極道恋事情

一園木蓮

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恋敵

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「なんでしたら――勝敗にかかわらず、お嬢様が一等最初にお持ちになった元手の金額はすべてお返しするということで如何でしょう。それでしたら本当にお遊びです。気兼ねなくカジノの夜を楽しんでいただけると思うのですが――」
 とにかくは今の勝負で持っていかれた分を取り返さねばと焦る気持ちが先立って、このお嬢様には是が非でも承諾してもらわなくては困る。今の勝負で負け越したものに比べれば、一番最初の掛け金など大した額ではないといえる。それに、こう言えば受けてもらいやすだろうと思う傍らで、彼もまた意地とプライドを見せたいわけか、観客の前で”いい格好”を装い始めたのだ。
 こうなればいよいよ受けざるを得なくなる。冰は「それなら……」と言って受けて立つことを承諾した。

 さて、フロアは稀に見る大騒ぎである。各所で賭けを楽しんでいた客たちが、一旦各自のテーブルを離れてルーレットの周りに詰めかけては、黒山の人だかりであふれかえってしまった。
 今現在でも数億単位の賭け金である。もしもお嬢様が勝てば、一瞬で百億近い金額が動くわけだ。ギャラリーたちが浮き足立つのも当然といえる。
 それらの様子に目を光らせながら、周と鐘崎、紫月らにも緊張が走る。万が一の乱闘に備えての体勢で身構える彼らと同様、張ら理事会の面々もディーラーのすぐ後ろ側に陣取って勝負の行方を見守った。

「では――入ります」
 ディーラーがホイールを回し、ボールを投げ入れる。
 無表情を装いながらも、彼は内心でほくそ笑んでいた。

(これで取り返せる――! こんな世間知らずのガキに恥をかかされてたまるかってんだ! どうせこの小娘が張りそうな位置なんぞ想像がつくってもんだ。女の好みそうな赤の一番か七番、もしくは女王を表す十二番ってところだろう)

 そんなことを思い描きながら投げられたボールが勢いよくホイールの上で回転を繰り返す。
「それではお嬢様、どうぞ――」
 余裕たっぷりの様子で言い放つ。

 黒山の人だかりと化した観客たちも固唾を呑んで行方を見守る。

 周と鐘崎、紫月はおかしな動きをする人物がいないかと目をこらす。

 冰の真っ赤に艶めくルージュの唇が告げたのは――

「ノアールの十三番」

 それを聞いた途端に、ディーラーの顔色が蒼白へと変わった。

(冗談だろ……!? まさか、そんな……!)

 世間知らずの小娘が絶対に選ばないだろうと踏んで狙った位置を、お嬢様の冰は言い当ててしまったのだ。若い娘ならば赤――いや、仮に黒を選んだとしても、あまり縁起のいいとはいえない十三番という数字は絶対に外してくると踏んでの選択だった。

(くそ……ッ! ここで負けたら俺のクビは飛んじまう……!)

 ディーラーは顔を真っ青にしながらも、最終手段に打って出ようとテーブル下へと手を伸ばした。いよいよ自身の技術では追い付かなくなったと踏んで、明らかなイカサマに切り替えんとの動作である。
 それを察知した冰は瞬時に張へと目配せをして、腕を取り上げるのは今だとの合図を送った。
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