244 / 1,212
恋敵
50
しおりを挟む
「あのさ、今回俺が拉致されたことでご心配やご足労をお掛けしてしまったお兄様やファミリーの皆さん、鐘崎さんや紫月さん、レイ・ヒイラギさんに倫周さん、真田さんに李さんたち。それにお世話になった張さんたち。日本で捜索に尽力してくださった鐘崎組の皆さんや劉さんも……。とにかく携わってくださった皆さんで分けていただくのはどうかな……?」
冰は小さな声で周の耳元にそう囁いた。自分は周の側に居させてもらえればそれが何よりの贅沢だと思っているので、これ以上は望むものなどない、ましてやお金などはいらないのだと冰は言うのだ。カジノでの勝負に勝てたのも皆が周囲を固めてくれたお陰に他ならないし、自分一人の力などでは決してないと、心からそう訴えてくる。
何とも寡欲なことである。こんな大金を目の前にしても怖いだけだと言い、世話になった人々への感謝の気持ちを忘れない。そして、これからもただ側にいられさえすればいいのだと言ってくれる、周はそんな恋人を心底愛しく思わずにはいられなかった。
「冰がこう言っているので、如何でしょう。皆さんで役立てていただくというのでは」
その意を聞いて誰もがとんでもないと首を横に振ったが、周と冰の強い希望もあって、結局勝利の大金は皆で分けることとなった。
それにしても一人一人に行き渡るのはものすごい金額である。張たちの理事会へも寄付をすることにし、それでも余りある報酬をそれぞれが手にして騒動は幕を下ろしたのだった。
「よし、それじゃ明日は皆で香港だ。夕飯までに向こうへ着けばいいから、今夜はゆっくり休んでくれ」
突発的な出来事で疲れもあるだろう冰らのことを考えての兄の風からの言葉である。ここ二日ばかりはろくに寝てもいられなかっただろうし、何より無事に再会を果たせた恋人たちの気持ちを考えれば、明日は昼過ぎまで水入らずで過ごさせてやりたいと気遣ってくれる兄に感謝をしながら、周と冰、そして鐘崎と紫月はそれぞれの部屋へと引き上げていったのだった。
時刻は既に日付を超えている。深夜のマカオの街並みを見下ろしながら、冰は愛しい恋人の大きな腕に包まれていた。
「すまなかったな、冰。唐静雨という女の件でお前には嫌な思いをさせちまった」
「ううん、俺の方こそ心配掛けちゃってごめんね」
「無事でよかった――」
短い言葉ではあるが、ギュッと抱き包んでくる腕がもう二度と離さないと云いたげなのが悲痛なくらいに伝わってくる。こうして抱き締め合える、ごく当たり前のことが何よりの幸せなのだという周の思いがあふれているのがよく分かった。
クイと顎先を掴まれたと同時に唇全体で包み込むような口づけをされて、冰は瞬時に頬を染め上げた。
冰は小さな声で周の耳元にそう囁いた。自分は周の側に居させてもらえればそれが何よりの贅沢だと思っているので、これ以上は望むものなどない、ましてやお金などはいらないのだと冰は言うのだ。カジノでの勝負に勝てたのも皆が周囲を固めてくれたお陰に他ならないし、自分一人の力などでは決してないと、心からそう訴えてくる。
何とも寡欲なことである。こんな大金を目の前にしても怖いだけだと言い、世話になった人々への感謝の気持ちを忘れない。そして、これからもただ側にいられさえすればいいのだと言ってくれる、周はそんな恋人を心底愛しく思わずにはいられなかった。
「冰がこう言っているので、如何でしょう。皆さんで役立てていただくというのでは」
その意を聞いて誰もがとんでもないと首を横に振ったが、周と冰の強い希望もあって、結局勝利の大金は皆で分けることとなった。
それにしても一人一人に行き渡るのはものすごい金額である。張たちの理事会へも寄付をすることにし、それでも余りある報酬をそれぞれが手にして騒動は幕を下ろしたのだった。
「よし、それじゃ明日は皆で香港だ。夕飯までに向こうへ着けばいいから、今夜はゆっくり休んでくれ」
突発的な出来事で疲れもあるだろう冰らのことを考えての兄の風からの言葉である。ここ二日ばかりはろくに寝てもいられなかっただろうし、何より無事に再会を果たせた恋人たちの気持ちを考えれば、明日は昼過ぎまで水入らずで過ごさせてやりたいと気遣ってくれる兄に感謝をしながら、周と冰、そして鐘崎と紫月はそれぞれの部屋へと引き上げていったのだった。
時刻は既に日付を超えている。深夜のマカオの街並みを見下ろしながら、冰は愛しい恋人の大きな腕に包まれていた。
「すまなかったな、冰。唐静雨という女の件でお前には嫌な思いをさせちまった」
「ううん、俺の方こそ心配掛けちゃってごめんね」
「無事でよかった――」
短い言葉ではあるが、ギュッと抱き包んでくる腕がもう二度と離さないと云いたげなのが悲痛なくらいに伝わってくる。こうして抱き締め合える、ごく当たり前のことが何よりの幸せなのだという周の思いがあふれているのがよく分かった。
クイと顎先を掴まれたと同時に唇全体で包み込むような口づけをされて、冰は瞬時に頬を染め上げた。
25
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる