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謀反
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これらを冰に見せれば心を痛めることは分かっていた。だが、隠したとしても逆に不安にさせかねない。
「冰、辛い気持ちは分かる。だがお前は氷川の唯一無二の伴侶だ。俺は情報をお前に隠して蚊帳の外に置くのは違うと思っている。それよりも今は皆で一丸となって氷川の行方を突き止めることに全力を尽くそう」
鐘崎に激励されて、冰は涙ながらにうなずいた。
(そうだよ。泣いてる場合じゃないよね。俺が拉致に遭った時には白龍はいつも出来得る限りのことをして助ける道を考えてくれた。多分、今の俺と同じように不安だったに違いないだろうけど、一生懸命俺を捜し出すことに力を尽くしてくれたんだ。今度は俺が白龍を助ける為にできることは何でもしなきゃ……!)
冰は涙を拭うと、鐘崎らが持ち帰って来た周の所持品をひとつひとつ丁寧に確かめていった。
スーツを見れば愛しさが込み上げて、再び涙が溢れ出そうになる。『先に休んでいていいからな』そう言っていつものようにあの大きくて温かい手で頭を撫でてくれた。『おかえり』と言ってこの上着を受け取り、ハンガーにかけてやるはずだった。そんな気持ちを懸命に堪えて涙を拭う。
腕時計、財布、胸ポケットに入れているボールペン。シャツにネクタイ、靴下にハンカチ、大きなサイズの革靴。それらを順番に確かめながら、冰はふとあることに気がついて鐘崎を振り返った。
「鐘崎さん! あの……スマートフォンが見当たりませんが……」
確かに他の物は全て揃っているというのにスマートフォンだけが無いのは不可解だ。むろんのこと鐘崎もそれには気が付いていたわけだが、おそらくは敵が持って行ったのではないかと言った。
「スマートフォンには様々情報が入っているからな。連絡先ひとつにしてもそうだが、敵にとっても何かしら得になりそうな情報があると思ったんだろう。もしくはスマートフォンの中味自体が目的という可能性もある」
確かに周ほどの人物ともなれば、アドレス帳だけでも非常にレアといえる情報源だ。GPSを潰す為に電源を切って持ち去ったと考えるのが自然だ。
「……そうですよね。じゃあスマートフォンは犯人が持って行ってしまったのかも知れませんね」
冰はスマートフォン自体ももちろんだが、お揃いで付けているストラップのことを思い浮かべていた。初めて周と結ばれた日にもらった大切な宝物だ。
「白龍……」
(今、どこでどうしているの? 容態はどうなの? 怪我はしていない? 犯人に何か酷いことをされたりしていない?)
まるで周に問い掛けるように心の中でそう呟く。
なぁ、冰。俺たちは一心同体の夫婦なんだからな。何があっても、例え側にいられなくても魂はいつでも繋がってる。それだけは忘れてくれるなよ。
そんなふうに言ってくれた周の笑顔が脳裏に浮かんでは、また涙が溢れてくる。
(あ……! でも……そうだよね。俺たちは一心同体の夫婦なんだ……。だったら俺にはきっと白龍の考えてる事が分かるはずだよ!)
冰は事故に遭った瞬間から周が何を考えどう行動したのかを思い浮かべてみることにした。
「冰、辛い気持ちは分かる。だがお前は氷川の唯一無二の伴侶だ。俺は情報をお前に隠して蚊帳の外に置くのは違うと思っている。それよりも今は皆で一丸となって氷川の行方を突き止めることに全力を尽くそう」
鐘崎に激励されて、冰は涙ながらにうなずいた。
(そうだよ。泣いてる場合じゃないよね。俺が拉致に遭った時には白龍はいつも出来得る限りのことをして助ける道を考えてくれた。多分、今の俺と同じように不安だったに違いないだろうけど、一生懸命俺を捜し出すことに力を尽くしてくれたんだ。今度は俺が白龍を助ける為にできることは何でもしなきゃ……!)
冰は涙を拭うと、鐘崎らが持ち帰って来た周の所持品をひとつひとつ丁寧に確かめていった。
スーツを見れば愛しさが込み上げて、再び涙が溢れ出そうになる。『先に休んでいていいからな』そう言っていつものようにあの大きくて温かい手で頭を撫でてくれた。『おかえり』と言ってこの上着を受け取り、ハンガーにかけてやるはずだった。そんな気持ちを懸命に堪えて涙を拭う。
腕時計、財布、胸ポケットに入れているボールペン。シャツにネクタイ、靴下にハンカチ、大きなサイズの革靴。それらを順番に確かめながら、冰はふとあることに気がついて鐘崎を振り返った。
「鐘崎さん! あの……スマートフォンが見当たりませんが……」
確かに他の物は全て揃っているというのにスマートフォンだけが無いのは不可解だ。むろんのこと鐘崎もそれには気が付いていたわけだが、おそらくは敵が持って行ったのではないかと言った。
「スマートフォンには様々情報が入っているからな。連絡先ひとつにしてもそうだが、敵にとっても何かしら得になりそうな情報があると思ったんだろう。もしくはスマートフォンの中味自体が目的という可能性もある」
確かに周ほどの人物ともなれば、アドレス帳だけでも非常にレアといえる情報源だ。GPSを潰す為に電源を切って持ち去ったと考えるのが自然だ。
「……そうですよね。じゃあスマートフォンは犯人が持って行ってしまったのかも知れませんね」
冰はスマートフォン自体ももちろんだが、お揃いで付けているストラップのことを思い浮かべていた。初めて周と結ばれた日にもらった大切な宝物だ。
「白龍……」
(今、どこでどうしているの? 容態はどうなの? 怪我はしていない? 犯人に何か酷いことをされたりしていない?)
まるで周に問い掛けるように心の中でそう呟く。
なぁ、冰。俺たちは一心同体の夫婦なんだからな。何があっても、例え側にいられなくても魂はいつでも繋がってる。それだけは忘れてくれるなよ。
そんなふうに言ってくれた周の笑顔が脳裏に浮かんでは、また涙が溢れてくる。
(あ……! でも……そうだよね。俺たちは一心同体の夫婦なんだ……。だったら俺にはきっと白龍の考えてる事が分かるはずだよ!)
冰は事故に遭った瞬間から周が何を考えどう行動したのかを思い浮かべてみることにした。
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