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謀反
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「んもう! 白龍も鐘崎さんも……どうして男ってこう恥ずかしいことばっか平気で言うんだろう」
両手で顔を押さえてアワアワとしている冰に、
「何言ってー! 冰君だって男だべ?」
紫月までもが冷やかしながら肩をツンツンとつついてくる。
「ヤダ、もうー! 紫月さんまで!」
すっかり茹蛸状態の冰に、全員がドッと湧く。賑やかな笑い声に包まれるダイニングのパノラマの窓からは、その幸せあふれる数々の笑顔を讃えるかのように降りそそぐ午後の陽射しが大都会の街並みをキラキラと照らし出していたのだった。
その日の夜は周の快気祝いということで、鐘崎らや医師の鄧、李と劉に運転手の宋も加わって、皆で祝膳を囲むこととなった。
真田が張り切って用意した膳には言葉通り鯛のお頭付きと赤飯、それに合わせた純和食の豪勢な食卓が華やかだ。いつもは周と二人のダイニングはまるで花が咲き誇ったように賑やかな設えとなって、冰も喜び倍増であった。
その倍増が更に倍増となったのは、皆で乾杯を始めようとしていた時だ。なんと香港からファミリーが駆け付けて来たのだ。
父の隼に継母の香蘭、兄の風に義姉の美紅、そして今回は実母のあゆみも一緒だった。
冰からの報告の電話を受けて、即座に飛んでやって来たのだそうだ。あの後すぐに着替えもそこそこにして大急ぎで飛行場へと向かったという。
ファミリーのサプライズともいえる心遣いに周はもちろんのこと、冰もまた嬉し涙を誘われるほどに喜んで、快気祝いの宴は幸せに満ちあふれたのだった。
「焔、今回は本当にすまなかった。俺がブレーンを決めた人事が発端となってお前には気の毒な思いをさせてしまった」
申し訳ない、この通りだと深く謝罪をした兄の風と共に、その妻の美紅も揃って頭を下げた。
「白龍にも、それに冰にも周りの皆様にも……多大な心配とご苦労を掛けてしまったわ。本当にごめんなさい」
「兄貴! 義姉さんも……! 頭を上げてくれ。兄貴のせいじゃねえんだ。それに鉱山まで助けに来てもらって、礼を言わなきゃならねえのは俺の方だって」
「そうですよ。皆さんが全力で助けてくださったお陰で俺も白龍もこうして無事でいられたのですから!」
周も冰も恐縮してしまう。兄の風も美紅も周らの言葉を有り難く受け止めて、再度頭を下げた。
「ところで焔、羅辰らと一緒にいた例の香山という男だがな。あれからヤツの行方に関して調べを進めていたんだが、ようやくと詳細が掴めたところでな」
父の隼が口を挟んだ。
鉱山の落盤によって羅辰らの遺体が発見されたのは過日報告を受けた通りだが、その中に香山の存在はなかった。香山には冰も現地で顔を合わせており、ロンが出口までの道のりを教えたはずである。だが、その出口で待機していた隼たちの前にも香山は姿を現さなかったというのだ。
おそらくはロンから道順を聞いた後に、また道に迷ったものと思われたが、その後の行方は知れずじまいだった。鉱山でも見掛けた者はいないというし、遺体が発見されたわけでもない。気に掛かった隼が風と共に調べを進めたところ、ようやくとその行方が掴めたというのだ。
両手で顔を押さえてアワアワとしている冰に、
「何言ってー! 冰君だって男だべ?」
紫月までもが冷やかしながら肩をツンツンとつついてくる。
「ヤダ、もうー! 紫月さんまで!」
すっかり茹蛸状態の冰に、全員がドッと湧く。賑やかな笑い声に包まれるダイニングのパノラマの窓からは、その幸せあふれる数々の笑顔を讃えるかのように降りそそぐ午後の陽射しが大都会の街並みをキラキラと照らし出していたのだった。
その日の夜は周の快気祝いということで、鐘崎らや医師の鄧、李と劉に運転手の宋も加わって、皆で祝膳を囲むこととなった。
真田が張り切って用意した膳には言葉通り鯛のお頭付きと赤飯、それに合わせた純和食の豪勢な食卓が華やかだ。いつもは周と二人のダイニングはまるで花が咲き誇ったように賑やかな設えとなって、冰も喜び倍増であった。
その倍増が更に倍増となったのは、皆で乾杯を始めようとしていた時だ。なんと香港からファミリーが駆け付けて来たのだ。
父の隼に継母の香蘭、兄の風に義姉の美紅、そして今回は実母のあゆみも一緒だった。
冰からの報告の電話を受けて、即座に飛んでやって来たのだそうだ。あの後すぐに着替えもそこそこにして大急ぎで飛行場へと向かったという。
ファミリーのサプライズともいえる心遣いに周はもちろんのこと、冰もまた嬉し涙を誘われるほどに喜んで、快気祝いの宴は幸せに満ちあふれたのだった。
「焔、今回は本当にすまなかった。俺がブレーンを決めた人事が発端となってお前には気の毒な思いをさせてしまった」
申し訳ない、この通りだと深く謝罪をした兄の風と共に、その妻の美紅も揃って頭を下げた。
「白龍にも、それに冰にも周りの皆様にも……多大な心配とご苦労を掛けてしまったわ。本当にごめんなさい」
「兄貴! 義姉さんも……! 頭を上げてくれ。兄貴のせいじゃねえんだ。それに鉱山まで助けに来てもらって、礼を言わなきゃならねえのは俺の方だって」
「そうですよ。皆さんが全力で助けてくださったお陰で俺も白龍もこうして無事でいられたのですから!」
周も冰も恐縮してしまう。兄の風も美紅も周らの言葉を有り難く受け止めて、再度頭を下げた。
「ところで焔、羅辰らと一緒にいた例の香山という男だがな。あれからヤツの行方に関して調べを進めていたんだが、ようやくと詳細が掴めたところでな」
父の隼が口を挟んだ。
鉱山の落盤によって羅辰らの遺体が発見されたのは過日報告を受けた通りだが、その中に香山の存在はなかった。香山には冰も現地で顔を合わせており、ロンが出口までの道のりを教えたはずである。だが、その出口で待機していた隼たちの前にも香山は姿を現さなかったというのだ。
おそらくはロンから道順を聞いた後に、また道に迷ったものと思われたが、その後の行方は知れずじまいだった。鉱山でも見掛けた者はいないというし、遺体が発見されたわけでもない。気に掛かった隼が風と共に調べを進めたところ、ようやくとその行方が掴めたというのだ。
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