極道恋事情

一園木蓮

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三千世界に極道の華

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「確かに納得の条件だが、どうにも腑に落ちねえ。ここが遊郭だってのと俺たちの容姿を買ったってのは分かったが、それにしても待遇が良過ぎやしねえか? 俺らがそれに見合うだけの働きをするかどうかも分からねえってのよ」
「なに――、心配はしておりませんよ。あなた方ならきっと私の期待に応える充分なお働きをしてくださることでしょう」
 主人はニコニコと瞳を細めたまま平然と言い放つ。思わず『狸親父めが!』と、舌打ちのひとつでもしたい気分である。
「期待に応える働き――ね。こちとら遊郭なんぞ映画かドラマでしか観たことねえ素人集団だってのにな。第一あんた、さっきっから俺たちの素性どころか名前すら訊かねえ。どんな人間なのかも分からねえってのにいきなりトップの花魁に据えるってのも胡散臭え話だぜ。豪華な住まいに三食昼寝付きってくらいの条件を突きつきられても、さすがに話が美味過ぎると疑いたくもなるってもんだろうが」
 レイの言い分も尤もである。通常、花魁といえばそれなりの経験を積んでからなるものだろうし、客からの人気も必要だろう。単に容姿が抜群だというだけでいきなり花魁に据えるなど、何かよほどの裏があるのではと勘ぐりたくもなるというものだ。だが、男は『そんなことか』と鼻で笑うだけだった。
「皆さんがそう思われるのもご尤もですな。だがここでは皆さんが外の世界で何をしていようが、どんな立場にあったお人だろうがまったく問題ではないのですよ。当然名前など訊く必要もない。例えあなた方が外界で大臣だろうと社長だろうとここでは通用しない。これからは過去と決別した新しい人生を送っていただくことになるのですからな」
「過去と決別だと? 随分とまた勝手な話だな。じゃあ俺たちが外の世界に残してきた家族や友人はどうなる。理由もなく失踪すれば、当然捜索願いが出されるだろうし警察だって動き出すだろうよ?」
「残念ながらご家族やご友人とはもう会えないと思っていただきたい。それに警察が動くこともありませんな。ここは外の世界の常識が通用しない隔離された世界です。もっと言えば、我々は外の世界でも非常に大きな力を持った組織と秘密裏の連携がありましてな。ここへ入った人間が表の警察に捜索されるようなことはないシステムになっているのですよ」
 つまり、この世界を作った組織は警察も手が出せないほどの力を持っているというわけだろうか。
「その代わり皆さんにはここに来て良かったと思えるような贅沢で何不自由ない生活をお約束します。なに、桃源郷にでも来たと思っていただければ良いかと。それでご納得いただけない場合は……」
「――さっきの強面の兄さんたちに始末されるって寸法か」
「ご理解が早くて助かりますな」
 男はニコニコと人の好さそうに笑ってはいるが、腹の中は正反対に真っ黒とみえる。少しでも意にそぐわなければ、笑顔のまま真剣でバッサリ切り掛かってきそうな危うさを感じさせる。やはりここは楯突くよりも従うふりを通した方が良さそうだ。レイは諦めたように肩をすくめると、せいぜい励むとするよと言って苦笑してみせた。
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