極道恋事情

一園木蓮

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厄介な依頼人

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「――では徳永。お前の教育係を紹介するからついて来い」
「は、はい!」
 返事だけは威勢がいいが、立ち上がろうとするもののどうやら腰が抜けてしまったのか、へたり込んだままその場を動けずにいるらしい。そこへタイミングよく春日野がやって来た。玄関先が騒がしい様子が気になって駆け付けたようである。
「ああ、春日野か。ちょうど良かった。今日からウチの組に見習いとして入ることになった徳永竜胆だ。今しがた若と姐さんにはご承諾をいただいた。教育係としてお前が面倒を見てやって欲しい」
 清水に言われて春日野はハタと瞳を見開いた。
「……この男、確かこの前の」
「お前も覚えていたか。どうやらあの時の姐さんのご采配に心酔したらしい。こうして直談判に来るくらいだ、それなりの覚悟と根性はあるのだろう。掃除でも雑用でも何でもいい。普通免許は取得済みとあるから、お前さんの運転手として使ってもいい。とにかく任せる。よく教育してやってくれ」
「は――、かしこまりました」
 春日野は未だ地面に座り込んだままの男を見やると、腰が抜けて立てないでいるらしいことをいち早く見てとったようである。
「ほら、立て」
 男をかかえるようにして両脇に腕を入れると、軽々と抱き起こした。
「す、すいません! ご面倒お掛けします……!」
 徳永という男はヨロヨロとおぼつかないながらもきちんと礼の言葉を口にする。どうやらそれなりに礼儀はあるようだ。
「本当にすいません! わ、若頭さんがあまりに貫禄あって……俺、ビビっちまいまして……」
 春日野に抱きかかえられている様子を横目に、清水はクスっと笑みを誘われてしまった。
「それで腰が抜けちまったってわけか。まあいい、人間的には確かに悪くないようだ。春日野、あとは頼んだぞ」
 そう言い残すと自らの仕事に戻って行った。若い衆らもそれぞれの持ち場へと散り散りになっていく。そんな彼らの後ろ姿を眺めながら、ようやくと落ち着きを取り戻したわけか、徳永という男がポツリとつぶやいた。
「はぁ、緊張したぁ……。っていうか、す、すいません!」
 いつまでも寄り掛かっていたことに気がついて、慌てたように抱きかかえられていた身体を離す。ガッシリとした筋肉質の体格の上に至近距離で見ると思わず息を呑みそうになる男前ぶりの春日野からは、いかつい雰囲気に相反してふんわりといい香りが漂ってきて、一瞬ドキッとさせられてしまったからだ。
「あ、あの……か、春日野さん……でしたっけ? 何とお呼びすればよろしいですか? 兄貴……でいいでしょうか? それともあにさんの方がいいのかな……」
 緊張の為か、キョロキョロと視線を泳がせる。至極真面目な調子でそう問われて、春日野は思わずプッと噴き出しそうにさせられてしまった。
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