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恋敵
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「待て。それはいったい何です?」
「な……ッ!? 何だ、貴様は……ッ!?」
「理事会だ。テーブルの下に隠したものを見せてもらおう」
「な……何をする! 離せッ!」
「このスイッチは何に使うものだ? まさかこれでボールの位置を狂わせようとでもしたわけか。明らかなイカサマの証拠だな」
「……ッ! クソッ……どうして……ッ!?」
焦りが先立ってか本来のポーカーフェイスを装うことも飛んでしまった様子でいる。言い逃れも儘ならず、ディーラーが蒼を通り越して顔を真っ白にしている側で、ホイールの上を跳ねていたボールが運命の一カ所で動きをとめようとしていた。
フロア全体が水を打ったように静まり返って、すべての視線が一点に集中する。
カタりと音と共にボールが止まった位置は、
「ノアールの十三番――。お嬢様、貴女様の勝ちです」
張がニッコリと微笑みながら告げた瞬間に、フロアは割れんばかりの大歓声に包まれた。
◇ ◇ ◇
こうして張敏の初仕事であるイカサマカジノ討伐は大成功をおさめた。冰の手腕はさることながら、周や鐘崎らの鉄壁の警護態勢のお陰で、特には乱闘が起きることもなく、張の理事会からの信頼も上がり、言うことなしの大団円である。理事会の重鎮方にも大感謝される中、周にピッタリと付き添われながら冰はカジノを後にしたのだった。
本来であれば、このままホテルへと戻って皆と歓喜の乾杯をした後、甘い夜を過ごしたいところであるが、冰にとっては一刻も早く唐静雨のいた会社の社長との約束を果たしてしまいたい思いが先立っていた。また、この件にケリをつけたい周にとっても同様で、冰の着替えだけを済ますと、鐘崎と紫月と共に唐静雨らの滞在するホテルへと向かったのだった。
せっかくの美しい女装姿を解いてしまうことは少々残念とも思えたが、流石にこの格好のまま社長らに会うわけにもいかない。今はとにかく騒動の発端である唐静雨との対峙にカタをつけることが最優先であった。
「老板、お待ちしておりました」
ロビーに着くと既に李が待っていて、出迎えてくれた。彼は昼間、冰と紫月の監視役として後をつけていた男たちを取り押さえてから、一足先に唐静雨と社長の元を訪れて、見張り方々待機していたのだ。李によって冰が周一族の縁者だと聞かされた社長は、ひどく驚き、蒼白となったそうだ。
冰はカジノで勝利した金額の中から女が横領したという五千万円を社長へと差し出した。
「約束のお金です。これであの女の人を闇市に売るなんてことは考え直していただけますね?」
テーブルの上に置かれたアタッシュケースの中にはギッシリと札束が詰め込まれている。それを目にするなり、社長はますます驚いて顔面を蒼白に染めた。
「まさか本当にご都合をつけてくださるとは……」
大金を目の前にしたというのもあるが、冰の素性を聞かされた今では恐ろしくて喜ぶどころではない。この、人の好さそうな青年のバックに、あの周一族がついていると思うと、それだけで脚がガクガクと震え出す。社長はどうしてよいやらオロオロとするばかりだった。
そんな中、社員たちに連れられて唐静雨という女が顔を見せた。
「焔……!」
女は周の姿を見るなり逸るようにその名を呼んだが、周の方は再会を懐かしむどころか笑うでもなければ言葉を掛けるでもなく無表情のままだ。大事そうに冰の肩に手を携えながらも、全身からは見る者をジリジリと焼きつくすような圧を伴ったオーラが滲み出ている。連れ立ってきた鐘崎と紫月、そして側近の李も似たような様子で、特には誰も口を開こうとはしない。ただそこに立っているというだけで部屋中が緊迫した空気に包まれているといった感じだった。
「な……ッ!? 何だ、貴様は……ッ!?」
「理事会だ。テーブルの下に隠したものを見せてもらおう」
「な……何をする! 離せッ!」
「このスイッチは何に使うものだ? まさかこれでボールの位置を狂わせようとでもしたわけか。明らかなイカサマの証拠だな」
「……ッ! クソッ……どうして……ッ!?」
焦りが先立ってか本来のポーカーフェイスを装うことも飛んでしまった様子でいる。言い逃れも儘ならず、ディーラーが蒼を通り越して顔を真っ白にしている側で、ホイールの上を跳ねていたボールが運命の一カ所で動きをとめようとしていた。
フロア全体が水を打ったように静まり返って、すべての視線が一点に集中する。
カタりと音と共にボールが止まった位置は、
「ノアールの十三番――。お嬢様、貴女様の勝ちです」
張がニッコリと微笑みながら告げた瞬間に、フロアは割れんばかりの大歓声に包まれた。
◇ ◇ ◇
こうして張敏の初仕事であるイカサマカジノ討伐は大成功をおさめた。冰の手腕はさることながら、周や鐘崎らの鉄壁の警護態勢のお陰で、特には乱闘が起きることもなく、張の理事会からの信頼も上がり、言うことなしの大団円である。理事会の重鎮方にも大感謝される中、周にピッタリと付き添われながら冰はカジノを後にしたのだった。
本来であれば、このままホテルへと戻って皆と歓喜の乾杯をした後、甘い夜を過ごしたいところであるが、冰にとっては一刻も早く唐静雨のいた会社の社長との約束を果たしてしまいたい思いが先立っていた。また、この件にケリをつけたい周にとっても同様で、冰の着替えだけを済ますと、鐘崎と紫月と共に唐静雨らの滞在するホテルへと向かったのだった。
せっかくの美しい女装姿を解いてしまうことは少々残念とも思えたが、流石にこの格好のまま社長らに会うわけにもいかない。今はとにかく騒動の発端である唐静雨との対峙にカタをつけることが最優先であった。
「老板、お待ちしておりました」
ロビーに着くと既に李が待っていて、出迎えてくれた。彼は昼間、冰と紫月の監視役として後をつけていた男たちを取り押さえてから、一足先に唐静雨と社長の元を訪れて、見張り方々待機していたのだ。李によって冰が周一族の縁者だと聞かされた社長は、ひどく驚き、蒼白となったそうだ。
冰はカジノで勝利した金額の中から女が横領したという五千万円を社長へと差し出した。
「約束のお金です。これであの女の人を闇市に売るなんてことは考え直していただけますね?」
テーブルの上に置かれたアタッシュケースの中にはギッシリと札束が詰め込まれている。それを目にするなり、社長はますます驚いて顔面を蒼白に染めた。
「まさか本当にご都合をつけてくださるとは……」
大金を目の前にしたというのもあるが、冰の素性を聞かされた今では恐ろしくて喜ぶどころではない。この、人の好さそうな青年のバックに、あの周一族がついていると思うと、それだけで脚がガクガクと震え出す。社長はどうしてよいやらオロオロとするばかりだった。
そんな中、社員たちに連れられて唐静雨という女が顔を見せた。
「焔……!」
女は周の姿を見るなり逸るようにその名を呼んだが、周の方は再会を懐かしむどころか笑うでもなければ言葉を掛けるでもなく無表情のままだ。大事そうに冰の肩に手を携えながらも、全身からは見る者をジリジリと焼きつくすような圧を伴ったオーラが滲み出ている。連れ立ってきた鐘崎と紫月、そして側近の李も似たような様子で、特には誰も口を開こうとはしない。ただそこに立っているというだけで部屋中が緊迫した空気に包まれているといった感じだった。
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