極道恋事情

一園木蓮

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三千世界に極道の華

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 一方、僚一の元へと向かった源次郎と倫周は無事に彼と落ち合えて、傷のメイクも滞りなく済ませることができていた。
「若のご様子は如何です?」
 源次郎が心配そうに鐘崎を気遣う。本人は部屋の畳に腰を落ち着けたまま、相変わらずにぼうっとしていて視線も定まらない状態でいる。
「遼二があの調子なんでな。幸か不幸か女も根を上げて、深夜になるまでは戻らねえと愚痴を言って出て行ったっきりだ。あの女も遊女としての仕事の合間にここでの任務を請け負っているようだからな。男連中も薬を盛ったことで安心しきっているのか遼二のことは女に任せきりのようだ」
 お陰で今はこの邸内に敵の目はない。
「女が戻って来たら予定通り俺が適当にあしらうさ。その間、遼二には気の毒だが峰打ちで眠らせて押し入れにでも突っ込んでおくつもりだ」
「そうですか……。僚一さんも若もしんどいでしょうが、こちらでは姐さんがご亭主不在の大黒柱となって踏ん張ってくれています。お陰で士気も高まって精神面でどれほど勇気付けられていることか……! こんな時だというのに……いえ、こんな時だからこそどっしりと構えてくださるお姿に感銘を受けずにはいられません! 本当にご立派な素晴らしい姐さんです。我々も命を賭してついていく覚悟でおります。どうかもうしばらくご辛抱ください」
 源次郎の言葉に僚一はフイとやわらかに瞳を細めてみせた。彼は普段、紫月のことを名前にさん付けで呼んでいる。赤子の時分からの縁なので、親しみもあってかそのように呼んできたわけだが、その源次郎が『姐さん』という言い方をしたことに驚くと共に、じんわりとあたたかい気持ちが胸を熱くしたからである。
「本当に俺はいい組を持てたと思う。源さんはじめ若い衆らはもちろんのこと、俺と同じ人生を選んでくれたこれ以上ねえ息子とその嫁まで持つことができた。安心して世代交代ができようってもんだ」
 感極まったふうに微笑む僚一に、源次郎もまた同じ思いに胸を熱くするのだった。
「左様でございますな。若が窮地の時は姐さんがしっかり留守を守って皆を勇気付けてくださる。逆も然りで、姐さんに何かあれば若が降り掛かった暗雲を取り除いて差し上げる。本当にご立派なご夫婦の下で我々組員も感無量です」
 彼らと共にこの窮地に立ち向かえることが幸せの極みと思えるほどだと言って、源次郎は目頭を押さえたのだった。
「まずはその肝心の大黒柱を復活させにゃならんからな。俺たちも肝を据えて若いヤツらを見守ろう。源さん、そっちのことは頼んだぜ!」
「命に代えても!」
 源次郎は生きた視線で承知の意を約束すると共に、李が届けてくれた弁当を手渡すと、三浦屋へと戻って行ったのだった。



◇    ◇    ◇


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