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三千世界に極道の華
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「何となくそう感じただけだ。まあ、俺は女心ってのはいまいちよく分かってねえところがあるからな……。ただの勘違いかも知れねえが――」
「そういや親父も運命がどうとか言ってたもんな。つまりあの蓉子さんって女性には他にそういった相手がいるってことなのか?」
「さあ、俺もそこまでは分からんが、もしかしたら俺たちの知らねえところで親父は何か気付いたことがあったのかも知れん。いっときの感情がどうとかも言ってたから、あの女性が親父に対する何らかの好意を抱いているのは少なからず嘘じゃねえとは思うが」
「そっか……。まあお前がそう感じたんなら当たらずとも遠からじってこともあるのかもな。まあ相手が誰にしろ、親父に大事な人ができたんなら幸せになって欲しいと思うよ。そん時はきっと親父の方から俺らにも打ち明けてくれるんじゃねえかな」
そんなふうに言ってくれる紫月の気持ちが素直に嬉しかった。
「そうだな。まあ他人の恋路なんてのは周りがどうこう言わずとも縁がある時はなるようになるだろうしな。それよりまずは自分がしっかりしなきゃいけねえわ」
今回は皆に多大な心配をかけてしまったことだしと、鐘崎はえらく反省している様子であった。
「それを言うなら俺だって一緒さ。たまたま今回は睡眠薬だけで免れたが、ヘタすりゃ俺だってお前と同じ薬を盛られてたかもだしな。氷川や源さんたちも同じこと言ってたし」
鐘崎のみならず誰がどんな薬を盛られても防ぎようがなかったのは確かである。というよりもそういったことを想定して警戒できなかったことをまずは全員で反省すべきだと、皆の思いはほぼ一緒だったようだ。
「まあでも誰一人欠けずに無事に帰還できてやれやれだな」
笑いながらそう言って深くソファにもたれ伸びをする紫月を見つめながら、鐘崎はフイと瞳を細めた。
そっと手を伸ばして愛しい頬に触れる。
「久しぶりだな。もう何年もおめえに触れていなかったような気がする……」
「何年もって、たった十日くれえだろ? 相変わらず大袈裟なんだからよぉ」
紫月はクスクスと楽しそうに笑う。だが鐘崎は存外真剣なようだ。
「確かにな。実際はそのくれえだったわけだが、俺は記憶が途切れちまってたからな。えらく長え間に思えてな」
「そっか。まあそうだよな。そういやちょっと前には冰君も記憶喪失になっちまったことがあったじゃん。自分がどこの誰かも分からなくなっちまうって、ハタで見るより本人は辛えだろうからな。けどよく思い出してくれたよ、ホント!」
「お前のお陰だ。レイさんや他の皆んなにも心配を掛けてすまねえと思っている」
「いや、俺なんか役に立てたんだかどうかってところだけどさ。レイさんとも相談して、どうすりゃお前の気持ちを揺さぶれるかってさ」
「レイさんが何度も覚悟を見せてみろって言ってくれたろ? それにお前が源氏名にしてくれた”紅椿”だ。その二つがキーワードになって思い出すことができたわけだが――。俺が感動したのはお前があの頃の――俺が刺青を入れた頃のことを覚えていてくれたってことだ」
鐘崎にしてみればもう十年も前の、それこそ紫月に対する想いさえ打ち明けられずにいた頃の話だ。一生この片想いを一人胸の内にあたためて生きていくんだと思っていた。そんな当時の自分が言ったひと言ひと言を紫月が覚えていてくれたとは思ってもみなかった為、感激もひとしおだったのだ。
「そういや親父も運命がどうとか言ってたもんな。つまりあの蓉子さんって女性には他にそういった相手がいるってことなのか?」
「さあ、俺もそこまでは分からんが、もしかしたら俺たちの知らねえところで親父は何か気付いたことがあったのかも知れん。いっときの感情がどうとかも言ってたから、あの女性が親父に対する何らかの好意を抱いているのは少なからず嘘じゃねえとは思うが」
「そっか……。まあお前がそう感じたんなら当たらずとも遠からじってこともあるのかもな。まあ相手が誰にしろ、親父に大事な人ができたんなら幸せになって欲しいと思うよ。そん時はきっと親父の方から俺らにも打ち明けてくれるんじゃねえかな」
そんなふうに言ってくれる紫月の気持ちが素直に嬉しかった。
「そうだな。まあ他人の恋路なんてのは周りがどうこう言わずとも縁がある時はなるようになるだろうしな。それよりまずは自分がしっかりしなきゃいけねえわ」
今回は皆に多大な心配をかけてしまったことだしと、鐘崎はえらく反省している様子であった。
「それを言うなら俺だって一緒さ。たまたま今回は睡眠薬だけで免れたが、ヘタすりゃ俺だってお前と同じ薬を盛られてたかもだしな。氷川や源さんたちも同じこと言ってたし」
鐘崎のみならず誰がどんな薬を盛られても防ぎようがなかったのは確かである。というよりもそういったことを想定して警戒できなかったことをまずは全員で反省すべきだと、皆の思いはほぼ一緒だったようだ。
「まあでも誰一人欠けずに無事に帰還できてやれやれだな」
笑いながらそう言って深くソファにもたれ伸びをする紫月を見つめながら、鐘崎はフイと瞳を細めた。
そっと手を伸ばして愛しい頬に触れる。
「久しぶりだな。もう何年もおめえに触れていなかったような気がする……」
「何年もって、たった十日くれえだろ? 相変わらず大袈裟なんだからよぉ」
紫月はクスクスと楽しそうに笑う。だが鐘崎は存外真剣なようだ。
「確かにな。実際はそのくれえだったわけだが、俺は記憶が途切れちまってたからな。えらく長え間に思えてな」
「そっか。まあそうだよな。そういやちょっと前には冰君も記憶喪失になっちまったことがあったじゃん。自分がどこの誰かも分からなくなっちまうって、ハタで見るより本人は辛えだろうからな。けどよく思い出してくれたよ、ホント!」
「お前のお陰だ。レイさんや他の皆んなにも心配を掛けてすまねえと思っている」
「いや、俺なんか役に立てたんだかどうかってところだけどさ。レイさんとも相談して、どうすりゃお前の気持ちを揺さぶれるかってさ」
「レイさんが何度も覚悟を見せてみろって言ってくれたろ? それにお前が源氏名にしてくれた”紅椿”だ。その二つがキーワードになって思い出すことができたわけだが――。俺が感動したのはお前があの頃の――俺が刺青を入れた頃のことを覚えていてくれたってことだ」
鐘崎にしてみればもう十年も前の、それこそ紫月に対する想いさえ打ち明けられずにいた頃の話だ。一生この片想いを一人胸の内にあたためて生きていくんだと思っていた。そんな当時の自分が言ったひと言ひと言を紫月が覚えていてくれたとは思ってもみなかった為、感激もひとしおだったのだ。
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