241 / 1,212
恋敵
47
しおりを挟む
「とんだ濡れ衣だな。冰はそんなことをチクるような奴じゃねえ。お前、こんなにまでしてもらっても、まるで人の厚意が分からんヤツだな。お前が横領したことは誰に聞かずとも既に調べはついている。俺の情報網を舐めるんじゃねえ」
今の周は普段の冰や身近な者たちに見せる穏やかな男ではない。マフィアのファミリーの顔そのものの厳しいオーラが全身から滲み出ている。おそらくは唐静雨自身も学生の時分には見たことのないものだったろう。次第にドキドキと心拍数を上げながら挙動不審に陥っていく様子が見て取れた。
「……別に……そういう意味で言ったんじゃないわ……」
「だったらどういう意味だ。それ以前に、お前はこいつに対して俺の元恋人だなどとのたまわったらしいが、それについても俺は腹を立てているんだ。そんな嘘を冰に吹き込んで、どういうつもりなんだ」
「……嘘……だなんて、そんな言い方ひどいわ……」
「酷えのはどっちだ。そんなことをされても、こいつはお前の為に精一杯試行錯誤してくれた。謝罪と礼のひと言くらいあってもいいと思うがな」
「そんな……! アタシは別に……そんなことしてくれなんて……」
「頼んでねえってか? これだけの大金を揃えてくれたこいつに対して、それがお前の態度というなら金は持って帰らせてもらう」
「……待って! 違う……。頼んでないなんて、そんなことを言いたかったわけじゃないわ。でも……どうしてその子が……アタシの為にお金を都合してくれるのか……分からなくて。それに……そんな大金だもの。こんな短時間にその子が揃えたなんて信じられないって思っただけで……。本当はあなたが揃えてくれたんじゃないの?」
「愚問だな。冰はたった今、カジノでこの金を稼ぎ出してくれたんだ」
「カジノですって……?」
「そうだ。お前の横領分を何とかして都合してやろうと、カジノで大勝負に出たんだ」
「そんな……」
それこそ信じられないといった顔つきで、女はますます唇を噛み締めた。
「アタシは……ただあなたに会いたかっただけよ……! あなたに会いに行くにはお金が必要だったわ……! 横領横領っていうけど、アタシは横領なんてしたつもりはないわ! 専務の丁さんと付き合ってきたのだって……全部あなたの為に……あなたが好きだから……! なのにあなたは……男となんか付き合って……。ショックだったわ……。あなたが普通に女性と付き合ってるなら諦めもついたかも知れない。でも男と結婚まがいの入籍までするって知って……我慢できなかったのよ!」
冰への礼どころか謝罪すらそっちのけで、今度は周に当てての恨み言が飛び出す始末だ。それこそ頼んでもいないことを『すべてはあなたの為にやったことだ』と言われても呆れるしかない。
「唐、何を勘違いしているか知らんが、これだけははっきり言っておく。俺は今も昔も変わらねえ。お前に恋情を持ったことなどただの一度たりとねえし、お前が俺をどう思っていようが、その気持ちに応えることはない。お前じゃなくても同様だ。男だろうが女だろうがそんなことは問題じゃねえ。俺が唯一無二の伴侶として心から愛しているのはここにいる冰だけだ」
今の周は普段の冰や身近な者たちに見せる穏やかな男ではない。マフィアのファミリーの顔そのものの厳しいオーラが全身から滲み出ている。おそらくは唐静雨自身も学生の時分には見たことのないものだったろう。次第にドキドキと心拍数を上げながら挙動不審に陥っていく様子が見て取れた。
「……別に……そういう意味で言ったんじゃないわ……」
「だったらどういう意味だ。それ以前に、お前はこいつに対して俺の元恋人だなどとのたまわったらしいが、それについても俺は腹を立てているんだ。そんな嘘を冰に吹き込んで、どういうつもりなんだ」
「……嘘……だなんて、そんな言い方ひどいわ……」
「酷えのはどっちだ。そんなことをされても、こいつはお前の為に精一杯試行錯誤してくれた。謝罪と礼のひと言くらいあってもいいと思うがな」
「そんな……! アタシは別に……そんなことしてくれなんて……」
「頼んでねえってか? これだけの大金を揃えてくれたこいつに対して、それがお前の態度というなら金は持って帰らせてもらう」
「……待って! 違う……。頼んでないなんて、そんなことを言いたかったわけじゃないわ。でも……どうしてその子が……アタシの為にお金を都合してくれるのか……分からなくて。それに……そんな大金だもの。こんな短時間にその子が揃えたなんて信じられないって思っただけで……。本当はあなたが揃えてくれたんじゃないの?」
「愚問だな。冰はたった今、カジノでこの金を稼ぎ出してくれたんだ」
「カジノですって……?」
「そうだ。お前の横領分を何とかして都合してやろうと、カジノで大勝負に出たんだ」
「そんな……」
それこそ信じられないといった顔つきで、女はますます唇を噛み締めた。
「アタシは……ただあなたに会いたかっただけよ……! あなたに会いに行くにはお金が必要だったわ……! 横領横領っていうけど、アタシは横領なんてしたつもりはないわ! 専務の丁さんと付き合ってきたのだって……全部あなたの為に……あなたが好きだから……! なのにあなたは……男となんか付き合って……。ショックだったわ……。あなたが普通に女性と付き合ってるなら諦めもついたかも知れない。でも男と結婚まがいの入籍までするって知って……我慢できなかったのよ!」
冰への礼どころか謝罪すらそっちのけで、今度は周に当てての恨み言が飛び出す始末だ。それこそ頼んでもいないことを『すべてはあなたの為にやったことだ』と言われても呆れるしかない。
「唐、何を勘違いしているか知らんが、これだけははっきり言っておく。俺は今も昔も変わらねえ。お前に恋情を持ったことなどただの一度たりとねえし、お前が俺をどう思っていようが、その気持ちに応えることはない。お前じゃなくても同様だ。男だろうが女だろうがそんなことは問題じゃねえ。俺が唯一無二の伴侶として心から愛しているのはここにいる冰だけだ」
25
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる