楽しみにしているぜ」
不敵な笑みを瞬かせながら、周は邸を後にして行った。
周が了解したのを受けて、張は上手くいったとばかりの表情でほくそ笑んでみせた。
「ではそういうことで。俺が勝てば雪吹君は俺がもらう。それでよろしいな?」
「いいだろう。場所はあんたのカジノだな? 今夜でいいか?」
「俺は構わない」
「じゃあ、決まりだ。勝負は何でする」
「……そうだな、ルーレットかポーカーなんてところでどうかね? 雪吹君はどっちがいい?」
張に訊かれて、冰はどちらでもいいと答えた。
「ではルーレットでいこうか」
「――分かった」
周はうなずくと同時にソファから立ち上がった。
「では今夜九時にカジノでお待ちしている」
「――ああ」
周らが踵を返して出て行こうとした矢先だった。冰は、『そうだ!』と言って三人を引き止めた。
「ねえ、源さん! お願いがあるんだ」
周ではなく源次郎に向かって親しげな語り口調で呼び止める。
「……は、はい……! 何でしょう、冰坊っちゃま」
源次郎もこれまでの冰の芝居に合わせるようにして、執事を気取りながら返事をしてみせる。誘拐まがいの目に遭った冰をひどく心配して、オロオロとする感じまでが見事だ。こういうところの機転はさすがに手慣れたものである。一方、冰の方でも普段は『源さん』などという砕けた呼び方はしないのだが、今は源次郎が周家の執事という名目で出向いてくれていることを踏まえて、敢えてフランクな調子を装っていた。
「あのさ、俺の可愛いドッグたち、ハリネラ君とテルヨちゃんに餌をあげるの忘れないでって頼んでくれる? 二匹とも日本に置き去りにして来ちゃったから心配なんだ」
源次郎はむろんのこと、周も鐘崎も突如として突飛なことを言ってのけた冰に、一瞬怪訝そうに眉根を寄せた。
だが、すぐにその意図を読んだわけか、鐘崎が横から割り込むようにしてこう答えてみせた。
「ご安心ください。その二匹なら冰坊っちゃまを追ってマカオに来る際に、一緒に連れて参りました。きっとご心配していらっしゃると思いましたので」
鐘崎もさすがの役者ぶりをみせる。それを聞いて、冰はにっこりと微笑んだ。
「わぁ! 本当? 良かった。安心したよ」
嬉しそうにしながらも、張に向かって、
「ねえ張さん、俺、犬飼ってるんだ。もしも今夜の勝負に勝ってここで暮らせるようになったら、二匹とも一緒に連れて来てもいい?」
まるで勝敗が決まったかのようにはしゃいでみせる。
張は少々驚きながらも、悪い気はしなかったのだろう、
「キミは犬が好きだったのか。もちろんいいとも。見ての通りそこそこ大きな邸だからな。犬の二匹や三匹、自由に飼ってくれていいぞ」
ふふんと鼻高々な様子で、これみよがしに周を見やりながらそう言って笑った。
だが、実際のところ冰は犬を飼ってはいない。つまり、カジノでの勝負で張を勝たせるつもりもなければ、この邸で犬と一緒に暮らすつもりもないということが分かる。むろんのこと、周にもその意図は伝わったのだろう。
「は、てめえら……すっかり勝ったようなつもりでいやがるのか。まあいい。冰、今夜を楽しみにしているぜ」
不敵な笑みを瞬かせながら、周は邸を後にして行った。
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