極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
240 / 1,212
恋敵

46

しおりを挟む
 そんな様子に戸惑いながらも、テーブルの上に置かれた大金の束に気がついた女が驚いたように瞳を見開いた。
「これ……もしかして焔が……?」
 女は、自分の為に周が都合してくれたものと勘違いしたようだった。
 金がそこにあるということは、横領が知られてしまっただろうことを意味している。不本意ではあるが、それを知っても尚、周が助けてくれたのだと思ったらしい女は、感激に等しいような顔つきでいる。高揚に頬を染めながらも、すがるような視線で周を見つめた。
「焔……あの、あなたがアタシの為にこれを……?」
 だが、周は顔色ひとつ変えずに無表情のまま言い放った。
「俺じゃねえ。それはここにいる冰が身体を張って用意してくれたものだ」
 女は更に驚いて、硬直しながらも周にすがるように視線を泳がせた。
「唐静雨、久しぶりだな。こんな形で再会するなんざ思ってもみなかったが、今回お前のやったことは俺にとって極めて不愉快で許せるもんじゃねえ」
「……焔」
「お前は俺の大事な奴らに不快な思いをさせただけじゃなく、危険な目にまで遭わせた。だが、そんなお前の為にこいつらはこうして身を粉にして金を都合してくれたんだ」
「……ど……ういうこと……?」
 女はまだ事の経緯が掴めずにいるようである。
「お前が闇市で色を売らされると聞いて気の毒に思ったんだろう。本来、冰にとって何の関係もねえことだ。それ以前にこんな迷惑なことに巻き込まれて、普通なら憤慨して当然のところをこの冰はお前の為に尽力してくれたんだ。それについてどう思うのか、まずはお前の意見を聞いてみてえもんだな」
「どうって……アタシは……」
 動揺の為か、まったく言葉にならないといった調子でいる。
「俺としては横領を肩代わりしてやる義理はまったくねえと思っているが、冰のやさしい厚意だ。二度と俺と俺の周囲の者たちの前にツラを見せねえってんなら、この金はくれてやる」
 女にとっては或る意味痛烈といえる最後通告である。ここで金を受け取って、横領がチャラになることは有り難いに違いはないが、そうすると周とは二度と顔を合わせられなくなる。むろんのこと女が望むような親しい関係などは到底論外で、単なる知り合いですらいられなくなるということだ。
 どちらにせよ、痛いに違いはない。できることなら、金も貰えて周との仲も壊したくはないのは本音だが、そんなに美味い話などあろうはずがない。
 返済の為に闇に堕ちて働くか、周と絶縁されるか、女は気が狂いそうなくらいの窮地に唇を噛み締めた。
「ア、アタシは……あなたに会いたかっただけよ……! お金のことだって……あなたの為に……日本語を覚えたり就活したり……それに……」
「専務という男の愛人を続けてきたのも全部俺の為だってか?」
 女は取り留めのない言い訳を繰り返していたが、愛人の件までズバリと言い当てられて、ますます唇を噛み締めた。
「……ッ、その子から聞いたのね?」
 キッと冰に恨めしげな視線を送りながら、まるで彼が告げ口したかのような口ぶりである。周はむろんのこと、これには鐘崎も紫月も呆れ返ってしまった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

処理中です...