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三千世界に極道の華
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「人にはそれぞれ運命の相手というのがいるもんだ。いっときの感情に流されるのも悪いとは言わねえが、少し時間を置いて冷静になれば本物の想いに気付く場合もある」
「――? 本物の想いって、それじゃあの人には他に大事な相手がいるってわけか?」
「かも知れねえな」
僚一は自分だけが納得しているように笑うが、鐘崎にとってみればチンプンカンプンである。
「俺には言ってることがさっぱり分からんが……」
「今は分からんでいいのさ。とにかくお前の気持ちだけは有り難く受け取っておく。そんなふうに他人を思いやれる男に育ってくれたことが俺は何より嬉しいからな」
「……ッ、ますますワケ分かんねえ」
「それになぁ、まだまだお前ら若いモンだけじゃ心配で仕方ねえ。俺ももうしばらくは現役でいてえしな!」
なぁ源さん! というように源次郎に向かってウィンクを飛ばすと、彼もまた「その通りですな!」と言って微笑んだ。
「この源次郎もまだまだあと十年は頑張れそうですぞ!」
「十年か! その頃には遼二も紫月も四十路に突入だ。そんくらいになれば、若い者に任せていよいよ余生を考えてもいいかも知れん」
豪快に笑う僚一を横目に若い二人はあんぐり顔で互いを見つめてしまった。
「四十って……さすがに想像がつかねえぜ。けど俺らが四十になる頃は親父は六十半ばだぜ? 青春のセの字も残ってねえように思うけど……」
「失礼なことを抜かすな、おいー! 今は人生百歳時代だぞ。第二の青春はそれからでも遅くねえ」
「や、第二っつーか、それもう第四くれえじゃねえか?」
「バカタレ! 年寄りを見くびっちゃいけねえ。仕事はともかく俺は男としては八十くれえまでは現役でいられる自信はあるぞ」
僚一が鼻を膨らませながら『ウンウン』と納得している様子に、車内はドッと和やかな笑いに包まれる。
「つーか、何の話してんだよ!」
「何のってお前、男の甲斐性の話だろうが」
「何の甲斐性だか……」
呆れ気味で肩をすくめてみせた鐘崎に、またしても皆から朗らかな笑いが起こる。ポツリポツリと街のあちこちに街灯が灯り始め宵闇に染まる中、一同を乗せた車は懐かしの我が家の門をくぐったのだった。
その後、レイと倫周を交えて労いの夕食会を済ませると、鐘崎と紫月はひと月ぶりの自室に戻って寝酒を傾けながら寛いでいた。
「あー、やっぱ我が家はいいなぁ」
ソファの上で気持ち良さそうに伸びをする紫月を見つめながら、鐘崎は愛しげに瞳を細める。すっかり体調も快復して安堵のひと時をしみじみと実感していた。
「なぁ遼。そういやさ、さっきの話! ありゃいったいどういう意味だったんだ? 親父の青春がどうとかって言ってたろ?」
帰りの車中で鐘崎が父の僚一と話していたことを不思議に思っていた紫月が訊いた。
「ああ、あれはな――」
鐘崎は今回の件で知り合った美濃屋の蓉子を見ていて感じたことがあったのだと、経緯を話して聞かせた。
「あの女性が後ろ髪を引かれるような顔をしてるように思えたんでな。もしかしたら親父の方も似たような思いでいるんじゃねえかと――ふとそんなふうに感じたわけだが」
「……!? ってことは……二人はイイ仲になったんじゃねえかってことか?」
さすがに驚き顔で紫月が目を丸くしている。
「――? 本物の想いって、それじゃあの人には他に大事な相手がいるってわけか?」
「かも知れねえな」
僚一は自分だけが納得しているように笑うが、鐘崎にとってみればチンプンカンプンである。
「俺には言ってることがさっぱり分からんが……」
「今は分からんでいいのさ。とにかくお前の気持ちだけは有り難く受け取っておく。そんなふうに他人を思いやれる男に育ってくれたことが俺は何より嬉しいからな」
「……ッ、ますますワケ分かんねえ」
「それになぁ、まだまだお前ら若いモンだけじゃ心配で仕方ねえ。俺ももうしばらくは現役でいてえしな!」
なぁ源さん! というように源次郎に向かってウィンクを飛ばすと、彼もまた「その通りですな!」と言って微笑んだ。
「この源次郎もまだまだあと十年は頑張れそうですぞ!」
「十年か! その頃には遼二も紫月も四十路に突入だ。そんくらいになれば、若い者に任せていよいよ余生を考えてもいいかも知れん」
豪快に笑う僚一を横目に若い二人はあんぐり顔で互いを見つめてしまった。
「四十って……さすがに想像がつかねえぜ。けど俺らが四十になる頃は親父は六十半ばだぜ? 青春のセの字も残ってねえように思うけど……」
「失礼なことを抜かすな、おいー! 今は人生百歳時代だぞ。第二の青春はそれからでも遅くねえ」
「や、第二っつーか、それもう第四くれえじゃねえか?」
「バカタレ! 年寄りを見くびっちゃいけねえ。仕事はともかく俺は男としては八十くれえまでは現役でいられる自信はあるぞ」
僚一が鼻を膨らませながら『ウンウン』と納得している様子に、車内はドッと和やかな笑いに包まれる。
「つーか、何の話してんだよ!」
「何のってお前、男の甲斐性の話だろうが」
「何の甲斐性だか……」
呆れ気味で肩をすくめてみせた鐘崎に、またしても皆から朗らかな笑いが起こる。ポツリポツリと街のあちこちに街灯が灯り始め宵闇に染まる中、一同を乗せた車は懐かしの我が家の門をくぐったのだった。
その後、レイと倫周を交えて労いの夕食会を済ませると、鐘崎と紫月はひと月ぶりの自室に戻って寝酒を傾けながら寛いでいた。
「あー、やっぱ我が家はいいなぁ」
ソファの上で気持ち良さそうに伸びをする紫月を見つめながら、鐘崎は愛しげに瞳を細める。すっかり体調も快復して安堵のひと時をしみじみと実感していた。
「なぁ遼。そういやさ、さっきの話! ありゃいったいどういう意味だったんだ? 親父の青春がどうとかって言ってたろ?」
帰りの車中で鐘崎が父の僚一と話していたことを不思議に思っていた紫月が訊いた。
「ああ、あれはな――」
鐘崎は今回の件で知り合った美濃屋の蓉子を見ていて感じたことがあったのだと、経緯を話して聞かせた。
「あの女性が後ろ髪を引かれるような顔をしてるように思えたんでな。もしかしたら親父の方も似たような思いでいるんじゃねえかと――ふとそんなふうに感じたわけだが」
「……!? ってことは……二人はイイ仲になったんじゃねえかってことか?」
さすがに驚き顔で紫月が目を丸くしている。
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