極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
569 / 1,212
三千世界に極道の華

92

しおりを挟む
「何となくそう感じただけだ。まあ、俺は女心ってのはいまいちよく分かってねえところがあるからな……。ただの勘違いかも知れねえが――」
「そういや親父も運命がどうとか言ってたもんな。つまりあの蓉子さんって女性には他にそういった相手がいるってことなのか?」
「さあ、俺もそこまでは分からんが、もしかしたら俺たちの知らねえところで親父は何か気付いたことがあったのかも知れん。いっときの感情がどうとかも言ってたから、あの女性が親父に対する何らかの好意を抱いているのは少なからず嘘じゃねえとは思うが」
「そっか……。まあお前がそう感じたんなら当たらずとも遠からじってこともあるのかもな。まあ相手が誰にしろ、親父に大事な人ができたんなら幸せになって欲しいと思うよ。そん時はきっと親父の方から俺らにも打ち明けてくれるんじゃねえかな」
 そんなふうに言ってくれる紫月の気持ちが素直に嬉しかった。
「そうだな。まあ他人の恋路なんてのは周りがどうこう言わずとも縁がある時はなるようになるだろうしな。それよりまずは自分がしっかりしなきゃいけねえわ」
 今回は皆に多大な心配をかけてしまったことだしと、鐘崎はえらく反省している様子であった。
「それを言うなら俺だって一緒さ。たまたま今回は睡眠薬だけで免れたが、ヘタすりゃ俺だってお前と同じ薬を盛られてたかもだしな。氷川や源さんたちも同じこと言ってたし」
 鐘崎のみならず誰がどんな薬を盛られても防ぎようがなかったのは確かである。というよりもそういったことを想定して警戒できなかったことをまずは全員で反省すべきだと、皆の思いはほぼ一緒だったようだ。
「まあでも誰一人欠けずに無事に帰還できてやれやれだな」
 笑いながらそう言って深くソファにもたれ伸びをする紫月を見つめながら、鐘崎はフイと瞳を細めた。
 そっと手を伸ばして愛しい頬に触れる。
「久しぶりだな。もう何年もおめえに触れていなかったような気がする……」
「何年もって、たった十日くれえだろ? 相変わらず大袈裟なんだからよぉ」
 紫月はクスクスと楽しそうに笑う。だが鐘崎は存外真剣なようだ。
「確かにな。実際はそのくれえだったわけだが、俺は記憶が途切れちまってたからな。えらく長え間に思えてな」
「そっか。まあそうだよな。そういやちょっと前には冰君も記憶喪失になっちまったことがあったじゃん。自分がどこの誰かも分からなくなっちまうって、ハタで見るより本人は辛えだろうからな。けどよく思い出してくれたよ、ホント!」
「お前のお陰だ。レイさんや他の皆んなにも心配を掛けてすまねえと思っている」
「いや、俺なんか役に立てたんだかどうかってところだけどさ。レイさんとも相談して、どうすりゃお前の気持ちを揺さぶれるかってさ」
「レイさんが何度も覚悟を見せてみろって言ってくれたろ? それにお前が源氏名にしてくれた”紅椿”だ。その二つがキーワードになって思い出すことができたわけだが――。俺が感動したのはお前があの頃の――俺が刺青を入れた頃のことを覚えていてくれたってことだ」
 鐘崎にしてみればもう十年も前の、それこそ紫月に対する想いさえ打ち明けられずにいた頃の話だ。一生この片想いを一人胸の内にあたためて生きていくんだと思っていた。そんな当時の自分が言ったひと言ひと言を紫月が覚えていてくれたとは思ってもみなかった為、感激もひとしおだったのだ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

処理中です...