極道恋事情

一園木蓮

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孤高のマフィア

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「離して欲しけりゃ二度と氷川さんに近寄らないって約束しろよ! 俺はなぁ、お前なんかのせいで警察にしょっ引かれて……散々な目に遭ったんだ! 親父にはみっともねえって言われて専務を外された! もう口すら聞いてくれなくなったし、これじゃ解雇も同然だ! それだけじゃねえ! 女房までもが子供を連れて実家に帰っちまった! 従業員からは白い目で見られて蔑まれた……。お前のせいで全てを失ったんだぞ! 今すぐ氷川さんと別れるって言え! そんでもって二度と氷川さんの前にツラを見せないって約束しろよ! そうしたらこのジジイは離してやる!」
「分かりました! あなたの言う通りにします! ですから早く真田さんをこちらに!」
 冰が手を差し出しながら一歩二歩と距離を詰め始めると、当の真田が必死にそれをとめた。
「冰さん! 来ちゃいけません! あなたは坊っちゃまのお側で生涯添い遂げるべき御方なんです! このような理不尽に屈することはなりませんぞ!」
 理不尽と言われて香山は頭に血が昇ってしまったようだ。
「黙れクソジジイ! 本当にぶっ殺されたいのか! だいたいてめえは何なんだ! そうまでしてあのクソガキを庇いてえわけか!」
「お若いの、こんなことをしても何もいいことなどありませんぞ! 例えこの老いぼれや冰さんを傷付けたとて、氷川の坊っちゃまがあなたに向き合うとお思いか?」
 核心を突かれて香山はますます頬を怒りの色に染め上げた。
「うるせえクソジジイ! 説教なんて聞きたかねえんだよッ! マジでホントにブチ殺すぞ!」
 勢いよく襟首を掴み上げたと同時に刃先が真田の手の甲を掠め、血が噴き出した。
「真田さん!」
 冰は蒼白となり、紫月と美紅にも緊張が走る。

 鮮血を目の当たりにして、冰の中で仄暗い何かが沸々と湧き上がり、これまではハラハラとしていたその表情からは次第に焦燥が失われていった。
 と同時に逆に落ち着き払った感情が冰を支配する。
 両手を大きく広げると香山に向かってゆっくりと距離を縮めた。

「香山さん、あなたは俺が気に入らないのでしょう? だったらその刃を向けるべきは俺でしょう。真田さんを離して俺を刺しなさい!」
 ジリリ、ジリリと縮められる距離に香山の方が焦燥感を募らせる。
「さ、指図するな! カッコつけやがって……! マ、マジで刺される度胸もないくせに……強がってんじゃねえよッ!」
 今度は真田を盾にするようにして首に突き付けていた刃物を背中へと移動させる。
「ほ、本当に殺すぞ……!」
「御託はいい。度胸がないのはあなたの方でしょう。早く真田さんを離して俺を刺しなさい。それとも向かってすら来れませんか? こんな大それたことをしでかした割には勇気がないんですね」
「う、うっせえクソガキッ! そんなに言うならホントに刺してやるぞ……」
「望むところです。いいからごちゃごちゃ言ってないで向かって来なさい! さあ早く!」
 冰はわざと勘に障る言葉を投げ付けながら、香山の意識を自分の方へ向けさせんと煽りを続けた。と、その時だった。後方から血相を変えた周が駆け付けて来てその名を呼ぶ声がした。
「冰! 真田!」
 待ち望んだその姿を目にした瞬間に香山がビクリと身構える。
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