極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
239 / 1,212
恋敵

45

しおりを挟む
「待て。それはいったい何です?」
「な……ッ!? 何だ、貴様は……ッ!?」
「理事会だ。テーブルの下に隠したものを見せてもらおう」
「な……何をする! 離せッ!」
「このスイッチは何に使うものだ? まさかこれでボールの位置を狂わせようとでもしたわけか。明らかなイカサマの証拠だな」
「……ッ! クソッ……どうして……ッ!?」
 焦りが先立ってか本来のポーカーフェイスを装うことも飛んでしまった様子でいる。言い逃れも儘ならず、ディーラーが蒼を通り越して顔を真っ白にしている側で、ホイールの上を跳ねていたボールが運命の一カ所で動きをとめようとしていた。
 フロア全体が水を打ったように静まり返って、すべての視線が一点に集中する。
 カタりと音と共にボールが止まった位置は、

「ノアールの十三番――。お嬢様、貴女様の勝ちです」

 張がニッコリと微笑みながら告げた瞬間に、フロアは割れんばかりの大歓声に包まれた。



◇    ◇    ◇



 こうして張敏の初仕事であるイカサマカジノ討伐は大成功をおさめた。冰の手腕はさることながら、周や鐘崎らの鉄壁の警護態勢のお陰で、特には乱闘が起きることもなく、張の理事会からの信頼も上がり、言うことなしの大団円である。理事会の重鎮方にも大感謝される中、周にピッタリと付き添われながら冰はカジノを後にしたのだった。
 本来であれば、このままホテルへと戻って皆と歓喜の乾杯をした後、甘い夜を過ごしたいところであるが、冰にとっては一刻も早く唐静雨のいた会社の社長との約束を果たしてしまいたい思いが先立っていた。また、この件にケリをつけたい周にとっても同様で、冰の着替えだけを済ますと、鐘崎と紫月と共に唐静雨らの滞在するホテルへと向かったのだった。
 せっかくの美しい女装姿を解いてしまうことは少々残念とも思えたが、流石にこの格好のまま社長らに会うわけにもいかない。今はとにかく騒動の発端である唐静雨との対峙にカタをつけることが最優先であった。

「老板、お待ちしておりました」
 ロビーに着くと既に李が待っていて、出迎えてくれた。彼は昼間、冰と紫月の監視役として後をつけていた男たちを取り押さえてから、一足先に唐静雨と社長の元を訪れて、見張り方々待機していたのだ。李によって冰が周一族の縁者だと聞かされた社長は、ひどく驚き、蒼白となったそうだ。
 冰はカジノで勝利した金額の中から女が横領したという五千万円を社長へと差し出した。
「約束のお金です。これであの女の人を闇市に売るなんてことは考え直していただけますね?」
 テーブルの上に置かれたアタッシュケースの中にはギッシリと札束が詰め込まれている。それを目にするなり、社長はますます驚いて顔面を蒼白に染めた。
「まさか本当にご都合をつけてくださるとは……」
 大金を目の前にしたというのもあるが、冰の素性を聞かされた今では恐ろしくて喜ぶどころではない。この、人の好さそうな青年のバックに、あの周一族がついていると思うと、それだけで脚がガクガクと震え出す。社長はどうしてよいやらオロオロとするばかりだった。
 そんな中、社員たちに連れられて唐静雨という女が顔を見せた。
「焔……!」
 女は周の姿を見るなり逸るようにその名を呼んだが、周の方は再会を懐かしむどころか笑うでもなければ言葉を掛けるでもなく無表情のままだ。大事そうに冰の肩に手を携えながらも、全身からは見る者をジリジリと焼きつくすような圧を伴ったオーラが滲み出ている。連れ立ってきた鐘崎と紫月、そして側近の李も似たような様子で、特には誰も口を開こうとはしない。ただそこに立っているというだけで部屋中が緊迫した空気に包まれているといった感じだった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

処理中です...