極道恋事情

一園木蓮

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恋敵

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「あのさ、今回俺が拉致されたことでご心配やご足労をお掛けしてしまったお兄様やファミリーの皆さん、鐘崎さんや紫月さん、レイ・ヒイラギさんに倫周さん、真田さんに李さんたち。それにお世話になった張さんたち。日本で捜索に尽力してくださった鐘崎組の皆さんや劉さんも……。とにかく携わってくださった皆さんで分けていただくのはどうかな……?」
 冰は小さな声で周の耳元にそう囁いた。自分は周の側に居させてもらえればそれが何よりの贅沢だと思っているので、これ以上は望むものなどない、ましてやお金などはいらないのだと冰は言うのだ。カジノでの勝負に勝てたのも皆が周囲を固めてくれたお陰に他ならないし、自分一人の力などでは決してないと、心からそう訴えてくる。
 何とも寡欲なことである。こんな大金を目の前にしても怖いだけだと言い、世話になった人々への感謝の気持ちを忘れない。そして、これからもただ側にいられさえすればいいのだと言ってくれる、周はそんな恋人を心底愛しく思わずにはいられなかった。
「冰がこう言っているので、如何でしょう。皆さんで役立てていただくというのでは」
 その意を聞いて誰もがとんでもないと首を横に振ったが、周と冰の強い希望もあって、結局勝利の大金は皆で分けることとなった。
 それにしても一人一人に行き渡るのはものすごい金額である。張たちの理事会へも寄付をすることにし、それでも余りある報酬をそれぞれが手にして騒動は幕を下ろしたのだった。
「よし、それじゃ明日は皆で香港だ。夕飯までに向こうへ着けばいいから、今夜はゆっくり休んでくれ」
 突発的な出来事で疲れもあるだろう冰らのことを考えての兄の風からの言葉である。ここ二日ばかりはろくに寝てもいられなかっただろうし、何より無事に再会を果たせた恋人たちの気持ちを考えれば、明日は昼過ぎまで水入らずで過ごさせてやりたいと気遣ってくれる兄に感謝をしながら、周と冰、そして鐘崎と紫月はそれぞれの部屋へと引き上げていったのだった。

 時刻は既に日付を超えている。深夜のマカオの街並みを見下ろしながら、冰は愛しい恋人の大きな腕に包まれていた。
「すまなかったな、冰。唐静雨という女の件でお前には嫌な思いをさせちまった」
「ううん、俺の方こそ心配掛けちゃってごめんね」
「無事でよかった――」
 短い言葉ではあるが、ギュッと抱き包んでくる腕がもう二度と離さないと云いたげなのが悲痛なくらいに伝わってくる。こうして抱き締め合える、ごく当たり前のことが何よりの幸せなのだという周の思いがあふれているのがよく分かった。
 クイと顎先を掴まれたと同時に唇全体で包み込むような口づけをされて、冰は瞬時に頬を染め上げた。
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