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孤高のマフィア
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「そういえば冰、お前――」
「ん? なぁに?」
激しくも甘い抱擁の後で愛しい嫁に腕枕をしながら周が問う。うっとりと瞳を潤ませ、未だ恍惚に浸るような表情で冰もまた愛する亭主を見つめた。
「お前、煙草が吸えたのか?」
「え?」
「ディーラーとサシで勝負する時にお前が煙草を吸い始めたのには正直驚かされたからな」
冰には普段喫煙の習慣はない。かれこれ一年以上も一緒に暮らしているが、煙草を吸う姿を見たことがないので驚いたのだ。
「ああ、うん。吸えるよ、煙草。香港にいた頃はね、それもひとつの経験っていうか手段なんだってじいちゃんがさ」
「黄のじいさんはそんなことまで教え込んだわけか……」
「うん、まあね。じいちゃんは喫煙者だったし、煙草を吸う仕草っていうのは時には役に立つもんなんだって言ってね。肺には入れないでいいけど、扱いは格好よく見せられるようになれってさ。本当は護身術も身に付けろって言われてたんだけど、そっちの方はまるで上達しなかったんだよね、俺」
老人に勧められて道場のようなところにも通うには通ったが、ディーラーの技を覚えるだけでも精一杯で、さすがに体術まではこなし切れなかったというのだ。
それよりも何故煙草を吸っていたところを知っているのかと冰の方が不思議顔だ。
「もしかして白龍たちは俺がディーラーと勝負する前からあのお店に来てたの?」
実はそうなのだ。ちょうど周らが到着したのは、まさに冰がカードゲームのテーブルに着いた時だった。
「丹羽たち警察が外濠を固めるのに少し時間が必要だったんでな。何かあればすぐに助けに入るつもりで俺とカネはお前の後方で待機していたんだが、お前が店中の客の目を引きつけてくれたお陰で丹羽もやりやすかったそうだぞ」
「ええー! そうだったんだー」
「相変わらずにすごい腕前だった。ゲームに関しては言うまでもねえが、そこへ持っていくまでの過程がな。周囲までも自然と味方につけながら相手を追い詰めていく手腕はまさに圧巻だった。カネんところの源次郎さんなんか詰将棋を見ているようだと言って感激しきりだったぜ」
冰はすっかり驚かされてしまった。まさか皆がそんな早くから見守ってくれていたとは夢にも思わなかったからだ。
「あ、でも……」
言い掛けて冰はポッと頬を染めた。
「そうだよ、俺ね、なんとなく一人じゃないって思ってたんだ。もちろんあの時は白龍たちが来てくれてるなんて気がついてたわけじゃないんだけど……。ただ……なんて言うのかな、実際には側にいられなくても俺にはいつも白龍がついててくれるんだから何があっても大丈夫っていうか……だから怖くないって思えたんだよ」
「一心同体――か。まさにお前がさっき言ってくれた言葉の通りなんだな、俺たちは」
「白龍……。ん、うん! そうだよね。だって俺たちは」
夫婦なんだから!
二人同時にハモっては、また同時に噴き出してしまった。
「ん? なぁに?」
激しくも甘い抱擁の後で愛しい嫁に腕枕をしながら周が問う。うっとりと瞳を潤ませ、未だ恍惚に浸るような表情で冰もまた愛する亭主を見つめた。
「お前、煙草が吸えたのか?」
「え?」
「ディーラーとサシで勝負する時にお前が煙草を吸い始めたのには正直驚かされたからな」
冰には普段喫煙の習慣はない。かれこれ一年以上も一緒に暮らしているが、煙草を吸う姿を見たことがないので驚いたのだ。
「ああ、うん。吸えるよ、煙草。香港にいた頃はね、それもひとつの経験っていうか手段なんだってじいちゃんがさ」
「黄のじいさんはそんなことまで教え込んだわけか……」
「うん、まあね。じいちゃんは喫煙者だったし、煙草を吸う仕草っていうのは時には役に立つもんなんだって言ってね。肺には入れないでいいけど、扱いは格好よく見せられるようになれってさ。本当は護身術も身に付けろって言われてたんだけど、そっちの方はまるで上達しなかったんだよね、俺」
老人に勧められて道場のようなところにも通うには通ったが、ディーラーの技を覚えるだけでも精一杯で、さすがに体術まではこなし切れなかったというのだ。
それよりも何故煙草を吸っていたところを知っているのかと冰の方が不思議顔だ。
「もしかして白龍たちは俺がディーラーと勝負する前からあのお店に来てたの?」
実はそうなのだ。ちょうど周らが到着したのは、まさに冰がカードゲームのテーブルに着いた時だった。
「丹羽たち警察が外濠を固めるのに少し時間が必要だったんでな。何かあればすぐに助けに入るつもりで俺とカネはお前の後方で待機していたんだが、お前が店中の客の目を引きつけてくれたお陰で丹羽もやりやすかったそうだぞ」
「ええー! そうだったんだー」
「相変わらずにすごい腕前だった。ゲームに関しては言うまでもねえが、そこへ持っていくまでの過程がな。周囲までも自然と味方につけながら相手を追い詰めていく手腕はまさに圧巻だった。カネんところの源次郎さんなんか詰将棋を見ているようだと言って感激しきりだったぜ」
冰はすっかり驚かされてしまった。まさか皆がそんな早くから見守ってくれていたとは夢にも思わなかったからだ。
「あ、でも……」
言い掛けて冰はポッと頬を染めた。
「そうだよ、俺ね、なんとなく一人じゃないって思ってたんだ。もちろんあの時は白龍たちが来てくれてるなんて気がついてたわけじゃないんだけど……。ただ……なんて言うのかな、実際には側にいられなくても俺にはいつも白龍がついててくれるんだから何があっても大丈夫っていうか……だから怖くないって思えたんだよ」
「一心同体――か。まさにお前がさっき言ってくれた言葉の通りなんだな、俺たちは」
「白龍……。ん、うん! そうだよね。だって俺たちは」
夫婦なんだから!
二人同時にハモっては、また同時に噴き出してしまった。
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