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謀反
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「仕方ねえから二人で何とか出口を探そうとしたんだが、あの人は俺に付いてくるだけで自分じゃ何もしやしねえ! 道を探すわけでもなけりゃ、ただボケっとしてて……あの人と一緒にいたんじゃこっちまでお陀仏だ!」
だから見捨てて置いて来たというのだ。
「冗談じゃない!」
冰は真っ青になりながら香山がやって来た方向へと駆け出した。
「行っても無駄だぜ! あの人は岩に座ったっきり動こうともしなかったから置いて来たんだ。今頃は水に埋まってとっくに流されちまってるだろうよ! それよりアンタも早く逃げた方がいいぜ!」
「……ふざけんなッ!」
冰は堪らずに舌打ちながらも、必死の形相で河川へと走った。
「親切で言ってやってるのによ!」
遠くから香山が罵倒する声が聞こえたが、最早そんなことはどうでもよかった。
「姐さんッ! 待ってください、姐さん!」
ロンもまた冰を追おうと駆け出したが、香山に捕まってしまい、出口を教えろとせがまれた。
「あんた、地元の人間か? ここいらのことには詳しいんだろ? だったら出口を教えてくれ!」
「出口はそっちだ! ここを真っ直ぐ行きゃ俺の仲間がいる。一本道だから迷うこたぁねえ」
「本当だろうな? 嘘付いたら許さねえぞ! つーか、あんたが途中まで案内してくれよ!」
「そんな暇はねえ! こちとらそれどころじゃねえんだ!」
「見捨てるってのか? 他所者だからって邪険にしたら地元民の評判にかかわるぜ!」
どうやら一人で行くことに不安があるのか、がっしりと腕を掴んだまま離さない勢いだ。そんな彼をなんとかして振り払いながら、来た道を指差して方向だけ教えると、ロンは必死に冰の後を追ったのだった。
一方の冰は無我夢中で真っ暗な坑道を突き進んでいた。
水の音が大きくなる毎に辺りの空気もひんやりとしてくる。そんな中、河川が見えてきた少し手前の窪地に身体半分まで水に浸かって座り込んでいる人影を見つけた。
灯りを向けると、それは紛れもなく周であった。
「白龍ッ!」
岩壁に寄り掛かるようにしてぐったりと目を閉じている。顔色は真っ白で血の気を失っている。そんな様子を目にしただけで一気に心拍数が爆発する。ドキドキと脈打つ動悸を抑えながらも冰は夢中で水溜りに潜り込んで屈むと、彼の胸元へと耳を当て、心臓音を確かめた。
水音がうるさくて邪魔だが、微かに脈打つ感覚がはっきりと耳を揺さぶる。
(よかった! 生きてる――!)
「白龍ッ! 白龍、しっかりして!」
両腕を彼の脇の下へと突っ込んで一気に引き摺り上げんと試みるも、半分以上水に浸かっているのでスーツも水を含んでいて相当に重い。
「……ッん! フッ、くぉおおおーーー!」
力んでも力んでもなかなか思うように立たせられない。
ふと触れた周の手が氷のように冷たくて、冰はカッと身体中が燃えるように熱くなるのを感じた。
急がなきゃ……! この手……大きくて温かくて、いつも俺の頭を撫でてくれたこの手を本当に氷のように冷たくしてしまうなんて絶対にあっちゃならないッ……!
「白龍! ちょっと痛いかもだけど我慢してね! うりゃあーーー!」
普通の状態からすれば抱え上げることさえ無理に等しいが、火事場の馬鹿力の如く気力だけが冰を突き動かした。持てる力の全てで再び抱き上げると、今度は水の中から引きずり上げることに成功する。
「いけそうか……しっかり、白龍ッ! 必ず助けるからねッ!」
冰は彼を岩肌へと押し付けながら立たせると、自分の背におぶるようにして担ぎ上げた。
だから見捨てて置いて来たというのだ。
「冗談じゃない!」
冰は真っ青になりながら香山がやって来た方向へと駆け出した。
「行っても無駄だぜ! あの人は岩に座ったっきり動こうともしなかったから置いて来たんだ。今頃は水に埋まってとっくに流されちまってるだろうよ! それよりアンタも早く逃げた方がいいぜ!」
「……ふざけんなッ!」
冰は堪らずに舌打ちながらも、必死の形相で河川へと走った。
「親切で言ってやってるのによ!」
遠くから香山が罵倒する声が聞こえたが、最早そんなことはどうでもよかった。
「姐さんッ! 待ってください、姐さん!」
ロンもまた冰を追おうと駆け出したが、香山に捕まってしまい、出口を教えろとせがまれた。
「あんた、地元の人間か? ここいらのことには詳しいんだろ? だったら出口を教えてくれ!」
「出口はそっちだ! ここを真っ直ぐ行きゃ俺の仲間がいる。一本道だから迷うこたぁねえ」
「本当だろうな? 嘘付いたら許さねえぞ! つーか、あんたが途中まで案内してくれよ!」
「そんな暇はねえ! こちとらそれどころじゃねえんだ!」
「見捨てるってのか? 他所者だからって邪険にしたら地元民の評判にかかわるぜ!」
どうやら一人で行くことに不安があるのか、がっしりと腕を掴んだまま離さない勢いだ。そんな彼をなんとかして振り払いながら、来た道を指差して方向だけ教えると、ロンは必死に冰の後を追ったのだった。
一方の冰は無我夢中で真っ暗な坑道を突き進んでいた。
水の音が大きくなる毎に辺りの空気もひんやりとしてくる。そんな中、河川が見えてきた少し手前の窪地に身体半分まで水に浸かって座り込んでいる人影を見つけた。
灯りを向けると、それは紛れもなく周であった。
「白龍ッ!」
岩壁に寄り掛かるようにしてぐったりと目を閉じている。顔色は真っ白で血の気を失っている。そんな様子を目にしただけで一気に心拍数が爆発する。ドキドキと脈打つ動悸を抑えながらも冰は夢中で水溜りに潜り込んで屈むと、彼の胸元へと耳を当て、心臓音を確かめた。
水音がうるさくて邪魔だが、微かに脈打つ感覚がはっきりと耳を揺さぶる。
(よかった! 生きてる――!)
「白龍ッ! 白龍、しっかりして!」
両腕を彼の脇の下へと突っ込んで一気に引き摺り上げんと試みるも、半分以上水に浸かっているのでスーツも水を含んでいて相当に重い。
「……ッん! フッ、くぉおおおーーー!」
力んでも力んでもなかなか思うように立たせられない。
ふと触れた周の手が氷のように冷たくて、冰はカッと身体中が燃えるように熱くなるのを感じた。
急がなきゃ……! この手……大きくて温かくて、いつも俺の頭を撫でてくれたこの手を本当に氷のように冷たくしてしまうなんて絶対にあっちゃならないッ……!
「白龍! ちょっと痛いかもだけど我慢してね! うりゃあーーー!」
普通の状態からすれば抱え上げることさえ無理に等しいが、火事場の馬鹿力の如く気力だけが冰を突き動かした。持てる力の全てで再び抱き上げると、今度は水の中から引きずり上げることに成功する。
「いけそうか……しっかり、白龍ッ! 必ず助けるからねッ!」
冰は彼を岩肌へと押し付けながら立たせると、自分の背におぶるようにして担ぎ上げた。
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