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孤高のマフィア
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「この人がどうかしたんですか?」
「うん、まだ何がどうって決まったわけじゃないんだけどさ。あの時、社長たちがランチに出掛けるのをじーっと見つめてたのが妙に引っ掛かったっていうか……ちょっと普通じゃないなって思ったのよ。それで念の為にと思って名刺を取っておいたんだけど」
「まさかこの人が雪吹さんを誘拐したとか?」
「そうと決まったわけじゃないけど……アタシの第六感が何かヤバいなーって雰囲気を感じたのは確かっていうか」
そんな話をしていると、英子が思い出したように突如大きな声を上げた。
「あー! そういえば思い出しました!」
「こら! 大声出して!」
嗜めるようにグイと英子の腕を引っ張って『しーッ!』と指を口元へ持っていく。
「す、すみません! でもこの人……確かあの後も見掛けたなって思って」
「見掛けたですって!? いつ!?」
今度は清美が大声を上げてしまい、咄嗟に二人でデスクの陰に身を潜める。
「この人が訪ねて来た次の週だったかな……清美先輩がお休みの日でしたから言うの忘れてました」
「まさかまた社長を訪ねて来たとか?」
「いいえ、そうじゃないんですけど、向かいのツインタワーにあるカフェで! 随分長い間居座っていたようでしたけど……」
「それ、本当にこの人で間違いないの?」
「ええ。あの時はどこかで見た人だなぁくらいにしか思ってなくて、気にも留めなかったんですけど。ただ、その後もランチに出た時に今度は別のカフェで見掛けたんで、何してんだろうって思ったんですよ」
「別のカフェですって? この人、一人だったの?」
「ええ、それもやっぱりツインタワーに入ってるお店で。窓際に陣取ってずっとウチの会社の方を見てたっていうか……。ランチで見掛けた時は二階の軽食喫茶だったかな。さっきは一階のカフェにいたのに今度はこっち? って不思議に思ったのを覚えてます」
「まあ……。何だか怪しいわね。それで……格好とかは覚えてる? スーツだったとか普段着だったとか」
「えっと……スーツだったと思います。ここに訪ねて来た時と同じような感じの」
「本当に一人だった? 誰かと商談でもしてて、相手の人が化粧室に行ってるとかじゃなくて?」
「うーん、私が見た時は一人でしたよ。ランチの時は通り掛けに見ただけだからハッキリとは断言できないですけど、一階のカフェに居た時は一人でした。窓際の……ほら、ここからも見えるあの辺りの席でした」
英子が指差した席からは確かにこちら側がよく見える位置だ。全面ガラス張りのカフェなので、様子を伺うには絶好といえるだろう。
「ツインタワーのカフェを転々と……かぁ。もしかしたら別のカフェにも居た可能性あるわね」
いかに長居するといっても一箇所で何時間もというのはさすがに居ずらいかも知れないし、そういった意味で店を移動したとすれば、目的は何だろうと勘繰りたくもなるというものだ。
清美はこのことを李らに報告すべきか迷ったが、些細なことでも何かの役に立つかも知れないと思った。何もなければ聞き捨ててくれればいいわけだし、何より自分のカンが告げるべきだと言っているのだ。
先程の劉の態度からしても何かあったことは間違いなさそうだ。ここは鬱陶しがられようが報告すべきと腹を決めた清美であった。
かくしてこの判断が事態を好転させる大きなきっかけとなるわけだが、まさに女の第六感が功を奏した結果といえる。
「うん、まだ何がどうって決まったわけじゃないんだけどさ。あの時、社長たちがランチに出掛けるのをじーっと見つめてたのが妙に引っ掛かったっていうか……ちょっと普通じゃないなって思ったのよ。それで念の為にと思って名刺を取っておいたんだけど」
「まさかこの人が雪吹さんを誘拐したとか?」
「そうと決まったわけじゃないけど……アタシの第六感が何かヤバいなーって雰囲気を感じたのは確かっていうか」
そんな話をしていると、英子が思い出したように突如大きな声を上げた。
「あー! そういえば思い出しました!」
「こら! 大声出して!」
嗜めるようにグイと英子の腕を引っ張って『しーッ!』と指を口元へ持っていく。
「す、すみません! でもこの人……確かあの後も見掛けたなって思って」
「見掛けたですって!? いつ!?」
今度は清美が大声を上げてしまい、咄嗟に二人でデスクの陰に身を潜める。
「この人が訪ねて来た次の週だったかな……清美先輩がお休みの日でしたから言うの忘れてました」
「まさかまた社長を訪ねて来たとか?」
「いいえ、そうじゃないんですけど、向かいのツインタワーにあるカフェで! 随分長い間居座っていたようでしたけど……」
「それ、本当にこの人で間違いないの?」
「ええ。あの時はどこかで見た人だなぁくらいにしか思ってなくて、気にも留めなかったんですけど。ただ、その後もランチに出た時に今度は別のカフェで見掛けたんで、何してんだろうって思ったんですよ」
「別のカフェですって? この人、一人だったの?」
「ええ、それもやっぱりツインタワーに入ってるお店で。窓際に陣取ってずっとウチの会社の方を見てたっていうか……。ランチで見掛けた時は二階の軽食喫茶だったかな。さっきは一階のカフェにいたのに今度はこっち? って不思議に思ったのを覚えてます」
「まあ……。何だか怪しいわね。それで……格好とかは覚えてる? スーツだったとか普段着だったとか」
「えっと……スーツだったと思います。ここに訪ねて来た時と同じような感じの」
「本当に一人だった? 誰かと商談でもしてて、相手の人が化粧室に行ってるとかじゃなくて?」
「うーん、私が見た時は一人でしたよ。ランチの時は通り掛けに見ただけだからハッキリとは断言できないですけど、一階のカフェに居た時は一人でした。窓際の……ほら、ここからも見えるあの辺りの席でした」
英子が指差した席からは確かにこちら側がよく見える位置だ。全面ガラス張りのカフェなので、様子を伺うには絶好といえるだろう。
「ツインタワーのカフェを転々と……かぁ。もしかしたら別のカフェにも居た可能性あるわね」
いかに長居するといっても一箇所で何時間もというのはさすがに居ずらいかも知れないし、そういった意味で店を移動したとすれば、目的は何だろうと勘繰りたくもなるというものだ。
清美はこのことを李らに報告すべきか迷ったが、些細なことでも何かの役に立つかも知れないと思った。何もなければ聞き捨ててくれればいいわけだし、何より自分のカンが告げるべきだと言っているのだ。
先程の劉の態度からしても何かあったことは間違いなさそうだ。ここは鬱陶しがられようが報告すべきと腹を決めた清美であった。
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