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孤高のマフィア
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「ひ、氷川さん……」
「香山! てめえ、こんなことをしてただで済むと思うのか!」
周の厳しい声音が夜を切り裂くようだ。都心といえど、船宿がなるべく人目につかない場所から乗船させてくれたので、辺りに人影は見当たらない。騒ぎを聞きつけて通報してくれる者も望めない中で真田を人質に取られていてはさすがの周とておいそれとは手が出せずに香山との睨み合いが続いた。
「氷川さん……聞いてください……俺だって本当はこんなことしたくないんです……! 当然……このじいさんにも恨みなんかないし、ただあなたの側に居たいだけなんです! あなたが俺の側にいてくれるならこの人はすぐに解放します! 俺はもう……親からも見捨てられたし、女房子供も実家に帰って……何もかも失いました……。もうあなたしかすがる所がないんです!」
呆れるほどに自分よがりな言い分だ。周の後方でそのやり取りを窺っていた僚一が、真田を救出すべくすぐさま作戦を口にした。
「隼、風、お前たち二人は焔を援護する形で犯人の注意を前方に引きつけてくれ。遼二は俺と共にヤツの背後に回って左右から挟み込む形で待機。隙を見せたところを一気に制圧する。それと同時に隼たちは真田氏と冰を保護してくれ」
「分かった。僚一、頼んだぞ」
鐘崎親子がその場を離れると、隼と風はすぐさま周の側まで駆け寄り援護に掛かった。
「焔、退け! そいつが香山か」
「稀に見るクズだな。ご老体を相手に刃物を振りかざすしかできねえとは呆れて物も言えん」
隼と風が周に向かって鐘崎親子の作戦を視線だけで伝えながら、わざと勘に障る言葉で交互に香山を煽る。周本人もすぐにその意に気付くと、ひとまずこの場を二人に任せていつでも冰と真田を保護できるようにと態勢を整えた。
「な、なんだテメエらは! ば、バカにしやがって……どこのどいつだ!」
「てめえのようなクズに名乗る筋合いはねえな」
「腹が立ったならその獲物を振りかざして俺たちに向けてみやがれ! いくらでも相手になってやるぞ?」
クイクイっと大袈裟な調子で手招きをし、わざと小馬鹿にしたように笑ってみせる。
「まあ、無理だろうな。女子供やご老体を相手にすら丸腰で渡り合えねえようなクズ野郎だ。到底そんな気概はなかろうさ」
「それもそうだな。男の風上にも置けん」
情けない野郎だというように、ここでも大袈裟に肩をすくめながら二人で嘲笑を繰り返す。
香山にしてみればさすがに堪らなかったのだろう。既に人質に取っている真田のことなどすっかり忘れたようにして、茹蛸のように顔を真っ赤にしながらワナワナと全身を震わせた。
「クソッ……! 黙って聞いてりゃ言いたい放題言いやがって! お、俺をバ、バカにするな……! それ以上言ったらホントにぶっ殺すぞ……!」
作戦通り香山の意識が真田から離れたのを機に、
「おい!」
鐘崎親子が背後から突如大声で呼び掛けたと同時に後ろを振り返った香山を一撃で制圧した。それと同時に周が冰と真田を保護、大きな懐の中に二人を抱き締めた。
「白龍!」
「坊っちゃま!」
「ああ、ああ……すまなかった!」
無事を確かめる周の身体は小刻みに震えていて、それは安堵と共に香山に対する許し難い思いの表れでもあった。
「香山! てめえ、こんなことをしてただで済むと思うのか!」
周の厳しい声音が夜を切り裂くようだ。都心といえど、船宿がなるべく人目につかない場所から乗船させてくれたので、辺りに人影は見当たらない。騒ぎを聞きつけて通報してくれる者も望めない中で真田を人質に取られていてはさすがの周とておいそれとは手が出せずに香山との睨み合いが続いた。
「氷川さん……聞いてください……俺だって本当はこんなことしたくないんです……! 当然……このじいさんにも恨みなんかないし、ただあなたの側に居たいだけなんです! あなたが俺の側にいてくれるならこの人はすぐに解放します! 俺はもう……親からも見捨てられたし、女房子供も実家に帰って……何もかも失いました……。もうあなたしかすがる所がないんです!」
呆れるほどに自分よがりな言い分だ。周の後方でそのやり取りを窺っていた僚一が、真田を救出すべくすぐさま作戦を口にした。
「隼、風、お前たち二人は焔を援護する形で犯人の注意を前方に引きつけてくれ。遼二は俺と共にヤツの背後に回って左右から挟み込む形で待機。隙を見せたところを一気に制圧する。それと同時に隼たちは真田氏と冰を保護してくれ」
「分かった。僚一、頼んだぞ」
鐘崎親子がその場を離れると、隼と風はすぐさま周の側まで駆け寄り援護に掛かった。
「焔、退け! そいつが香山か」
「稀に見るクズだな。ご老体を相手に刃物を振りかざすしかできねえとは呆れて物も言えん」
隼と風が周に向かって鐘崎親子の作戦を視線だけで伝えながら、わざと勘に障る言葉で交互に香山を煽る。周本人もすぐにその意に気付くと、ひとまずこの場を二人に任せていつでも冰と真田を保護できるようにと態勢を整えた。
「な、なんだテメエらは! ば、バカにしやがって……どこのどいつだ!」
「てめえのようなクズに名乗る筋合いはねえな」
「腹が立ったならその獲物を振りかざして俺たちに向けてみやがれ! いくらでも相手になってやるぞ?」
クイクイっと大袈裟な調子で手招きをし、わざと小馬鹿にしたように笑ってみせる。
「まあ、無理だろうな。女子供やご老体を相手にすら丸腰で渡り合えねえようなクズ野郎だ。到底そんな気概はなかろうさ」
「それもそうだな。男の風上にも置けん」
情けない野郎だというように、ここでも大袈裟に肩をすくめながら二人で嘲笑を繰り返す。
香山にしてみればさすがに堪らなかったのだろう。既に人質に取っている真田のことなどすっかり忘れたようにして、茹蛸のように顔を真っ赤にしながらワナワナと全身を震わせた。
「クソッ……! 黙って聞いてりゃ言いたい放題言いやがって! お、俺をバ、バカにするな……! それ以上言ったらホントにぶっ殺すぞ……!」
作戦通り香山の意識が真田から離れたのを機に、
「おい!」
鐘崎親子が背後から突如大声で呼び掛けたと同時に後ろを振り返った香山を一撃で制圧した。それと同時に周が冰と真田を保護、大きな懐の中に二人を抱き締めた。
「白龍!」
「坊っちゃま!」
「ああ、ああ……すまなかった!」
無事を確かめる周の身体は小刻みに震えていて、それは安堵と共に香山に対する許し難い思いの表れでもあった。
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