613 / 1,212
孤高のマフィア
36
しおりを挟む
その後、清美と英子からの報告を受けて、周らは直ちに博多の香山について詳しい素性を調べに掛かった。また、同じ頃、別ルートから調査を進めていた鐘崎の方でも目ぼしい情報が入手できたらしく、紫月を伴って汐留の社へと駆け付けてくれた。
それによると、里恵子の店のホステスが拉致の少し前に以前勤めていた女から周についていろいろと訊かれたことが分かったというのだ。訊いてきた女というのはもちろんのこと愛莉である。
「愛莉というと――前に冰が記憶喪失になった時に俺を訪ねて来た例の女か」
彼女についてはその後厄介なことが起こらないようにと李が素性を探っていたはずだ。
「愛莉という女ですが、クラブ・フォレストを辞めた後は出身地である博多へと舞い戻ったようです。あちらでもホステスとして生計を立てていたようですが、特に老板に対して恨みを抱いている様子も見受けられなかった為、周期的に様子を窺うに留めておったのですが」
李の説明によると、愛莉は容姿が整っているゆえに興味を持ったことには割と物怖じせずに突っ込んでいくという行動力の持ち主らしい。まあ、周のところへも単独で訪ねて来たくらいだし、その点は納得である。だが、性格的にもサバサバとしていて、手に入らないと思った場合の諦めも早く、これがダメなら次――というふうで切り替えも早いらしい。そんな女だから、周への恨みを抱く可能性は低いと認識していたという。
今の李の説明と鐘崎らの調べ、そして受付嬢たちからの報告でいよいよ事態が見えてくる。
「――博多か。香山のヤツも博多だったな」
「とすると、どこかでその愛莉と香山が出会ったことで厄介な方向に歯車が噛み合わさってしまったということか――。二人で話す内に今回の計画に行き着いた可能性が出てくるな」
周と鐘崎が互いを見合わせる。
「けどよ、仮に愛莉って女が氷川に仕返しを考えたとして、香山ってヤツはどう絡んでくるわけだ? 受付の姉ちゃんたちの話からすると、冰君に一目惚れでもしちまったんじゃねえかっていう想像だっけ? けどそいつって嫁さんもガキもいるんだろ?」
紫月が首を傾げていると、その脇から鐘崎が付け加えた。
「冰に惚れたというよりは――氷川、案外お前さんの方が狙いなのかも知れねえぞ」
「香山が俺を?」
さすがに有り得ないだろうと周は苦笑気味だ。それこそ紫月の言うように彼には女房も子供もいるわけだし、立場的にも地元で老舗の文具店を継いでいて、いわば堅実な人生を歩んでいると思われる男だ。
「ですが……そう言われれば思い当たる節がないわけでもありません。香山は我々と偶然銀座で出会った後もわざわざ社にまで訪ねて来ています。あの時も老板にのみ話があるということでしたが、いったい用向きは何だったのです?」
李が訊くと、周も確かに大した用件ではなかったと、その日のことを振り返った。
「博多に帰る前にひと言挨拶がしたかったと言っていたな。新しくなった社屋を見たかったとも……。そういや名刺を欲しがったんで渡したんだが、その後に俺の携帯の番号を訊いてきた」
ちょうどその時、鐘崎からの着信が入ったので、すっかりそのままになって忘れてしまったわけだ。
それによると、里恵子の店のホステスが拉致の少し前に以前勤めていた女から周についていろいろと訊かれたことが分かったというのだ。訊いてきた女というのはもちろんのこと愛莉である。
「愛莉というと――前に冰が記憶喪失になった時に俺を訪ねて来た例の女か」
彼女についてはその後厄介なことが起こらないようにと李が素性を探っていたはずだ。
「愛莉という女ですが、クラブ・フォレストを辞めた後は出身地である博多へと舞い戻ったようです。あちらでもホステスとして生計を立てていたようですが、特に老板に対して恨みを抱いている様子も見受けられなかった為、周期的に様子を窺うに留めておったのですが」
李の説明によると、愛莉は容姿が整っているゆえに興味を持ったことには割と物怖じせずに突っ込んでいくという行動力の持ち主らしい。まあ、周のところへも単独で訪ねて来たくらいだし、その点は納得である。だが、性格的にもサバサバとしていて、手に入らないと思った場合の諦めも早く、これがダメなら次――というふうで切り替えも早いらしい。そんな女だから、周への恨みを抱く可能性は低いと認識していたという。
今の李の説明と鐘崎らの調べ、そして受付嬢たちからの報告でいよいよ事態が見えてくる。
「――博多か。香山のヤツも博多だったな」
「とすると、どこかでその愛莉と香山が出会ったことで厄介な方向に歯車が噛み合わさってしまったということか――。二人で話す内に今回の計画に行き着いた可能性が出てくるな」
周と鐘崎が互いを見合わせる。
「けどよ、仮に愛莉って女が氷川に仕返しを考えたとして、香山ってヤツはどう絡んでくるわけだ? 受付の姉ちゃんたちの話からすると、冰君に一目惚れでもしちまったんじゃねえかっていう想像だっけ? けどそいつって嫁さんもガキもいるんだろ?」
紫月が首を傾げていると、その脇から鐘崎が付け加えた。
「冰に惚れたというよりは――氷川、案外お前さんの方が狙いなのかも知れねえぞ」
「香山が俺を?」
さすがに有り得ないだろうと周は苦笑気味だ。それこそ紫月の言うように彼には女房も子供もいるわけだし、立場的にも地元で老舗の文具店を継いでいて、いわば堅実な人生を歩んでいると思われる男だ。
「ですが……そう言われれば思い当たる節がないわけでもありません。香山は我々と偶然銀座で出会った後もわざわざ社にまで訪ねて来ています。あの時も老板にのみ話があるということでしたが、いったい用向きは何だったのです?」
李が訊くと、周も確かに大した用件ではなかったと、その日のことを振り返った。
「博多に帰る前にひと言挨拶がしたかったと言っていたな。新しくなった社屋を見たかったとも……。そういや名刺を欲しがったんで渡したんだが、その後に俺の携帯の番号を訊いてきた」
ちょうどその時、鐘崎からの着信が入ったので、すっかりそのままになって忘れてしまったわけだ。
22
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる