極道恋事情

一園木蓮

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孤高のマフィア

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「何を! たかだか幹部くれえで威張るな! こちとらここ日本にファミリーのトップがいるんだ!」
「トップだ? てめえのところは香港だろうが! 見え見えのホラを吹くな!」
「ホラなんかじゃねえわ! うちのボスの息子が東京にいてな。息子と言やぁそれこそ組織のトップそのものだ! なんなら今からでも会ってもらおうじゃねえか!」
「何だと! 出任せこくんじゃねえぞ、ぐぉら!」
 次第に額と額とを突き合わせての睨み合いへと発展する。それよりなによりボスの息子が東京にいるということだが、それはもしかしたら周のことではないだろうか。だとすれば香港から来ているというこの男は本当に周ファミリーの組織に与する者なのかも知れない。そんなことを考えながら様子見をしていた冰だが、側ではマフィア同士が襟首を掴み合いながら一触即発の言い争いに火が点いてしまったようだ。
[ファミリーの息子だかなんだか知らねえが、てめえなんぞ下っ端はどうせその息子にだって会ったことすらねえんだろうが! 下っ端は下っ端らしくわきまえろってんだ!]
[黙りやがれ、このクズが!]
[だったら今すぐその息子ってのを連れてきてみろよ! どうせてめえなんぞが連絡取ったところで取り継いですらもらえねえだろうがな! ファミリーのツラさえ拝んだこともねえ野郎がでけえ口叩いてんじゃねえ!]
 もはや日本語もすっ飛んで、彼らの母国語でフロア全体に響き渡るような怒鳴り合いが始まり、次第に皆の視線が集まってくる。拉致犯である愛莉の男も側でオロオロとしているだけというところを見ると、さすがに広東語には詳しくない様子だ。
 それならば――と、冰は少し突っ込んだ方向で話を進めてみることにしたのだった。
[まあまあ、皆さん。少し落ち着いてくださいな! できれば僕の意見も聞いていただけると有り難いのですがね]
 冰が割って入ると、争っていたマフィアたちは驚いたように目を見張って一斉に眉根を寄せた。話し掛けられた言葉は流暢な広東語だったからだ。
[あんた……広東語が話せるのか?]
 三人が三人ともピタリと争いをやめて冰を凝視する。
[ええ、まあ。それより僭越ながら僕としては御三方どこに決めていただいても有り難いと思っています。台湾は北には洗練された大都会と、南には美しいリゾート地がたくさんあって、住んでいらっしゃる皆さんもご親切と聞きます。とても素晴らしい国ですから前から一度訪れてみたいと思っていたところなんです。マカオには一流のカジノがたくさんありますし、先程のお話ですと僕をディーラーとして使っていただけるとか。それもたいへん魅力的なお話です]
 褒められた台湾とマカオのマフィアたちは冰の言葉にたいそう満足げだ。アンタ、なかなか分かっているじゃないかと高揚した顔つきで身を乗り出してくる。
[ですが……どこかひとつ選ばねばならないとしたらやはり香港ですかね――]
 香港を名指ししたと同時に他の二人のマフィアたちは目を吊り上げた。
[なんでぃ! えらく話が違うじゃねえかい! 香港には俺たち以上にいい条件でもあるってのかい!?]
 だったらその理由を聞かせてもらおうじゃねえかと詰め寄る。今の今まで上機嫌だったと思いきや、こういうところの短気さと威圧の仕方はさすがに玄人といったところか。
[――すみません。ですが、香港には僕の実家があるものですから]
 困ったように微笑んでみせた冰に、マフィアたちは唖然、あんぐり顔にさせられてしまった。
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