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極道の姐
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「よし、ここを少し広げれば行けそうだ。俺は作業に掛かる。紫月は二人の会話を拾ってくれ。密かに階下へ降りて女の背後に回り、有無を言わさず捕らえるのが第一目標だ。女に勘付かれて大声を出されれば、向かいの部屋の焔たちにも危険が及ぶ」
「はい」
「だが、もしも遼二の命にかかわるような切羽詰まった状況になった時はすぐに言え。その時は強行突破する」
「承知しました!」
鐘崎とサリーの会話を追うのは紫月に任せて、僚一は換気口を広げる作業に取り掛かった。
室内ではサリーの勝ち誇ったような声音が、まるで独り言のように繰り返されているようだ。時折短く相槌を打っているのは鐘崎の声に間違いない。その声のトーンや息づかいから、彼が今どういった体調にあるのか、またどんな感情で喋っているのか、事細かに聞き取ろうと紫月は耳を研ぎ澄ませた。
「ふふ、遼二。気分はどう? そろそろその気になってくれたかしら?」
女の上機嫌な声がそう言う。鐘崎の方は一向に無視を決め込んでいるのか、ひと言も発しないところからすると相槌を返さずにそっぽを向いているといったところか。
「本当に強情ねぇ。でもいつまで持つかしら? あなた、ここ一週間は山奥の採掘場でお仲間たちと共同生活だったんでしょう? 皆の目がある中じゃ、あなたの自慢の紫月を抱くこともできなかったでしょうに。あなたのような男が一週間以上も禁欲状態だなんて気の毒な話よね? 強情張っても身体は正直だわ」
ふふふと女が嬉しそうに笑う。会話の内容から察するに、催淫剤を盛られたというのは事実らしい。女は鐘崎が欲に負けて彼女を欲するのを待っているのだ。
少しすると、若干息の上がったような鐘崎の声が聞こえてきた。
「……ッ、下衆なことを考えやがる。だが、お前の思い通りにはさせねえぜ……。俺はお前にガキを仕込むつもりなんぞ更々ねえ。諦めるんだな」
「ふふ、何とでも言えばいいわ。あなたがどんなに望まなくても薬の力には逆らえないわよ? これ、ものすごく強力なんですもの!」
「……は、どこまで浅はかなことを考えやがる! 仮にお前の望み通りになったとして、俺がガキを産ませると思うのか?」
「あら、まさか堕ろせとでも言うつもり? あなたにそんなことができるかしら?」
女が笑う。言葉ではどう言おうが、根はやさしい鐘崎のことだ。如何に不本意といえど、授かった子供を葬ることなど到底できないと踏んでいるのだろう。
「目的は何だ……。ついこの前までは店の後見を迫ってたと思いきや、今度はガキか。話が飛び過ぎてついて行けんな!」
いくら後見の承諾を取り付けたいからといえ、さすがに子供を作ってまで迫る必要があろうか。
女には何か別に本当の目的があるのかも知れない――鐘崎はそう思っていた。
「あなたがどう思おうがどうでもいいのよ。とにかくアタシはあなたの子が欲しいの! あなただってアタシと寝られるんだから損にはならないはずよ? これでも銀座では引き手数多だったんですもの!」
有り難く思ってちょうだいとでも言いたげである。
「はい」
「だが、もしも遼二の命にかかわるような切羽詰まった状況になった時はすぐに言え。その時は強行突破する」
「承知しました!」
鐘崎とサリーの会話を追うのは紫月に任せて、僚一は換気口を広げる作業に取り掛かった。
室内ではサリーの勝ち誇ったような声音が、まるで独り言のように繰り返されているようだ。時折短く相槌を打っているのは鐘崎の声に間違いない。その声のトーンや息づかいから、彼が今どういった体調にあるのか、またどんな感情で喋っているのか、事細かに聞き取ろうと紫月は耳を研ぎ澄ませた。
「ふふ、遼二。気分はどう? そろそろその気になってくれたかしら?」
女の上機嫌な声がそう言う。鐘崎の方は一向に無視を決め込んでいるのか、ひと言も発しないところからすると相槌を返さずにそっぽを向いているといったところか。
「本当に強情ねぇ。でもいつまで持つかしら? あなた、ここ一週間は山奥の採掘場でお仲間たちと共同生活だったんでしょう? 皆の目がある中じゃ、あなたの自慢の紫月を抱くこともできなかったでしょうに。あなたのような男が一週間以上も禁欲状態だなんて気の毒な話よね? 強情張っても身体は正直だわ」
ふふふと女が嬉しそうに笑う。会話の内容から察するに、催淫剤を盛られたというのは事実らしい。女は鐘崎が欲に負けて彼女を欲するのを待っているのだ。
少しすると、若干息の上がったような鐘崎の声が聞こえてきた。
「……ッ、下衆なことを考えやがる。だが、お前の思い通りにはさせねえぜ……。俺はお前にガキを仕込むつもりなんぞ更々ねえ。諦めるんだな」
「ふふ、何とでも言えばいいわ。あなたがどんなに望まなくても薬の力には逆らえないわよ? これ、ものすごく強力なんですもの!」
「……は、どこまで浅はかなことを考えやがる! 仮にお前の望み通りになったとして、俺がガキを産ませると思うのか?」
「あら、まさか堕ろせとでも言うつもり? あなたにそんなことができるかしら?」
女が笑う。言葉ではどう言おうが、根はやさしい鐘崎のことだ。如何に不本意といえど、授かった子供を葬ることなど到底できないと踏んでいるのだろう。
「目的は何だ……。ついこの前までは店の後見を迫ってたと思いきや、今度はガキか。話が飛び過ぎてついて行けんな!」
いくら後見の承諾を取り付けたいからといえ、さすがに子供を作ってまで迫る必要があろうか。
女には何か別に本当の目的があるのかも知れない――鐘崎はそう思っていた。
「あなたがどう思おうがどうでもいいのよ。とにかくアタシはあなたの子が欲しいの! あなただってアタシと寝られるんだから損にはならないはずよ? これでも銀座では引き手数多だったんですもの!」
有り難く思ってちょうだいとでも言いたげである。
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