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謀反
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事故の瞬間は確かに衝撃が凄かったのだろう。ほんの一瞬でも気を失ったかも知れない。もしくは意識を失ったまま連れ去られてしまったのかも知れない。だがもし、周に僅かばかりでも意識があったとしたら、どう行動するだろう。
(まずは通報だ。白龍たちは非常事態に陥った時にはそれを仲間に知らせるメッセージを持っていたはず……。一斉に鐘崎さんや李さん、源次郎さんたちにも通知されるという暗号化されたメッセージだ)
以前、宝飾店での大量拉致事件の際には鐘崎が周や源次郎に緊急事態を知らせんとして一斉送信したこともある例のメッセージである。あの時はMG55という内容だった。
今回も事故直後に犯人が車に駆け寄って来ることに気が付いたとすれば、周ならばまずは鐘崎らに向けてそういったメッセージを発信したはずである。その際には当然スマートフォンを使ったはずだ。だが鐘崎らはメッセージを受け取っていない。とすれば、送信する前に犯人と鉢合わせてしまい取り上げられたか、もしくは打撲などで身体がいうことをきかずにそれがままならなかったかだ。
(短文のメッセージを打つ余裕がなく、目の前には犯人が迫っていた。俺だったらどうする……? おそらく白龍が咄嗟に思い浮かべたのは鐘崎さんの顔だろう。李さんは一緒にいたんだから、頼るなら鐘崎さんしかいない。でも送信するには時間がない。この状況を鐘崎さんに伝える為に他にできる方法といったら……)
冰はハッと何かに閃いたように瞳を大きく瞬かせた。
「鐘崎さん! 紫月さん! 白龍たちが乗っていた車……今はどこにありますか?」
突如として大声を上げた冰を鐘崎と紫月の二人が振り返る。
「氷川たちの乗っていた車ってのは事故に遭った車両のことか? 今はまだ警察だが……」
「それ、もう一度見せていただくことはできないでしょうか? 昨夜は俺、気が動転してたので見過ごしちゃってたことが……今なら何か分かるかも知れないと思うんです! ちょっと確かめたいことがあって……」
「分かった。すぐに丹羽に連絡を入れる!」
冰は汐留の留守番を劉に任せると、鐘崎と紫月と共に事故車両が置いてある警察へと向かった。
保管場所に着くと、丹羽の手配のお陰でスムーズに車内を見せてもらうことができた。
「鑑識作業は一通り済んでおりますのでどうぞごゆっくり」
「ありがとうございます!」
冰はいつも周が座る後部座席に乗り込むと、車内を念入りに見渡した。そこで再び周の身になって考えを巡らせる。時には破れたフロントガラスを見つめ、手元には自分のスマートフォンを持って、尚且つ全身が打撲で辛い状況を想像する。
(犯人たちが前方から駆けて来る。鐘崎さんに連絡を取ろうとスマフォだけは手にしたけど身体が思うようにいうことをきかない。でも何か手掛かりを残して”カネ”にこの状況を伝えなければならない。だとしたら……)
どこからともなく周の声が重なってくるような気がする。まるで本当に魂が重なり合ってその時の状況を教えてくれているかのようだ。冰の脳裏には、手にしていたスマートフォンの録音ボタンを押して犯人が駆け付けるまでの僅かな間にそれを隠す周の行動が浮かんできた。
(確かに録音すれば後で誰かがこれを見つけてくれるかも知れない。白龍が咄嗟に隠すとしたら……ここ)
シートと背もたれの間に手を突っ込んだ瞬間に、何かが触れる。
「あった!」
なんとシートの奥の奥から周のスマートフォンが出てきたのだ。
(まずは通報だ。白龍たちは非常事態に陥った時にはそれを仲間に知らせるメッセージを持っていたはず……。一斉に鐘崎さんや李さん、源次郎さんたちにも通知されるという暗号化されたメッセージだ)
以前、宝飾店での大量拉致事件の際には鐘崎が周や源次郎に緊急事態を知らせんとして一斉送信したこともある例のメッセージである。あの時はMG55という内容だった。
今回も事故直後に犯人が車に駆け寄って来ることに気が付いたとすれば、周ならばまずは鐘崎らに向けてそういったメッセージを発信したはずである。その際には当然スマートフォンを使ったはずだ。だが鐘崎らはメッセージを受け取っていない。とすれば、送信する前に犯人と鉢合わせてしまい取り上げられたか、もしくは打撲などで身体がいうことをきかずにそれがままならなかったかだ。
(短文のメッセージを打つ余裕がなく、目の前には犯人が迫っていた。俺だったらどうする……? おそらく白龍が咄嗟に思い浮かべたのは鐘崎さんの顔だろう。李さんは一緒にいたんだから、頼るなら鐘崎さんしかいない。でも送信するには時間がない。この状況を鐘崎さんに伝える為に他にできる方法といったら……)
冰はハッと何かに閃いたように瞳を大きく瞬かせた。
「鐘崎さん! 紫月さん! 白龍たちが乗っていた車……今はどこにありますか?」
突如として大声を上げた冰を鐘崎と紫月の二人が振り返る。
「氷川たちの乗っていた車ってのは事故に遭った車両のことか? 今はまだ警察だが……」
「それ、もう一度見せていただくことはできないでしょうか? 昨夜は俺、気が動転してたので見過ごしちゃってたことが……今なら何か分かるかも知れないと思うんです! ちょっと確かめたいことがあって……」
「分かった。すぐに丹羽に連絡を入れる!」
冰は汐留の留守番を劉に任せると、鐘崎と紫月と共に事故車両が置いてある警察へと向かった。
保管場所に着くと、丹羽の手配のお陰でスムーズに車内を見せてもらうことができた。
「鑑識作業は一通り済んでおりますのでどうぞごゆっくり」
「ありがとうございます!」
冰はいつも周が座る後部座席に乗り込むと、車内を念入りに見渡した。そこで再び周の身になって考えを巡らせる。時には破れたフロントガラスを見つめ、手元には自分のスマートフォンを持って、尚且つ全身が打撲で辛い状況を想像する。
(犯人たちが前方から駆けて来る。鐘崎さんに連絡を取ろうとスマフォだけは手にしたけど身体が思うようにいうことをきかない。でも何か手掛かりを残して”カネ”にこの状況を伝えなければならない。だとしたら……)
どこからともなく周の声が重なってくるような気がする。まるで本当に魂が重なり合ってその時の状況を教えてくれているかのようだ。冰の脳裏には、手にしていたスマートフォンの録音ボタンを押して犯人が駆け付けるまでの僅かな間にそれを隠す周の行動が浮かんできた。
(確かに録音すれば後で誰かがこれを見つけてくれるかも知れない。白龍が咄嗟に隠すとしたら……ここ)
シートと背もたれの間に手を突っ込んだ瞬間に、何かが触れる。
「あった!」
なんとシートの奥の奥から周のスマートフォンが出てきたのだ。
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